第８話 食材調達と調理
「うまかったな」
キッチン・パスタの力主人ことニルバが作ったこだわりのペペロンチーノは、ユタカの舌を唸らせ満足させた。
そのあまりにも美味しい料理に刺激を受けて、彼は夜ご飯は自分で作ってみることにしたのである。
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何を作ろうか考えつつ食材を売っていそうな通りへとやってきた。
彼が最初に目を付けたのは八百屋である。
看板はなくとも、これでもか、というほど多くの野菜達と果物が山積みにされ、様々な種類がそこにはあった。
そして、新鮮であることには間違いなくどれもみずみずしい。
「これは見たことないな」
ユタカが手に取った野菜は地球にはなさそうなものだった。
「らっしゃい！お、兄ちゃん見ない顔だね」
気前のよさそうなおばちゃんが彼に声をかけてきた。
「はい、最近この街に来たばかりでして」
「そうなのかい、どうりで見たことない格好してると思ったよ！で、何か買ってくかい？何ならサービスしとくよ」
どうやらサービスをしてくれるようなので、彼は見たことのない野菜と果物を中心に買うことにした。
「じゃあ、これとこれとこれと……」
名前が分からないので、とりあえず【これ】と指を差して言いながら選んでいく。
「ありがとうね！また来てちょうだい」
彼はお金を払い買った物をレデューにしまい八百屋を後にした。
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続いてユタカがやってきたのは肉屋である。
「へい、らっしゃい、何か買っていってくれよ」
勿論買う、といった表情で彼は頷いた。
どれを買おうか選んでみるが種類が多くてどれがいいのかわからなかった。
そこで、
「お兄さん、オススメありますか？」
と店番をやっている若い男性に聞いてみたのだ。
「そうだな、これなんかいいぜ！」
店番の男性はそう言いながら、何かの肉の塊を彼の目の前に出してくれた。
「さっき仕入れたばかりの【タダル】の肉だ。焼いてよし煮てよし揚げてよし、色んな料理に使えてうまいぜ」
見た目は豚肉のようなピンク色。どの部位なのか彼はわからないが、白い脂身の部分が少ないことから、ロースではないかと予想した。良いかもしれないと思い、彼はそれを買うことにした。
「それください」
「おう！重さは何サロ買ってく？」
(…サロ？)
ユタカにこの世界の重さの単位はわからなかった。
なので、
「２サロください」
と彼は適当に言った。
すると肉屋の男性は、笑いながらこう言った。
「あははは…お客さん、さすがに２サロは売れないな。２サロなんてこれっぽっちだぜ。せめて１００サロはないと」
肉屋の男性は２サロと１００サロ分の量のタダルの肉を見せてくれた。
ユタカはそれを見て納得した。
２サロは微々たるもので、指先サイズの量しかなかったのだ。売れなくはないが、いくらなんでも少な過ぎるということだった。
１００サロ分の肉を見てユタカはトンカツ用の肉１枚分だなと思った。
そして１００サロは１００グラム程度であると決め付けた。
なんとなくサロについて理解したところで、
「１００サロ分ください」
と注文した。
しばらくして、
「また来てくれ」
お金を払い、タダルの肉を手に入れた。生肉なので、紙に包んでもらったものをレデューにしまった。
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肉屋を後にしたユタカは、次はどこに行こうか考えていると、食欲をそそる香ばしい良い香りが漂ってきていた。
しかし、近くに何かを焼いているところはなかった。
一体どこから匂いがするのだろう、と疑問に思いつつも彼は匂いを辿ることにした。
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匂いを辿ること数分、煙りが辺りに立ち込めて、うちわらしき物で仰ぎながら脂の乗った青光りするものが良い焦げ目を付けていた。
そして猫がやって来て、今か今かと待ちかまえる。
「…にゃあ」
「しっしっ！商売の邪魔だあっちいけっ！」
商品を猫に取られないようになんとかしたい店の人は、箒を持って奮闘していた。
なんとか追っ払うことに成功したようで、猫がいなくなったところで店へと近付いてユタカは声をかけた。
「ひとつください」
汗だくになりながらも、懸命に魚をうちわらしきもので仰ぐおじさんは、彼を見て言った。
