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吟遊詩人はかく語りき

永遠の青

作者: 冬野 暉

 ノエリサートの空は、抜けるように青い。

 延々と続く赤茶けた砂漠を北へ北へと進んでいくと、やがて大地は緑に覆われ、雲の上からこぼれ落ちた女神の涙珠のように散らばる湖沼群にたどり着く。かつて吟遊詩人が〈水溢るる楽土〉と謳った大沃地、エトワ=リタへの入り口だ。連なる砂丘を越えて遥々やってきた隊商を真っ先に迎え入れるのが、リュトリザ連邦の首都ノエリサートである。

 乾ききった南風があたたかく湿った北風に変わる中間の気候のおかげで、この街の空は磨いたように鮮やかで美しいのだという。かつて沃地から砂漠までリュトリザ全土を平らげた古の覇王はノエリサートの青い空を深く愛し、この地に都を定め、青いタイルで彩られた宮殿や礼拝堂モスクを築いた。絶大な権力と栄華の象徴として作り出されたその景観は、やがて〈永遠なる青の都〉と呼ばれるほど壮麗なものだったそうだ。

 ――あと三百年早く生まれていれば、伝説ではない青い都を目にすることができたかもしれない。

 わたしは足元の材料籠からひとかけらのタイルを慎重につまみ上げた。ノエリサートにやってきて爪の間まですっかり白く汚れてしまったが、こびりついた膠は乾いているから汚れは移らないはずだ。つるりとした陶磁器の破片は、小さな表面の内側にこの世で最も美しい天上の色を封じこめている。雲ひとつなく晴れ渡った空に翳してみると、たちまち破片は青に溶けた。

 何度でもため息がつきたくなるような、最上級の材料だ。このかけらが千枚どころか万を超える数もノエリサートの再建に使われているというのだから、わたしの雇い主はいったいどれほどの財を持っているのか想像するのもおそろしい。

 覇王が興した統一国家が崩壊して三百年余り、もともと数多くの部族がひしめき合っていたリュトリザは未曽有の乱世へと堕ちていった。苛烈な遊牧民が暮らす南部ばかりでなく平穏の地だった北部も戦火に呑まれ、いくつもの部族が凄惨な殺戮の末に滅ぼされた。王を失ったノエリサートでは破壊と略奪が嵐となって吹き荒れ、美しい青の都は幻のように廃墟と化した。

 世界の終わりまで続くかと思われた戦乱は、しかしある男の登場によって瞬く間のように収束することになる。

 バノセン・セフィ=ニダ。

 遥か北方、エスラディア帝国と周辺諸国との紛争で名を上げた〈傭兵王〉。〈無名旅団〉と呼ばれた巨大な傭兵組織を率いて数々の戦場を制し、かつて敗者の末裔として追われた故郷へ堂々と凱旋した異端の英雄。彼はそのおそるべき才覚で十二の大部族を束ね上げ、不可侵の盟約を結ばせることでだれもが不可能だと信じて疑わなかった再度の統一を成し遂げた。

 それが十年前の出来事だ。

 リュトリザがひとつの国としてまとまったという事実は、周辺諸国にも大きな衝撃だった。まだ幼かったわたしは生まれ故郷である北の隣国リオニアで暮らしていたが、周囲の人々が天地がひっくり返ったように大騒ぎしていたのをよく憶えている。特にリュトリザからの亡命者だった父は、「おまえにも父さんのふるさとを見せてあげることができるんだ」と子どものように泣いて喜んでいた。

 だが結局、その夢は叶わなかった。

 情勢が落ち着くのを待ち続けて五年、父は仕事の出先で馬車の横転事故に巻きこまれて亡くなった。母はわたしを産んで間もなく他界していたから、わたしは十四歳で天涯孤独の身となった。あまりにも突然に世間へ放り出されたわたしに手を差しのべてくれたのは、父の友人であり同僚でもあった壁画修復師だった。

(おまえさんさえよければ、親父さんと同じ職で食っていけるように育ててやろう)

