デアイ
その日は、夏にしては涼しい日だった。花凛は一人で家の近所にある神社を訪れていた。参拝客が少ないこの神社は、花凛のお気に入りの場所の一つだ。学校の帰りに立ち寄っては考え事をしたり、本を読んだりしている。しかし、今日訪れた理由は普段とは少し違った。
「…っく、うぅ…っ」
境内の隅にうずくまる花凛の頬を次々と流れていく水滴。…花凛はここに泣きに来たのだ。涙の理由は元彼との会話である。どうしても、心の整理がつかなくて、もう一度はっきりとふられれば諦めがつくと思ったのだ。
「未練がましい女の子でごめんね。…今でもあなたが好きです。彼女さんがいるのは知ってる。でも、私はあなたが好き」
そう言うと、彼は軽く目を見開き、そして困ったように笑った。
「そっか。…前も言ったけど、俺は花凛とは付き合えないから。もうそんなこと言いに来ないでくれよ」
困ったようにわらったまま紡がれた言葉は、花凛の心を抉るのには十分だった。花凛とは付き合えない。その言葉だけなら花凛はそこまで傷つかなかっただろう。しかし、もうそんなこと言いに来ないでくれ、という言葉が彼女を傷つけた。
私の気持ちは彼にとって迷惑なんだ。ということを突きつけられ、逃げるように神社へ駆け込み、境内にうずくまった。しばらく泣き続け、泣きやんだ頃には空は薄暗くなっていた。腫れて赤くなった目をこすりながら空を見上げる花凛。
…そろそろ帰らなきゃ。そう呟いて立ち上がったが、次の瞬間体を硬直させた。いつの間にか花凛の正面にある大きな岩の上に一人の少年が座っていたのだ。
「え、うそ、見てた…?」
呆然と少年を見つめる。少年は花凛の視線を受け止め、ゆっくりと口を開いた。