プロローグ
主人公補正。この言葉に対する考え方は人それぞれだ。
物語の主人公補正に関しては、ハッピーエンド至上主義者ならば喜んで受け入れるかもしれないし、創作物までにもリアリティーを求めるナンセンスな奴は超展開だなんだと怒り狂うかもしれない。
現実にも主人公はいる。なにも、一人一人が自分の人生の主人公なんて暑苦しいことを言ってるわけじゃあない。むしろ、現実は物語よりも過酷に、才能あるいは神からの愛され方のようなものを感じさせられる。
だからこそ俺は謝っておこう。脇役の皆さんに。
だって、これは俺が主人公の物語であり、現実だから。
煙くさい焼肉屋から一歩踏み出すと、吹き寄せる風に秋の終わりを感じる。助っ人として出た野球の地区予選優勝の打ち上げで主役を張るのは部員ではない俺にとっては申し訳ない気がしないでもないから早めに切り上げたが正解だったようだ。
電信柱に背を預けてケータイを見つめる後輩を向かいに見つけ、音をたてないように立ち止まる。片足に体重をかけ、こつん、と地面を軽く蹴り、ため息ながらケータイを鏡代わりに前髪をチェックしているのは、俺の後輩で“ヒロイン”の王瑞妃だ。王なんだか妃なんだかわからない名前だが、周りからはワンちゃんと呼ばれているようだ。サイドテールにした少し長めの黒髪を犬が尻尾を追いかけるように気にする癖は確かに犬のようだし、なかなか特徴を練りこんだあだ名だとは思うが本人は中国人を祖父に持つクォーターであることを気にしているので複雑なようだ。
「瑞妃」
ビクッと体を小さく硬直させた後不機嫌そうに、遅いです。と不満を言いながらも、小走りで俺に近寄り、軽い謝罪を聞き流しながら横に並んで歩き始める。
「先輩もそろそろ時間を守れるようにしてください。何度も言いますけど先輩は子供すぎます。私のほうが大人っぽいですよ」
まったく正論だ。そして、繰り返しも大切だ。そう、繰り返しは大切なのだ。
繰り返し言おう、俺は主人公だ。助っ人として多くの運動部のヒーローであったり、可愛い後輩の彼女がいるからーーーなんてそんな小っちゃい理由からじゃない。
そう、そんなことはちっぽけなことだ。なぜなら、俺の日常はありふれた高校生活なんかじゃなくて、もっと別のところにあるのだから。