 彼の言葉にわたしは迷わず飛びついた。幼い頃から黙々と壁画に向かう父の背中を見て育ったわたしは、自分もああやって生きていくのだろうという天啓のような予感を抱いていた。巨大な石の壁に描かれた世界に色と形を取り戻し、まるでもう一度命を吹きこむような地道で崇高な工程に、わたしの魂はとっくに魅了されていたのである。

 こうしてわたしは師匠に弟子入りし、壁画修復師となった。……まだまだ見習いのひよっこだが。

「――ずいぶん余裕そうだな、嬢ちゃん」

「ふへっ!?」

 不意に後ろからささやかれ、わたしは思わず手にしていたタイルを落としかけた。

「おっと」

 堅い石床に当たる寸前、浅黒い男の手がパっと掴み取った。

 わたしはおそるおそる手の持ち主を振り返った。

「気をつけてくれよ、わざわざウェルルシアまで買いつけた特注品なんだからな」

 視線が合うと、磨き抜かれた黒玉のような双眸がニッと笑った。褐色の肌には薄く皺が刻まれ、目を細めると少し深くなる。日に焼けた薄灰色の髪を無造作に項で括り、垂れた部分が野生動物の尾を思わせた。

 彼はまさに砂漠で生まれた戦士という風貌だった。がっしりとした長身は着古したシャツの上からわかるほど分厚い筋肉を纏い、まるで体そのものがなめし革で覆われた鎧のようだ。口元は無精髭に覆われ、眼窩が落ちくぼんだ風貌は荒々しい印象だというのに、なぜか笑った顔にはホッとするような愛嬌が隠れている。

「す、すみません、バノセン議長……」

 わたしはタイルを受け取ると、縮こまって頭を下げた。さぼっていたつもりはないが、雇い主からすれば勝手に手を休めていたように見えたに違いない。

 バノセン議長は小さく喉を鳴らすと、「別に取って食いやぁしねぇよ」と言った。

「嬢ちゃんの働きぶりは普段から見させてもらってるからな。まだ見習いだが、ひと区画任されるほどの腕前だとすっかり評判になってるぞ。さすがはリオニアが誇る壁画修復師、トゥルク・オーレンの秘蔵っ子だとな」

「み、身に余るお言葉です」

 師匠の名前に、わたしはますます小さくなった。秘蔵っ子だの愛弟子だのといわれているが、実のところ師匠はなかなか気難しい人物で、旧知ゆえにその性格に耐性のあるわたししか教え子が残らなかっただけなのだ。

 わたしたちが修復に取りかかっているのは、かつてノエリサートで最も大きな礼拝堂だった建物である。戦火によって焼け落ちてしまったが、今回の再建で在りし日の輪郭を取り戻した。優美な半球型の大屋根や、花や蔦を模した透かし彫りの施された窓。広々とした中庭の中央には巨大な噴水までこしらえてあり、礼拝堂というよりは貴人が住まう邸宅のようだ。

 しかし、建物の外壁を覆っていた青や白のタイルは無残に剥がれ落ち、聖堂や回廊の壁に神々の物語を鮮明に描き出していただろう極彩色のモザイク画のほとんども失われてしまっていた。剥き出しになった黄土色の石肌を見ていると、まるでこの礼拝堂が語るべき言葉を奪われてしまったように思えてくる。歴史とともに刻まれた、人々の祈りや想いさえ。

 ――生まれた時代を変えることはできなくても、確かにあった名残をわずかでも蘇らせることはできるはずだ。

 三百年前の荘厳な青色を再現する。わたしたち壁画修復師が成すべき、しかし気が遠くなるような使命。

 その一端をまだ見習いに過ぎないわたしに丸投げした師匠の意図は、わかるようでさっぱりわからない。仔を千尋の谷に落とす獅子の親心なのか、単純に人手不足だからという理由なのか。常識でならありえないことを平然としでかすのがトゥルク・オーレンというひとである。

