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隙間埋め  作者: 池之由
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「……相変わらず、否退化したな」


 海理かいりの好きな食べ物、味噌汁。それは分かっている。だから余計にせつ月花げっかからも口うるさく小姑のように指導される。海理はこれに関してだけはかなりうるさい方だ。

 今回は真っ黒にする事もなく見た目も茶色い何処にでもありふれた物。味見もしたけどまだ食べられないものではない。むしろお粥以外全く料理が不得意な俺からすれば大した進歩だ。なのにひどい言われようじゃないか。


「い、一年近くの穴がありますから?」

「確かに穴があったのは事実だが、それは言い訳にしか過ぎない。そして何故疑問形だ」


 呪われて三ヶ月。半年間眠って(起きた後聞かされた時には驚いた)、三ヶ月くらい日常に戻れるように体力作って。やっと料理とかの家事が出来るようになったのも最近で。だから久々に作った味噌汁なのだ。

 海理からすれば久々の……言いたくないけど愛妻料理って訳だし、少しは感動してくれるのかとか思っていたのに。そんな期待をしていた俺が馬鹿だったんだな。っていうか、何でそんな事を期待しているんだ俺は。それがそもそもの間違いなんだよ。


彩十さやとさん、今回は大目に見ましょう」


 海理が飲んだ後で、初めて味噌汁を飲んだ月花がそう一言。相変わらず辛口だ事。優しくしてもらえたのは体力が戻る前までの事。戻ってしまえば何時も通り何一つ変わらない日常なんだな。その辺りは少し寂しいが、体力が戻らないままよりはずっと良い。


「もういい、ごちそうさま。後で片付けはしっかりするから」


 これ以上辛口な言葉を聞きたくなくて、雪や月花の制止を振り払って部屋から出たのは良い物の。俺がいなくなった瞬間に聞こえてきたのは海理の言葉。まるで何事もなかったかのように、


「この煮付け、美味いな」

「はい! 私の自信作です!」


 と言う月花との会話。なんだろう。妙に腹が立つ。月花は良いよ。後雪も。どんな種類の料理も上手いから。褒めて貰えるのなんて当たり前なんだよ。俺なんて殆どの料理が苦手だから言われた事なんて滅多にない。

 呪いにかかってなんかいなければ半年だって眠る事はなかった。三ヶ月体力作る事だってしなくて済んだ。その九ヶ月で少しは料理の腕が上達出来たかもしれない。呪いを解いてくれたことへの恩返しだってまだ出来ていない。そう思うと余計に虚しい気持ちになる。

 嘘を吐く事になるけれど、もうこのまま寝てしまおう。何もしたくないから。


 当たり前かもしれないけれど部屋は真っ暗で、光と言えば昇る月の光くらい。でもそれも仄かに光るだけで辺りを明るく照らすには程遠い光。だから照明がないのも同じ。

 それでもある程度は物が何処にあるかが分かったから、布団を敷いてそのまま着替えもせずにおもむろにそこへ寝転がり、後は眠気が来るのを待つばかり。……だったのだが。なかなかやって来ないではないか。一時間して漸く眠りがやってきて、寝付けそうになった時既に遅し。


「お前、片付けもせずに寝ようとは良い度胸だな」


 耳元にまるで囁くように入って来る海理の怒り交じりの声。その声にやって来た眠気は全て何処かへ消え去った。折角やってきてくれたのにもう別れるなんて。次に来るのは何時だろうか……って、今はそんな事を考えている場合じゃないか。

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