プロローグ カウンタートリガー
初ファンタジーor初投稿。生温かい目で見て頂ければ幸いです><
プロローグ
存在する全てのものには意味がある。
意味がなければ生まれてはこない。血を身体に巡らすために心臓があり、その通り道として血管が存在する。そもそも流す以前にそれを命令する脳みそがあり、そうして体中を巡る血は、各器官――身体を動かすために存在している。酸素を作る為に木々があり、人は生きるためにそれを吸い、吐く。そうして二酸化炭素が生まれると、それをまた木々が酸素に変えるのだ。これを彼は、何かの意味に対処して生まれてくるもの――すなわちカウンタートリガーであると考えた。
自分もそうだ、そう考える彼は、片目が白銀に変色した少年だった。
魔王マオル=ハルト=ルルスリア。それが少年の名前である。
しかし、彼は見た目ほど若くはない。眼下の少女とその仲間を見る眼には、長い時を経て初めて手に入れることが出来る、良く言えば洗練された、彼の嫌う言い方で言えば老成された鋭さが宿っていた。対する少女は、その鋭い眼光をものともせず、というより気にもしない様子で、むしろ何処か眠たげな瞳で、マオルに向けて聖なる光を纏う剣の切っ先を向けている。
勇者リィナ=フィオル=ユースディア。
金色の艶髪を自身の放出する魔力でふわりと浮かせ、まだ十二歳であり成人すらしていない小柄な自身の身体と同等の大きさの大剣――聖剣エクスカリオスアークを聖気とともに堂々と構える少女。それはマオルにとって、魔王にとってのカウンタートリガーである勇者の姿に他ならなかった。
これもマオルの持論だが、カウンタートリガーとはすなわち運命である。魔王の力に目覚めたときから、カウンタートリガーである勇者の生誕は確定された運命であったのだ。たとえ幾十幾百年の誤差があろうとも、確定された以上彼女は生まれるのだ。そして、勇者の誕生は、即ち魔王の死に繋がる。どの時代も右翼曲折があれど、魔王は勇者には勝てないのだ。少なくとも、歴史はそう語っている。
しかし、その事実を前に魔王マオルは王座から動かない。それどころか、眼光はあれど戦意は毛ほども感じられないのだ。魔力も高まる様子はなく、マオルの得物ということで名高い魔剣レグルムの姿も見当たらない。
「おい、やる気あるのかてめぇっ!」
痺れを切らしたのかローブ姿の少女が叫ぶ。魔導士にしては珍しく気性が荒いタイプのようだ。フードの中から跳ねた赤毛が覗き、犬歯をむき出しにしている。横の剣士の男も同感なようだが、寡黙な男のようで視線だけでそれを訴えかけている。
そんな中、相も変わらずリィナは眠そうにしていたが、動きを見せた。
「・・・・・・レリース、うるさい」
「だが――」
「うるさい……そう言ってるの」
眠たげな瞳は鋭くなり、その視線にさらされたレリースは震え上がった。レリースだけではなく、男剣士もそれを見たらしく、冷や汗をかいていた。
「……やっぱ勇者は勇者か。写真で見た時はお前はもうちょっと大人しい奴だと思っていたんだが……、蓋を開けてみればとんだ化け物だな」
「あなたほどではないの。私にはハッキリと見えるの、あなたの魔力が」
「下手に外に出していると話ができなさそうなんでな」
マオルは溜め息をつくと、玉座から立ちあがった。マオルのその行動に、レリースと男剣士は即座に得物を構えるが、リィナは逆にエクスカリオスアークを鞘に納めた。これにはマオルも驚きを隠しきれず、同時に愉快げに笑う。
「おいっ、リィナ!」
「……流石にそれは危険だ」
「レギンが言葉を話してるの……!」
勇者の驚くべき行動には、勿論その従者たる二人も驚きを隠せなかった。だがリィナからすれば、常に寡黙を貫き通してきた男剣士――レギンが三文字以上の言葉を発した事に驚きを隠せなかったようだった。しかし自分たちが仮にも魔王の前でコントじみたやり取りをしているその事実に側近二人は気付いていない。
「勇者は余裕があっていいな。ここまで我を貫いてるといっそ清々しさすら感じる。一応は魔王の面前に居る事を従者二人も忘れるなよ?」
マオルはそう言った後、抑制していた魔力を一瞬だけ解放する。同時に従者二人は膝をついたが、リィナは少し顔を歪めるだけにとどまった。マオルがよく眼を凝らして見れば、リィナの周辺魔力が増加している事が確認でき、どうやら当てた魔力を相殺したらしい事に気づく。
「へぇ……おもしろい技術だな」
マオルが感心して呟くと、リィナは苦々しい顔で「完全には消せなかったの」と悔しげ言った。そもそもマオルの魔力を九割方相殺した時点で、リィナの魔力もまた化物なのだと従者二人は震撼する。
「……魔族の王であるあなたの前でトリオコントしていたことは謝るの。
――それよりそろそろ本題を聞かせてほしいの」
別にマオルは怒っていたわけではなかったのだが、リィナが謝罪すると彼は何となく「分かればいい」と答えていた。無意識のうちに魔王としての威厳を保とうとしたのだろう。それを自覚したマオルが「別に怒っては無いのだがな……」と弁明するのには数秒とかからなかった。
「まあいい、本題に入る」
その瞬間、リィナたちの喉が鳴る。マオルが閉じた瞳次の言葉を紡ぐのには、実のところ幾拍も掛からなかったのだが、彼女らにとってはその瞬間、その場所で、自身の汗が床に落ちるその間でさえ永遠のように感じられた。
だがマオルからすればたった数秒、しかし決して軽くはない言葉を彼は発した。
「――勇者リィナ、お前を俺の妻に迎えるっ!」
当然の如く勇者一行は硬直し、瞠目した。リィナは加えて耳までをホオズキ色に染めた。
――歴史上初、魔王が勇者にプロポーズをした。