 わたしがすべきことは全力を以て修復に挑む、それだけだ。いちいち疑問や不安を口にしていたら、いつまで経っても〈永遠なる青の都〉は取り戻せない。

「――暁を呼ぶ有翼の獅子、か」

 下から上へ壁画を眺めていたバノセン議長は、無精髭まみれの顎を撫でながら呟いた。

 わたしが修復を任されたのは、中庭を囲む回廊の東側の一面だった。太陽が昇る方角に面するここには、黄金の聖獣リオノスに乗った天空の女神ミアが曙色に輝く髪と裳裾をたなびかせ、まさに生まれようとしている朝陽を指し示して黎明を告げる場面が描かれていた。たおやかな乙女の姿をした女神が舞うのは、深く澄んだ群青の空。

 あちこちタイルが剥がれ、あるいはひび割れて色褪せ、薄く微笑んでいるミアの横顔も吠え猛るリオノスの勇姿も、白んでいく暁闇の色を切り取った濃淡のすばらしいモザイクも、すべて風化してしまっていた。わたしは微かな面影をつなぎ止め、かつての瑞々しい美しさをひたすら夢想して脳裏のカンバスをなぞっていった。

 ようやく全体の三分の二まで仕上がったが、まだまだ細部は未完成だ。それでも、少しは失われた時間を巻き戻すことができただろうか。

「……見事なもんだ」

 ほんの短い賞賛に、わたしは詰めていた息を震わせながら吐き出した。

「まだまだ途中ですが……お気に召していただけたようでよかったです」

「俺はずぶの素人だが、この画がとんでもなくいいモンだってのはわかるぞ。信仰心なんざあるかないかわからねぇような傭兵が、跪いて女神の名前を唱えたくなる」

 バノセン議長は腕を組み、遠くを見るように目を細めた。

「ノエリサートの、夜明けの空の色だな」

「――はい」

 わたしは頷いた。

 きっとこの画を描いた古代の職人はノエリサートの民だったのだろう。この街にやってきて何度も見上げた、静かに燃え上がるような暁天がわたしたちの目の前にあった。

「この礼拝堂はノエリサートが築かれた当初の建造物だそうです。おそらくこの聖像画イコンは、ミアがノエリサートの黎明を祝福しているという意味がこめられているのではないかと思います」

 ノエリサートがまだ〈永遠なる青の都〉であった頃、リュトリザはまどろみのような平和を謳歌していた。豊かで安定した人々の生活を苗床に絢爛たる文化が花開き、ノエリサートの建造物群をはじめとする数々の歴史的遺産を生み出した。まさにミアの加護と寵愛はリュトリザの天上で輝いていたのだ。

 一度は失われ、しかしわたしの目の前にいる男によって再びもたらされた希望の時代。

「リュトリザは古代から戦の絶えない地でした。砂漠の民も沃地の民も、生き恥ではなく誇り高い死を尊ぶ戦士の氏族です。でも、略奪や闘争に怯え、血と涙を流すのではなく生きていけるのだとしたら……きっとだれもが歓喜し、いつまでもその平穏が続くように願うのではないでしょうか」

 バノセン議長がゆっくりとこちらを振り向いた。深い漆黒の瞳が言葉を促すようにじっと見つめてくる。

 わたしは乾いた唇を無意識に舐めた。

「故郷も血脈も奪われて、逃げ出すしかなかった者もいます。もう一度リュトリザに帰ることを夢見てきた彼らにとって、『リュトリザ連邦』は奇跡のような夜明けなんです」

「……嬢ちゃんの姓は、確かスザニだったな」

 バノセン議長はほろ苦い笑みをわずかに浮かべた。

 サリヤ・スザニ――父が遺してくれたわたしの名前。

「スザニは十二部族が出来上がる前、最後に滅びた部族の名だ。沃地の北に住み、優れた工芸の技術を持つ職人の一族だった。彼らの作る品々はリュトリザの交易には欠かせないものだったが――隷属を拒み、強大な兵力を持つ砂漠の部族によって攻め滅ぼされた。多くの民は殺され、あるいは捕虜になった……が、リオニアへ逃げ延びた生き残りもいるらしいな」

