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第9話 ミエルを求めて【前編】

ユタカがこちらの世界『クラウズ・エント』に来てから早くも一週間が経っていた。


あれからフィニッドには食材が19種類、料理が10種類登録されて、合計29種類となった。


登録数が20種類を越えたことで彼は新しい能力を手に入れた。




【冷蔵・冷凍能力】


その名の通り、冷蔵と冷凍を食材や料理に使用出来る。冷蔵や冷凍したい空間を頭の中に思い描き念じると、その空間は冷蔵冷凍機能を発現するようになる能力。箱や物にも能力付与は可能。持続時間には制限がなく解除しない限り永久に発動する。





「はぁ…」



ユタカは溜息をついていた。


「難しい」


何もない空間で冷蔵冷凍するイメージを思い浮かべる彼であったが、中々うまくことが進まない。


「要練習だな」


少しずつイメージをしてコツを掴んでいこうと決めた彼は、もうひとつの方法を試す。

部屋にあった木箱を冷蔵冷凍機能を付けた冷蔵・冷凍庫とした。これは直接触れることで“付与”したのである。これならばイメージしなくとも簡単に出来るようだ。


こちらの世界では魔法が在るためか、冷蔵庫・冷凍庫なるものが存在していなかった。

魔法が使えない人は自分も含めどうするのだろうと思いつつ、これで冷たい料理を作ることが可能となったことで料理のバリエーションが増えユタカは上機嫌だった。







街の中心を通る大きな通りには立派な外観を持つ建物がいくつかある。


その中で一際目立つ建物がユタカの目に入り、


「でかいな」


と声に出していた。


その目立つ建物は本日の目的地である。





目の前の建物はその建物の意味を表しているようで、龍と剣が交差している看板がぶら下がっていた。

入り口は広く高さもそれなりにある。扉が全開で開きっぱなしなのは、多くの人が行き来しているからでそうなっている。ユタカとすれ違う人は、剣を腰に挿して鎧を身に纏った人や杖を持ちローブを着ている人、弓を背中に背負って今から動物でも狩りに行きそうな人、等が通っていた。



そう、本日の彼の目的地は【ギルド】である。




建物内部は、白くどことなく清潔感が溢れていた。そしていくつのカウンターがあり、ユタカが入り口ですれ違ったような格好の人達が並んでいた。


ユタカはキョロキョロとギルド内を見渡すと、壁側の奥の方に紙が大量に張り出されているのを発見し、そちらへと向かった。


(ふむ…ドラゴンの退治。こっちはオリハルコンの収集…なんだかいかにもファンタジーだな)


予想はしていた彼は、ドラゴンは一度見てみたいと思った。

まだ何か面白そうなものがないか、たくさんの依頼書が張り出されている掲示板を眺めていると、一つの依頼書に目がとまった。


「これは…?」


『ランクS。黄金色に輝いた幸せな気分になれる甘いミツ(ミエル)の採取。500サロ相当に対し金貨10枚の報酬』


(黄金色の甘いミツはもしや…)



「【ハチミツ】のことか?」


「ハチミツ?何それ?」


「え?」


バッと後ろを振り返ると、緑色の髪が印象的な女性が首を傾げながら立っていた。


「久しぶり、ユタカ」


「あぁ、久しぶりだね」



整えられた顔立ち、緑色の髪は肩で切り揃えてあり、髪と同じ緑色のパッチリとした優しい瞳が特徴のシアが話し掛けて来たのだ。


一週間ぶりの再開である。


(最初に会った時は気にならなかったけど、シアは相当美人だな)


ユタカは思わずシアに見入っていた。


「どうかした?」


「…い、いやなんでもない」


慌てて反対の方向を向きそう答えた彼は、


(見入ってたなんて言えるわけないだろう)


