二話『はじめてのねこさがし』
例えばの話、発見された猫の死体が一匹や二匹ならば不運な事故で済まされたのかもしれない。
だが四匹を越えればそれは異常な事だ。
さらには首を切断されていたり腹を切られていたりすればなおさら。
最初の死体が見つかってから一週間。その数は今や六匹に増えている。
もともと野良猫の多い地域だ。格好の餌食となるには容易かったのだろう。
「…何か学校から言われてないの~? 危ない人いるよ、とか~」
「終業式の時にならいっぱい言われたけど。『いかのおすし』だろ?」
「ううん、入ってから」
「だって休みだから学校行かないもん」
「それもそっか~」
連絡網で回っていたとしても、完全には行き届いていないのだろう。
そもそも子供がそのような注意を素直に聞くとも思えない。
「何故、いきなり、猫、さがす?」
姫香の情報不足な問いでも言いたいことは分かったようだ。
答えたのは夏梨だ。
「おばあちゃんのみーちゃんがね、いなくなっちゃってね」
少しだけ泣きそうな声音だった。
それからポケットから取り出したのは写真を入れることが出来るストラップだった。
その中には太々しい顔をしたブチ猫が映っている。
「あのね、すごいおばあちゃん落ち込んでたの。だからさがしてあげたくて」
「たんていなら猫さがしもかんたんでしょ?」
大地は期待に満ちた目で探偵事務所の所長を見る。
無垢で純粋な小学生を相手に、さすがに城野もまごつく。
探偵事務員がほぼ同時にここ最近の仕事を思い出す。誘拐、殺人ムービー、立てこもり…おおよそ探偵の仕事は言えなかったし、探偵の定義を改めて問われると困る。
「探し物は言うほど簡単じゃないんだよ…。俺なんて数年前からずっと『未来』を探しているのに見つからないぞ」
「え、所長の場合は『髪』じゃないんですか?」
夜弦にティッシュ箱がクリーンヒットした。
箱と熱烈なキスを交わした青年を横目に城野は天井を仰いだ。
「…ブチ猫。他に特徴は?」
「え?」
「首輪をつけているとか、名前を呼んだら来るとか。外で飼っていたのか? それとも家の中で?」
矢継ぎ早に質問をされ三人組は顔を見合わせる。
そうして、じわじわと質問の意図を理解したようだ。
「さがしてくれるの!?」
「聞いただけだよ馬鹿」
「なんだよケチ!」
「ハゲ!」
「だからスキンヘッドだと何べん言ったら分かるのか」
子供たちはさんざん文句を垂れながらも教えてくれた。
城野はメモに取る。ちなみにそこに書かれている文字を解読できるのは城野とギリギリで百子だけだ。
ミミズが瀕死でのたうっているような文字は、人類にはまだ早すぎる文字である。
「もしかしたら勝手に戻ってくるかもしれない。だからあんまり変なところに行ったりはするな」
「なんだよ、大人みたいじゃん」
「大人なんだけどな」
お茶を飲み干すと、彼らは順々に立ち上がった。
「ごちそーさまー!」
「これからの予定は?」
「猫さがし!」
「やっぱりな」
「ほどほどにね~。暑いから気を付けるんだよ」
元気な挨拶と共に騒がしく大地、林太、夏梨は出ていく。
咲夜はごみを片付けながらぼそりと言った。
「これでトラブルに巻き込まれたら夢見が悪いですね」
「それなんだよ。あいつらっていつもの冷やかし小学生だろ、ヒメ」
「そう」
「まったく知らないガキならともかくなぁ…」
「ほっとけないあたりケンちゃんもお人よしだよね~」
一応他の探偵事務所に情報送ろうかと話し合っている時だ。
四人の輪から外れ、一人出掛ける準備を始めるものがいた。
「…ヒメ?」
よどみない動作で扉に向かった義妹に城野は訝しげに呼びかける。
少女は振り向き、ただ一言。
「猫、さがす」