「わたしの父は北に逃れたスザニの民のひとりです。リオニア人の母と結婚してわたしをもうけましたが……最期までこの国へ帰ることを望んでいました」

 サリヤというリュトリザ人らしい名前をわたしにつけたのも、いつか子や孫を連れて帰郷を果たそうという父の意志の表れだったのかもしれない。

 そうか、とバノセン議長は目を伏せた。

「嬢ちゃんにはじめて会ったとき、名前を聞いてもしやと思ったんだ」

 癖のある黒髪と飴色の肌、熟れた石榴の実のように紅い瞳は父から受け継いだものだ。顔立ちはどちらかというと母に似ているが、明らかにわたしにはリュトリザの血が色濃く流れている。

「うちの傭兵団にも、嬢ちゃんと同じ境遇のやつらが大勢いるよ。戦に敗れて一族の名前を捨てるしかなかったり、親が追放された先で生まれた子どもだったり……混血児や、そもそもどの部族の出自だかわからねぇようなやつとかな」

 わたしはハッと瞬いた。バノセン議長は苦笑し、「俺の生まれは噂どおりさ」と言った。

 バノセン・セフィ=ニダ――名なしのバノセン。

 彼は肉親を知らない捨て子だったという。熾烈を極めた戦乱は多くの戦災孤児を生んだが、もしかしたらバノセン議長もそういった子どものひとりだったのかもしれない。生きるために剣を握り、戦場を渡り歩くうちに傭兵として頭角を現していった青年は、名乗るべき部族の名前を失って〈名なし〉と蔑まれていた流れ者たちを束ねて傭兵団を作った。それこそが、〈傭兵王〉という異名の由来となった最強の傭兵部隊〈無名旅団〉である。

 十二部族が和議を結び、リュトリザ連邦が完全な一国として興ったのも、部族の長たちがバノセン議長と彼が率いる傭兵たちの実力をおそれたからだ。その圧倒的な武力を以てどの部族にも与せず、完全な中立の姿勢を誇示しているからこそこの国の均衡は保たれているといっていい。

 現在、〈無名旅団〉はノエリサートを各部族から守り、また治安を維持する役割を担っている。この十年でノエリサートの復興が急速に進んでいるのは間違いなく彼らのおかげだ。

「俺はな、三つか四つぐらいのガキの頃に瓦礫だらけのノエリサートに置き去りにされていたんだ。たまたま通りかかった隊商に拾われて、体のいい下働きとして扱き使われながら育った。剣を教えてくれたのは隊商の護衛をしていた傭兵でな、『強くなればだれにも馬鹿にされねぇ、戦場で好きなだけ稼げる』と言われたんだ。俺は奴隷みてぇに飼い殺される人生なんざまっぴらだったから、死ぬ気で剣を覚えた」

 きっと、それは珍しくはない身の上だ。

 この国ではごまんとありふれていて、だがその足跡に刻まれた痛みはどれほど深いものだろう。人生を狂わせた戦争を糧にするしかない、あまりに救いようのない地獄。

「嬢ちゃん。リュトリザの民は高潔な死を選ぶ、誇り高い戦士だと言ったな」

「……はい」

「確かにそうだ。部族を守るために戦って死ぬことこそ、部族の戦士たる意義であり矜恃だ。だがな、ひとたびその拠を失えば、誇りなんて簡単に砕けちまうもんさ」

 穏やかですらある口調で、バノセン議長は言った。

「俺たちは死にたくないからこそ戦って、殺してきた。死への恐怖が強さだったんだ。そこに誇りなんて微塵もありゃあしない。あるのは、この上なく惨めな生き恥だけだ」

「そんな、ことは」

「いや、自分たちがリュトリザの民だと思うからこそ、いつだって罪悪感や劣等感があった。守るもんも尊ぶもんもない、どんなに強くなろうと俺たちは結局〈名なし〉のままなんだってな」