「らっしゃい！ひとつ３ルーペだ」
ユタカはお金を払い、串に刺さって焼かれた秋刀魚のような形の青光りする魚を頬張った。
「はふ、ふー、熱いけど、美味しい」
焼きたての魚は美味しいのは当然である。
ユタカ曰く、何の魚なのかわからないが地球でいうと鮎ようなさっぱりとした味わいの魚のようである。
「…にゃあ」
ある程度食べたところで、ユタカの足元に先程の猫が擦り寄ってきた。
「ん？これが欲しいのか？」
「にゃあにゃ」
ウルウルした瞳で見つめてくる猫が放っておけなくなり、頭と尻尾を残した魚をあげようとした。
すると、
パクッ
シュッ
サッ
魚を口に加えてあっという間に猫は逃げるように去っていった。
「はぁ…現金なやつめ」
猫は気まぐれ自由気まま。
猫なので仕方ないということにして、またも街をうろつくユタカであった。
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「どういうことだ…！？」
突如声を上げた彼は、ある調味料を探して、かれこれ１時間程歩き回っていた。
そのある調味料とは【砂糖】である。
胡椒や葡萄酢、油と酒は街をうろつくうちに見つけ出すことは出来たのだが、砂糖は見つからなかった。
味噌と醤油がないのは仕方ないとしても砂糖がどうしても欲しかったユタカは店から店へと渡り歩くが結果は同じで、それは見つからない。そしてお菓子屋らしき店も見つけだすことが出来なかったのである。
(むしろ存在してないのか？)
そう思ったユタカは、
これでは趣味であるお菓子作りが出来ないじゃないかと内心苛立っていた。
これはなんとかしなければならないと思った彼は、色々と考えてみる。
砂糖はないが、果物が存在していることから果糖の精製は可能なのではと。
とはいえ、果糖の精製の仕方など彼は知らない。
「…仕方ない。今日のところは砂糖は諦めよう」
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食材を物色しつつ街を探索していると、すっかり辺りは夜の帳が降りようとしていた。
宿に戻ったユタカは、購入した様々な食材をテーブルの上に並べている。
「さて、料理をしよう。とその前に」
ポワッ
フィニッドを取り出して、買ってきた食材を登録する。
【トマトリア】
トマトの一種。通常のトマトに比べてリコピン（抗酸化物質）の含有量が倍近く含まれており、みずみずしい。しかし酸味が強い。
【カリフエロー】
カリフラワーの一種。色が黄色い。
特に目立つ栄養素はないが、色鮮やかで料理の付け合わせによく使われる。味はカリフラワー。
【キュアナッツ】
ナッツ類。１センチくらいの大きさの球状で歯ごたえの良い木の実。味としてはピーナッツに近く安価でおやつにピッタリ。疲労回復の効果がある。
【タダル】
豚と牛を合わせたような容姿をした動物。基本は温厚で一年で成体となり体長は３メートルにもなる。焼く煮る揚げるの料理に向き、色々なかたちで調理される。肉質は柔らかく、脂肪は牛よりも多いが味は淡泊である。
４種類の食材を登録した時ピカッとフィニッドから蒼い光りが放たれたのである。
「なんだ…？」
パンパカパ〜ン
『登録１０種類達成』
気の抜ける音と共にフィニッドに文字が浮かび上がる。
「へぇ１０種類も登録したのか」
するとフィニッドから蒼い光りが収束してユタカの額を貫くように解き放たれた。
「うぉ…一体どうしたというんだ？…体に異常はないみたいだが」
彼はそう呟いて自身の体を確認し終える。
フィニッドに再び目を向けるとページがめくられていることに気付いた。
『あなたは以下の能力を手に入れた。
一、物質永久保存能力。これはその名の通り物質を永久保存できる能力。ナマモノなどは腐らなくなり鮮度を保てるようになる。食材、食べ物へ直接作用する他、空間を指定することでも使用出来る。また、生命活動を停止させない保存も可能。
二、熱伝達能力。火がなくても鍋やフライパンに触れることで調理が出来るようになる』
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「能力？…これがもし本当に使える能力ならば色々な意味で非常に役立つだろうな」
物質永久保存能力は肉や魚などの鮮度が落ちやすい食材にはうってつけで、熱伝達能力は直接熱を伝えて調理出来ることから現代でいうＩＨのようなものであると彼は考えた。
そして彼はもう一度フィニッドに目を向けると、