と心の中で呟いた。



気を取り直して、再びシアに振り返る。


「この依頼書の黄金色の甘いミツがハチミツかなって思ってさ」


と依頼書に指を差してシアに言った。


「ソレはねぇ〜甘くてとっても美味しいのよぉ〜本当幸せな気分になれるわ」


シアはそのミツの味を思い出しているのか顔がトロ〜ンとなっている。


「でも、とっても高価なのよ。アタシは一度しか食べたことがないの」


「へぇ、そこまで貴重なんだ」


「…その口ぶりだとユタカは食べたことあるみたいな言い方ね」



地球ではハチミツは安くはないが、そこまで高価というほどでもない。養蜂場などがあることもあり比較的手に入れやすいのは事実ではある。


「でも名前はハチミツじゃないわよ。【ミエル】というの」


と、まだ顔が綻んでいるシアが言った。



「ならば、ハチミツ…いや、ミエルを探しに行こうかな」


と彼はシアに言うと、返答に困ったようで表情が曇っていく。そしてシアは先程彼が眺めていた依頼書に指を差す。


「ユタカ、ここ見てくれる?」


【ランクS】



「ユタカは知っているかはわからないけど、依頼書にはランクがあるの。SSS、SS、S、A、B、C、D、Eのランクがあって一番難易度が高いのがSSSで一番低いのがEね。この依頼書はS、つまりミエルの入手は難しいってこと、それもかなりね」



(ハチミツが高価な時点でそれとなく気が付いてはいたけど…まさかそこまで入手困難だとはな。でも何でだ?)


ユタカは思う。蜂の巣を漁れば簡単に入手出来ると。それならば、入手困難にはならない。ということは蜂の巣から採れるということが周知されていない恐れがある。


ハチミツ(ミエル)が入手困難なのはどうしてなのか、彼は理由を聞いてみることにした。



「そうね…理由としては、まずどこで手に入るかわからないってことかな」


ユタカの予想通り、ハチミツ(ミエル)が蜂の巣から採れることを知らないようだ。


(この世界には草木花が存在していることから、異世界であっても蜂が存在していないとは考えにくい。そもそもハチミツはドロッとした液体状態。ハチミツを採る時なんかは袋や瓶などに注いで入れているんだろう?それならハチミツが垂れていたりするところを辿っていけば蜂の巣から採れることが分かるはず。だが、いまだに分かっていないとなっている…なぜだ?特別な理由でもあるのだろうか)



頭の中で色々と考えていると、シアはこう言った。


「あと、ミエルはスッゴく堅い殻みたいなものに包まれているわ。ちなみに六角形の筒のような形をしていて握り拳三つくらいの大きさよ」



「殻?」


「うん。それでね、そのミエルを覆っている殻が木の実の殻みたいだからと、たくさんの人達が植物だと思って探し続けたんだけど、結局見つからなかったの」



それを聞いてユタカは納得した。なぜならミエルは植物から採取出来るものだと皆思い込んでいるからである。


とはいえ、それなら木に蜂の巣があれば見つかりそうな気もすると彼は思うが見つかっていないとなっている。


(そもそも殻のような物で包まれているとはどういうことなんだろう?持ち運び出来るようにミエルを包んでいると解釈していいのか?それなら話しがうまく繋がる。あとは、そのミエルがよく発見される場所を特定出来るかどうかだ)


「シア、ミエルは花が咲いている所で発見されたってことはあるのか?」


ハチミツは花のミツを蜂が集めたもの。それに因んでユタカは花が咲いている場所近辺で発見されやすいと予測する。


「なんていうのかなーあるとは思うけど、木の下にあったり川から流れて来たり岩の上にあったりといろいろなのよね」



どうやら花が咲いている近辺に限らずミエルの見つかる場所はランダムのようだ。そうなると、蜂を追跡して蜂の巣を探すしか方法はない。




「そういえばユタカのギルドランクはどのくらいなの?」


「実はギルドに登録してないんだ」


「そうなの!?」


「うん」


ユタカがギルドに来た理由は登録して冒険者になりたいというわけではない。興味本意でギルドへ来たのだ。


「えぇっと、つまりユタカは観光としてギルドに来たのね?」


「そうだよ」


それで偶然にもギルドでシアと再会したというのが今までの流れである。





ユタカは掲示板に張り出されたミエルの依頼書を見てシアと話していくうちに、ミエルが欲しいと思ってしまう。調味料の砂糖が手に入らないので、その代わりとして使いたいと彼は望んだ。しかし高価となっては手に出せない。そして入手困難となっている。されど蜂の巣さえ見つかれば入手出来ると予想し彼は決めた、ミエルを手に入れると。

