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魔王・勇者夫婦が世界征服するようです  作者: ノルン@世界征服
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第一話 魔族領の勇者

今日二つ目ですね。見てくれる人が一人でもいてくだされば幸いです><

市場は多種多様な種族で賑わっていた。大声で自身の店の野菜やとれたての魚をアピールする小柄なドワーフの女性。生意気そうなツンツン髪のホビットの少年と、手を繋いで歩く、美しくさらさらとした金髪のエルフ。風の運んだ花びらを鼻の上に乗せてすんすんと鋭敏な嗅覚で楽しむ、茶髪でフワフワとしたタレミミを持つ犬獣族の少女……。その光景は王国領と比べてもさして変わらないものなんだなと、金髪をゆるふわにカールさせた小さな少女は感じた。

あの衝撃的な出来事から早くもひと月、勇者リィナ=フィオル=ユースディアの金色の瞳は王国民と大差ない平和な魔族領の日常を映し続けている。おそらくマオルはこの景色を私の双眸に焼き付けたかったのだろう。


「リィナ、この肉テラウマイぞっ!」

 どこからか脂ののった大ぶりの肉串を調達してきたローブ姿の少女は、魔導士らしからぬ肉食ぶりでそれを喰らっていた。いつの間にかフードは外れており、跳ねたガーネットの長髪を舞わせ、満足げに笑っている。だが、食べ終わると名残惜しそうに串をしばらくまわして大人しくしていた。

「――なあリィナ」

 そうして落ち着いた彼女――レリースは、思わずといった様子で言う。

「ここの人たちは人を差別しないんだな……」

 それは彼女たちにとって、この街において最も衝撃的な事だった。この世界において奴隷の存在しない街、というのは存在しえないものだという考えが常識だったのだ。世界の常識が覆されたのだから、驚かないはずもない。普段から見慣れている亜人族たちだが、王国での彼らと見比べると、別の生物ではないかというほどに幸せそうに日々を生きている。それを眺めていると、彼女らは考えずにはいられない。本来なら、彼らはこうして暮らしていたのではないかと。その未来が人によって奪われたのではないかと、そう思ってしまう。

「ここは温かいの、王国よりもずっと……」

 リィナは悲しそうに呟く。彼女が知る限り、この街より暖かい場所はきっと存在しえない。

この街が形としては理想なのだと、嫌でも思わされた。

「リィナ、この街は危険だ」

 そして、その様子を見たレリースが危険だと言い出すのも当然だった。

「――このままだと、お前は魔王を殺せなくなる」

「……それは」

 リィナは何か反論しようとして、言えなかった。事実彼女にはもう、マオルと殺しあう理由などなかった。ここは失ってはいけない場所であると、心の底から感じてしまっていた。

「おいっ、リィナ!」

 彼女はそこまでわかっていて、動かないほど愚鈍ではない。それは勇者としての業ではなく、リィナの本質的な部分、見た目とは裏腹な異常なまでの激情家の部分が起こさせた行動だった。

「レリース、私は勇者をやめるの」

 市場の出口に向かって歩き始めたリィナは言う。その瞳に、魔王の魔力に当てられたような感覚を覚えたのは彼女の気のせいではないのだろう。つまり、それだけの覚悟を、会話の中で持ってしまったのだ。そんな彼女に、レリースはもう何も言えないのだった――。




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 魔王マオル=ハルト=ルルスリアは、予想よりも随分と早い待ち人の登場に、思わず愉快気に口角を上げた。あの時とは違く、臣下もいつも通り城内にいる中、彼女は二度目の謁見を果たした。

「随分と血気立っているが、どうかしたか?」

 もう自分の魔力を隠そうともしない勇者リィナの姿に、マオルは内心恐怖する。狡猾に隠していたようだが、その放出魔力量は自身のそれとほぼ同等に感じたからだ。同時に、そんな彼女が起こす行動は一つしかないのだろうとも覚悟する。

「私と戦うの、魔王」

 言葉と同時に、彼女を中心に風が吹き荒れる。その荒さはまるで彼女の叫びであるかのように、マオルは感じた。

「これは、ちょっと危ないかも知れないな」

 大してマオルの魔力量は、静かに、しかし確実に増幅されていく。腰の愛剣、魔剣レグルムが妖しく光り、赤い粒子を撒く。

「それが魔剣レグルム、確かに強い魔力を感じるの。けど――、私のアークには、遠く及ばないの……!」

 リィナの足元に魔方陣が形成される。同時に光が彼女の右手に収束するかのように、巨大な白い剣が現れた。そして、収束された光は蒼となって霧散する。視認すらできないほどの聖光は、その手を微動するだけで尾を引き――