『フィニッドに１０種類ずつ登録されるごとに、あなたは新たな能力を得る』
と書かれていた。
「次得る能力が何なのか楽しみだな」
ユタカは少し浮かれながら、夕食の準備に取り掛かった。
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◆Let's Cooking◆
鍋でお湯を沸かしサマリの塩をひとつまみお湯の中へと入れる。
お湯が沸くまでの時間、タダルの肉塊に包丁の先で筋を切り、それにサマリの塩と胡椒を振り掛ける。少し油を引いて中火に熱したフライパンに肉を入れると、ジュゥという低い音を奏でた。焦げ目が付くまで焼いたらひっくり返して同じように焼く。
そうしているうちにお湯がボコボコと沸騰したようで、カリフエローを鍋に投入。
カリフエローが茹で上がるまでの間、イグライをザク切りにして、油を引き強火で熱したフライパンへと投入する。すると、ジュッと一瞬強く焼ける音がする。素早く手首を返すようにしてイグライを炒める。適度にサマリの塩と胡椒を振り掛け、絡める。
カリフエローが茹で上がったので流水にかける。
トマトリアとレモンをクシ切りにして大きな皿へと盛り付け、炒めたイグライも盛り付ける。
この時、タダル肉が良い具合に焼けたみたいなので、それをレモンとトマトリアなどが乗せてある皿に盛り付ける。
油と葡萄酢を混ぜたものとキュアナッツをサラダ皿に乗せたカリフエローにパラパラと振り掛ける。
シャロを半分に切って果物皿に盛り付けて、パンをセットする。
これで料理は完成した。
※イグライは緑色と黄色の花の部分を食用とするもの、シャロは果物。前話参照。
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「さぁ食べよう…と言いたいところだが、たしか私が作った料理も記録されるんだったよな」
ユタカはそう思い出してフィニッドを出現させ登録する。
【タダルのステーキ】
【イグライのソテー】
【カリフエローとキュアナッツのサラダ】
「ん？作った料理に関しては内容は記載されないのか…まぁいい、これでやっと食事が出来るな」
「いただきます」
両手を合わせてその言葉を発した彼はナイフとフォークを持った。どうやら最初はメインであるタダルの肉へと標準を定めたようだ。
ナイフを入れる。
スー…
肉が柔らかいためか、豆腐を切るような感覚で切れたそれは、焼き加減はミディアムレアといったところだろう。ピンク色が半分ほど残る状態である。
そしてナイフで切った肉をフォークを使い口へと運ぶ。
一度噛むと肉汁がジュワ〜と滴り舌を包み込む。
肉が柔らか過ぎたせいか、二回噛んだところで喉の奥へと消えていった。
「…うまい。味は淡泊ながらも肉汁がそれをカバーしている。さらに柔らか過ぎるがゆえにすぐ口からなくなってしまう…こんな柔らかい肉が存在するとはな」
と思わず彼は口ずさんだ。
お次は口直しにでもするのかサラダに狙いを定めた。
ユタカ特製簡単手作りドレッシングを振り掛けたカリフエローのサラダを一口、また一口食べた。
「サラダってこんなに美味しいものだっけ？」
そのサラダはユタカが予想していたよりも遥かに美味しかったようだ。絶妙な具合に葡萄酢がカリフエローと絡みキュアナッツがアクセントになっていた。
続いて先日、お店で頼んだメニューの中にあったイグライのソテーを彼なりに作ってみたのを食べた。
シャキシャキ
と、なんともいえぬ歯ごたえがその音を奏でている。とても良いリズムである種の音楽にもなりそうな状態でもあった。
シャキシャキ
ゴクン
ユタカはイグライのソテーを飲み込んで首を傾げた。
「…おかしいな。簡単に作ったつもりなのに、どうしてこんなにうまいんだ？あのお店のおばちゃんには悪いけど、先日食べたイグライのソテーより遥かに美味しい。…あぁ、そうだった思い出した」
ユタカは頷いた。
「フード能力が高いのが原因だな」
フード能力が高いと作った料理が無条件に美味しくなるということである。それならば、カリフエローのサラダが異様に美味しかったことにも説明がつくと彼は結論付けた。
「私が作った料理は他の人が作るよりも美味しいということになるのかな。そうなると私は料理に関して…最強？？
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「ごちそうさまでした」
手を合わせながら完食したことを告げて、ユタカは皿達を片付け始めたのだった。