 両腕を組んだバノセン議長は、深く重い息を吐き出した。黒い瞳の奥で熾火のように燻る苦悩を、わたしはかつて見たことがあった。

 遠い故国を語るとき、父の目には同じ傷みが滲んでいた。スザニ族が滅んだとき、まだほんの少年だった父は両親の犠牲によってリオニアに落ち延びたのだという。祖父は家族を守るために敵に立ち向かい、国境近くまで父を導いた祖母はそのまま囮になって息子を逃がした。その過去は、決して抜けない棘となって父を苛み続けていた。

 たとえだれかにそう望まれた結果だとしても、殉じるべき誇りを見失ってしまった彼らは嵐の海でもがき苦しむ漂流者のようだった。まっさらになってしまった生に、もう一度意味や価値を手に入れたいと焦がれ続けていた。

 ――ああ、そうか。

「だから、この国を作ったんですか」

 するりとこぼれた問いに、バノセン議長は勢いよくわたしを見た。

「たとえ〈名なし〉でも、ここが故郷だと胸を張って言える国を。奪われてしまった誇りを再び取り戻すことのできる国を、あなたはご自分のために――同じ願いを持つ人々のために、作ってくださったんですか」

 驚愕に表情を凍らせたまま、バノセン議長は沈黙した。強い陽射しが斜めに射しこみ、回廊の白く焼けた床に列柱の影が長く伸びた。

「……それだけが正解とは、いえねぇな」

 浅黒い眉間には、苦渋が皺を刻んでいた。

「事情も利害もいろいろだ。ガキの頃の感傷だけで興した国なんざ、崩れるばかりの砂の城に決まっている。……だが、その感傷を捨てきれなかったからこそ、ここまでがむしゃらに突っ走ってこれたのかもしれねぇなぁ……」

 バノセン議長はふと表情をゆるめ、壁面の女神と聖獣を見上げた。組んでいた腕を解き、大きな掌で明けゆくノエリサートの空をそっと撫でる。

故郷くにをくれてやると約束したことがあったな。追われることも、奪われることも、殺されることも、殺すこともない、そこで生きて死ねる場所をくれてやると。俺にとって、それがこのノエリサートだった。がらんどうの廃墟の中で見上げた、目が灼けるような青い空がずっと忘れられなかった。こんなにもきれいなものを、俺の故郷の空なんだと自慢できたらどれほど幸せだろうと思ったんだ」

 渇きも戦もない永遠の青い楽園。還るべき故郷をなくしてしまったわたしたちの魂は、きっと同じ夢を見ていたのだ。

 わたしは握り締めていたタイルに膠を塗ると、石肌が晒されたままの部分に貼りつけた。群青から仄明るく色を変えていく箇所がひとかけら分埋まり、壁画は色彩を取り戻す。

「あなたは確かに約束を果たしてくださりました。だからわたしは、もうひとつのふるさとに帰ってくることができたんです。父の想いと、一緒に」

 こちらへ振り向いた英雄に、わたしは限りない感謝と敬意をこめて微笑んだ。

「どうかわたしにも、この国の歴史を作るお手伝いをさせてください。父やあなたや、たくさんのリュトリザの民が描いた夢を――この都の青を、今度こそ永遠のものにできるように」

 何かまぶしいものを見つめるように、バノセン議長はふっと瞳を細めた。やがて静かに目を伏せ、小さく笑った。

「ああ……どうかよろしく頼む、我が同胞はらからよ」

 わたしたちの胸に生まれたのは、きっと記録にも残らないささやかな祈りだ。

 だが確かに刻まれ、受け継がれる想いこそが永遠という未来を築いていくのだと、三百年の時を超えて在り続ける不変の青が教えてくれていた。

拙作は、異世界召喚競作企画『テルミア・ストーリーズ+』の『テルミアおまけ部門』参加作品です。作中の設定の一部は企画元よりお借り致しました。


Image song 星野源『夢の外へ』

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