しかし自分一人では、難しいだろうというのはわかっている。ならば一緒に協力してくれる仲間を探せば良い。そう結論つけて彼はシアに質問してみることにした。


「ところでシアは冒険者ランクは高い?」


「…そこそこは実力はあると思うけど」


「じゃあミエルを食べてみたいと思わない?」


「え?そうね、食べられるなら食べてみたいわよ」


「よし、ならば私からの依頼を、ミエルを探す依頼を受けてくれないか?」


「!?」


ある程度の実力があるのなら、ミエル探しは上手くいくだろうと彼は踏んでシアにお願いをした。全く知らない人よりは一回でも交流のあった人のほうが安心感もあって、ミエルが好きな彼女ならより都合が良かった。


「とはいえ私も一緒に探す。予想が正しければ上手くいくと思う」


「…何か策でもあるようね。わかった、一緒にミエルを見つけましょ」


「ありがとう。じゃあ場所を変えて打ち合わせでもしようか」





ちょうどお昼ということもあり、食事をしながら、話し合うことにした。



「美味しい〜!!」


シアは、キッチン・パスタの力店主こと、ニルバさんが作ったペペロンチーノに感動していた。


「よ、ユタカ!お前のお陰で毎日大繁盛だぜ」


とニルバが物凄く良い笑顔でユタカに話し掛けてきた。


「それはどうも。やっぱニルバさんのペペロンチーノは最高ですね」




とユタカが答えると、はははっそうだろとニルバさんは言いながら肩をバシバシと叩いている。叩かれた彼は顔が歪んでいることから痛そうである。


「それにしてもユタカ、随分と美人な姉ちゃん連れて来たな!全くお似合い過ぎて羨ましいぜコノヤロー」


とニルバは言い放つ。


(お似合い?私とシアが?たしかにシアは美人だよ。でも私と釣り合うはずがないだろう)


「ニルバさん、シアが困ってるでしょ?それよりも店が繁盛しているなら私と話す暇なんてないでしょうに」


「それがな、俺のパスタを食べて感動したらしく弟子にしてくれ!と頼みこんできた奴が2人も来てよ。俺1人じゃキツイと思ってた時だったから弟子にしちまったんだ」


ほら、とキッチンの方へ指を差すと、若い女性と男性が忙しく走り回っている。


「これがまた2人共見込みがあってな将来大物になるぜ。…おっと、そろそろ厨房に戻るぜ。二人に怒られてしまうからな。じゃまたな」


そう言ってニルバは戻って行った。



二人はペペロンチーノをあっという間に完食して、本題に入る。



「依頼の報酬についてなんだけど、採れたミエルの半分で良い?」


「うん、そうね。かまわないわよ」


「わかった」


ユタカはとてつもない量のミエルが採れると予想しているので、シアの反応が楽しみであった。



「ところでシアよ、蜂やビーは存在する?」


「うん?キラービーとかはいるにはいるけど、この辺だと【ビーウェスタ】かな」


「ビーウェスタ?それは毒を持っている?」


「もちろん毒を持っているわ。でもどうして?ビーウェスタを利用するの?」


「まぁね。利用するというか倒すと言った方がいいかな。ちなみにシアはその蜂を倒せる?」


この質問は重要である。ここで倒せないとなるとミエルの採取は難しいが、ある程度の実力があるのなら大丈夫だろうとユタカは思っている。


「そうね、簡単に倒せるわよ。ユタカの実力は判らないけど、ユタカでも倒せると思う。ビーウェスタは機敏な動きをしないしね」


それを聞いたユタカは安心した。そして自分でも倒せるとなれば案外簡単にミエルを入手出来るかもしれないからだ。


とはいえ油断大敵である。


「じゃ、明日から早速ミエルを探すけどいい?」


「うん、ちょうど依頼を片付けたところだしいいわよ。よろしくね」






こうして、ユタカとシアはミエルを探すことになったのである。



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