1章 1話
世界にとって《それ》は神様の余計なお世話だった。
いや、神様はきっと純粋なる善意をもって人類に《それ》をくださったのだろうが、あいにくと人間は私利私欲にまみれた生き物なのだ。
《それ》
初めて発見されたのは古代ヨーロッパであった。
当時、ラテン語が主要言語であった彼らは未知の存在として《id》と名付けた。
古代ヨーロッパで発見されて以後も《id》は不定周期で世界に現れた。
そして、遂に日本にも現界し《id》を直訳し《それ》と呼ばれるに到った。
では、その《id》とはなんなのだろうか?
一言でいうのならば、人を惑わす神秘の宝石達だ。
突如、ある地域に現れ、人間が有史以前から何千年と積み上げてきた物理法則を嘲笑うかのように超常現象を起こす宝石達。
ただそれだけであれば、諍いはそれほど大きくもならなかっただろう。
しかし、悪戯にも神はおまけの遊戯を用意した。
《7つの原石》
《id》のなかでも特別な宝石達を神は用意してしまったのだ。
そして、手にした人々にこう告げたのだ。
「7つを集め、君が望むならばすべての宝石達を消す代わりに君の願いを2つ叶えよう」
その囁きは所持者を惑わすには十分だった。
だってそうだろう?
人間なんて、欲以上に嫉妬にまみれた生き物なのだから。
“力を持つのは自分だけで良い”
誰だって心の奥に持っているだろうその感情を神は理解できなかったのか。
それとも、神とは理解したうえで行う悪魔だっだのだろうか。
どちらにせよ、《id》は人々に後悔しか生まなかった。
だが俺はそんな脇役たちとは違う。
たとえ神であろうと悪魔であろうと、俺を主人公たらしめたことに感謝している。
だから今日も神の遊戯に付き合い、5つ目の原石を探し求めるのだ。