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異世界生活1日目。
気づいたら修道院でした。
◇◇◇
考えごとをしながら歩いていて、ふと目を上げると石造りの建物があったのです。
あー、危なかった。もう少しでぶつかるところだった。
そう思ってあたりを見渡すと、東京とは思えない自然が広がっていました。
自然の中の石造りの立派な建物。
の立派なドアの前に立つ私。
足元を見ると石畳の一本道。目の前のドアがこの道の終着点のようです。
もちろんこの道を引き返しました。この時はまだどこかにうっかり迷い込んでしまっただけ、早く戻らなきゃ、と思っていたのです。
わりとすぐその建物をぐるりと取り囲む壁の外には出られました。そして、もっと知らない光景が広がっていました。明らかに東京ではありません。もっと言えば日本でもありません。フードをかぶった外国風の人、大きな馬、ここはどこ。
立ちつくす私に声をかけてくれたのが、この修道院のシスターでした。
「何か御用かしら?」
やさしそうな声でした。だからつい聞いてしまったのです。
「ここはどこですか?」
「あらあら。お家の人とはぐれてしまったの?どこから来たかわかる?」
明らかにシスターの様子が迷子対応に切り替わったのを感じました。私は大人です。なんというか、子供扱い。しかし、それに構っている余裕はありません。気づいたらここにいたということを一生懸命説明しました。
当然、違う世界というのはわかってもらえず、シスターの中で遠い故郷から連れて来られて捨てられた子供という設定になったようでした。修道院だけあって結構多いのだそうです。そういう子供が。
そうしてとりあえずここに置いてもらえることになりました。
「何か思い出すまでここにいるといいわ。きっと記憶が混乱しているのでしょう。」
シスターの質問にあまりにわからないと答えたせいか、さらに恐い目にあって記憶喪失という属性が加わってしまいました。
わざとではありません。どうやらここは魔物とやらがいて、普通に襲ってきたりする世界。
それを聞いて若干動揺が顔にでたせいでしょうか。
「ここは安全だから心配しなくても大丈夫よ。」
シスターは、私を安心させるようにやさしそうな笑みをうかべて、守ってくれる人がいるから安全なのだと説明してくれました。
兵士らしきの人がいるのはそういう訳らしいです。
それから全くもって子供の振りをしたわけではありません。ここの世界の人が平均身長が高いのです。
他のシスター見習いの子供がいるからそこに一緒に泊ればいいと案内された部屋で、紹介された子の誰よりも私のほうが小さく、これではまず大人と見られないだろうと納得しました。