ナヤミ
ある夏の暑い日。高校生の花凛は友達の風歌と家路に着いていた。
「そう言えば花凛。花凛は彼氏作らないのー?」
ふと思いついたように風歌が言った。彼女は最近クラスの男子と付き合いはじめ、とても幸せそうなのだ。
「んー…。私は彼氏はいいかな」
躊躇いがちに言うと、風歌は軽く眉をひそめた。
「…花凛、もしかしてまだアレを消化できてないの?」
アレ、とは過去に花凛が経験した失恋のことである。半年程付き合っていた彼氏に"好きな人ができた"と言ってふられたのだ。
「…うん。今でも私は彼が好きだから…」
「はぁあ…。あのね、花凛。あなたが今でもあの人を好きなのはわかってる。でもね、あの人のことは忘れるべきなんだよ?あの人のためにも、あなたのためにも」
ため息混じりに諭す風歌。彼女の言うことももっともだ。…何しろ、その元彼には新しい彼女がいるのだから。ふられた自分がいつまでも想い続けるのは迷惑なのだ。頭では理解しているが、心が彼を求め続けているのもまた事実だった。俯き、じっと悩み込む花凛を風歌がぎゅっと抱きしめる。
「あなたがどういう結論を出してもあたしはそれを受け容れるからね。だから、納得いくまで考えなよ?」
「…ありがとう、風歌。やっぱり諦めないとダメなのかな…?」
「あたしはその方が花凛のためにも良いと思うけど。決めるのは花凛だから」
そう、決めるのは私。諦めるのも、想い続けるのも…。