「覚悟――なのっ!」

 一閃の光となって、マオルへと向かう。

「チィッ……!!」

 刃と刃がぶつかり合い、衝撃波と魔力流が発生する。たがいにのけ反り、後ろに吹き飛ばされるが、どちらも着地と同時に再び跳躍した。聖剣と魔剣が弧を描き、何度もぶつかり合う。表向きはどちらも対等に打ち合っているように見え、それは間違いではないのだが、

「くっ……、やはりレグルムで聖剣を相手するのはちと荷が重すぎるかっ……!」

 レグルムはぶつかりあうたびに悲鳴を上げていた。エクスカリオスアークと打ち合うたび刃こぼれを起こし、内の魔力をエクスカリオスアークに霧散させられている。剣術の腕は同等レベルでも、圧倒的な武器差がそこにはあるのだ。

 ならばとマオルは後方に跳躍し、魔剣の切っ先をリィナに向ける。

魔弾(イクリプス・バレット)!」

 魔法発動の掛け(トリガー)をすませると、ルグルムの剣先に黒い魔力球が生まれる。そのまま跳躍し、離れた場所からリィナに向かってレグルムを振り下ろす。すると、魔力球から無数の粒弾が生まれ、剣の軌道上にばら撒かれた。

「っ……! 聖盾(セイント)!」

 聖気の宿らない魔力を断ち切ることのできるエクスカリオスアークによる斬撃では対処できないと判断したのか、エクスカリオスアークを盾のように構え、言葉を紡ぐ。直後、高濃度の聖気が彼女を包みこみ、粒弾を無傷で防いだ。

 しかし、マオルの攻撃はそこで終わりではない。そのままリィナに直進し、第二撃を聖気を纏ったリィナに叩き込む。

「……っ! このっ」

 ゼロ距離で叩き込まれたレグルムの一撃と、振り抜いた際に生まれる黒の粒弾が、リィナの聖気を削っていく。やがて小さな穴が空き、数発の粒弾がリィナの華奢な体を襲った。

「つぅぅぅ……!」

 マオルが後退したのを確認してからリィナは聖盾を解き、同じく後退する。十分な距離をとって、先ほど受けた粒弾の手当てに魔法を使おうと、患部に触れようとするが。

「させねえよ!」

 マオルがそれを許すわけもなく、ここぞとばかりに攻め入る。リィナもそれでは治癒魔法を使うわけにもいかず、エクスカリオスアークを構え直し、応戦に入った。

「これじゃ、埒が明かないのっ!」

 無数に生まれる粒弾を巧みに避け続けるリィナだが、負傷しているせいもあり、また、これだけ放出しても陰らないマオルの魔力を見て、他の手を警戒しなければならないせいもあり、押されている。リィナの魔力は決して少ないわけではないし、それどころか、その魔力総量は世界最高レベルのとも言われてはいたが、それでも聖剣であるエクスカリオスアークを扱うだけで、その魔力は湯水が如く消費されていった。故に長引くほど不利になっていくのだ。

「苦しそうだな、勇者っ!」

「そんなこと、ないの!」

 リィナはエクスカリオスアークを大きく横振りし、マオルを退かせると、さらに今度は大きく回転するようにエクスカリオスアークを振り抜く。

「聖圧!」

 同時に言葉による術式のトリガーを引き、聖なる魔力による剣圧を飛ばす。同時にリィナはマオルに向かっていこうと地面を足で蹴ろうとするが、ふとバランスを崩す。何事かとリィナは足を押さえるが、別に痛めた訳ではないようだった。何故かと考えていれば、頭上から声が聞こえた。

「お前の負けだ、勇者」

 レグルムの切っ先を自身に向けるマオルを見て、リィナは何を言っているのかと怪訝な顔をする。エクスカリオスアークから発する聖気でマオルを吹き飛ばそうとエクスカリオスアークに魔力を流し込もうとするが、上手く行かなかった。

「魔王……、何をしたの……?」

 私の魔力はまだしばらくは持つはずだったのにと目を丸くするリィナ。湯水のごとくエクスカリオスアークに魔力を費やしていたにしろ、まだ打ち合えたはずだったし、ジリ貧ではあれど、可能性を見いだす事くらいは出来たはずだった。だとすれば、自分の魔力が奪われた――もしくは消費させられたと考える事しか出来ない。

 そんなリィナに、マオルは告げた。

「魔力切れだ、勇者。お前の魔力は俺の粒弾を介して外に放出させてもらった」


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