第4話 色つきのデジャブ
「そういえば最近、夢に色が着いているな」
私は洗面所で歯を磨きながら、昨夜見た夢のことを思い出そうとしていた。
「うぇ~」
思わず戻しそうになる。タバコをやめてからというもの、朝の歯磨きのときにえづくことはほとんどなかった。一瞬トイレに駆け込もうと思ったが、どうにか我慢することができた。
「畜生、一体なんなんだ、これ!」
苛立ちを隠せない。だが、具体的に夢の内容を思い出すことはできない。それはまるで北村の脳が夢の記憶を思い出すこと拒絶して横隔膜の痙攣――しゃっくりをしているような妙な感覚だった。
だが、思い出すことをやめようとしても、それは自分の頭の中に映像の記録として確かに残っていて、無秩序にそのファイルは再生されるのである。確実にわかること、それは今までの夢とは違って色が着いていること、しかもそれは色鮮やかな女性の衣服、赤や青の車の陰、明かりといった断片的な短い映像であり、音は水中にもぐっているときに聞こえるような、どんよりとくぐもったものだったが、時々はっきりとした音が頭の中を駆け巡る。
「あの悲鳴は女のものだよなぁ?」
夢の映像が断片的に頭の中に流れるたびに、私は身震いをし、鼓動が高まった。
「恐れているのか、興奮しているのか、なんでもいい、すごく嫌な感じだ」
気がつけばいつもの時間よりも5分支度が遅れている。
「畜生、まったく、どうなっているんだ。ふん、なんか悪いものでも喰ったかな」
私は自分に向けて精一杯の皮肉を言って自らを奮い立たせた。別に今日、仕事を休んでもどうということはないが、休んだからといって今の症状がよくなるとも思えなかった。いや、むしろ寝る事が怖かった。眠り、そして夢を見る事が……
私は自らの神経のチャンネルをできる限りオフにするように心がけ、目に映るもの、耳に聞こえてくるものをできる限り無視をして、記憶のそこから悪夢の映像を引っ張り出すような連想を避けるように心がけた。が、その行為は見事に失敗をした。
玄関を開けると、夢に関連する風景が次から次へと目に飛び込んできた。
「あれはやはり、この近所の夢なのか……」
北村誠二は、夢の続きとも現実とも区別のつかない世界に脚を踏み入れてしまった。