二
「ああ、それは悪かったな。今から片付けるよ」
悪いなんて一切思っていない。だから起き上がって動いたりなんて絶対にしない。既に海理もそれをお見通しのようで……。
「雪と月花がやっている。遅いんだよお前は。悪いとも思っていないくせに」
「そう。じゃあ、俺が出る幕はないって事だな。じゃあもう寝るよ」
再び眠りに就こうとしたのに、そうさせてくれないのが海理である。こっちの気も知らないで。まあ何を言っても“贄のくせに”で片付けられるのが落ちだ。無視しよう。何があったとか聞いてくれたって答えは分かっているから絶対に言わない。
「勝手にすれば良い。だが……寝るのは互いの機嫌を直してからにしようじゃないか」
すると首筋を海理の舌が這う。思わず背筋がぞくりとする。こいつ、確かに今“互いの”と言った。と言う事は今海理も機嫌が悪い。態度に示さない機嫌の悪さの時、こいつがどうやってそれを直すか知っている。俺がこいつの相手をする事だ。
「やだ……そんなのお前の機嫌が直っても俺の機嫌は…………」
感じるな。感じたら負けだ。そしたらまた海理のいいなりになってしまう。感じないように耐えれば、その内海理だって飽きる筈……だと思ったのに。
「お前に拒否する権限はない。一年近くも待たせやがって。覚悟しておけよ」
「ん……」
海理に背を向けるようにしていたのに、気付けば仰向けにされ海理の顔が嫌でも視界に入って来る状態にされた。胸を触られ、衣類を脱がされ、結局俺の意思に反して身体だけが素直に反応を示す。って、言うか一年も経てば元の身体に戻る物でもなかったのか。この感じやすくされた身体は。
結局流されるがまま二回ほど強く抱かれてしまう俺がもう嫌だ。
「珍しいな。結構きつめにやったのに、お前が気を失わないなんて」
「当たり前だ。文句の一つくらい言ってやりたいんだ」
「何だ、言ってみろよ?」
言うつもりはなかったのに、不思議と言葉が出てくるのは悔しかったからかもしれない。自分ばかり欲求を満たし、機嫌を直し、そして楽になれるのに俺はそうさせてくれない事へ。
だから味噌汁の事と煮付けの事を言ってやった。言ってやったら言ってやったで、海理は“そんなくだらない事で不機嫌だったのか”と。やはり言うんじゃなかった。何で返ってくる言葉を分かっていながら言ってしまうのだろう。
「嫉妬しているのか? 月花や雪が褒められる事に対して」
「違う! 俺はただ恩返しがしたいだけだ。それなのに頭ごなしに不味い不味いって……悔しいんだよ!
俺だって一年もあれば料理だって上手くなれたし、満足出来る味噌汁だって作れた筈なのに……」
すると海理はまるで慰めるかのように、横になっていた俺を抱き抱えてそれから口付けをしてきた。気付いたら流れていた涙をすくい取ってくれたかと思えば、
「仕方ないだろ? 事実を言っているのだから。それに一年なんて気にするな。そんなに言うならお前が上手くなるまでいくらでも待ってやる。
恩返しって言うけどな、雪も月花も……それから俺もか。お前が起きてくれた事が恩返しだと思っているから」
と。普段聞かない優しい声で言う。何か気が抜ける。悪い事も言われているのに、よく分からないけれど不思議と不機嫌さが消えた。
俺はもう恩返しをしようと言う重荷を背負わなくて良いんだなって。今までそれに必死になって上手く出来なかったのか? そのまま緊張の糸が切れたように急激に眠気がやってきて、やっと俺は眠りに就いた。
翌朝、目が覚めて早速海理に美味いと言わせるべく味噌汁を作ろうと思ったのだが……。身体中のあちこちが痛み全然動けなかったのは言うまでもなく。この時ばかりは海理を恨んだ。
8/1はやおいの日と言う事で……と言うと後付けになってしまいますね;
いちゃいちゃさせたかったのですが、結局出来ませんでした。
また性描写も18禁と言うほど激しくなかったので、15禁にしました。
読んで下さりありがとうございました。