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第6話 調理器具

陽の光りに当てられて、鳥達の囀り(さえずり)が聞こえる中、目を開いたユタカは見慣れない天井をボーっと見つめてからこう呟いた。


「ここは異世界だったな…」



ふぁーっと大きな欠伸をして、まぶたを閉じ再び眠りにつきそうなところへ、コンコンッと部屋のドアをノックする音がする。



「朝飯出来たから来いよー」


大きな声がドア越しからでもよく聞こえる宿屋の主人の声が響く。

はい、と返事をして目を擦りながら洗面所へ向かったユタカは、水をバシャバシャと顔にかけながら意識を覚醒させていく。


そしてタオルらしきもので顔を拭いて、朝飯が待っている食堂へ急いで駆け出した。







トーストに目玉焼き、サラダ、牛乳らしき飲み物と地球でもよくありがちな朝ご飯を平らげたユタカは、今日はどうするかを考えていた。



「そういや部屋に調理器具がなかったな」



ガスレンジ(ガス台又はコンロ)はあっても、器具がなければ料理を作ることは難しい。そこで彼は、調理器具を買うことに決めたのだった。





宿を出て大きな通りを歩くこと10分。



店頭に鍋やらレードル(おたま)が並べられているのを目にしたユタカは、おそらく調理器具全般を扱っているだろうと予想し店の中に入ることにした。

店の中では色々な調理器具が陳列されていて、彼は物色をし始めた。


しばらくして一通り店内を物色し終わったところで、買う物が決まったのか『よし』と言いながら店主のいるカウンターへと向かう。


「よいしょっと。主人、これください」


ユタカはレジカウンターに調理器具を置いた。


するとブラウンの短髪で渋い表情をして新聞を読んでいた店の主人らしき人物は驚いた表情で、器具達とユタカを交互に見る。


「あんた、こんなに買っていくのか?」


「はい」


もちろんですと言わんばかりの表情で答えたユタカが買おうとしているのは、包丁数種類とまな板、大きさの異なるフライパン数個。小さい鍋から大きな寸胴。用途によって使い分ける大きさと形の違うボールとホイッパーとヘラとレードル…など等、数えたらきりがない大量の調理器具達である。


「そうかそうか、こちらとしてはこんなに買ってくれるのは嬉しいんだが、どうやって持って帰る気なんだい?荷物を運ぶ台車のような物は持ってなさそうに見えるが」


ユタカはもちろん台車を持ってはいない。お店と宿を何回か往復すれば台車を使わなくてもなんとか運べそうなので、往復して運ぼうと考えていた。それを主人に伝えると


「往復するのはかまわないが、面倒じゃないか?なんなら台車を貸してもいいぞ」


と言われた。


これはラッキーと思いつつ、台車を貸してもらおうとしたら、


「これやるよ」


という言葉とともにあるモノを取り出した。

それは紫色をした30センチ四方の、紐で取り出し口を絞るタイプの袋であった。


「【レデュー】だ。これをあんたにやる。なに、店の商品が半分以上売れたんだ、このくらいのサービスはしてやるさ」


ニィッと口を吊り上げて笑みを浮かべながら、レデューをユタカに渡した。


ユタカは受け取った袋をまじまじと見て、首を傾げる。




「まさかレデューを見るのは初めてか?」


「はい」



「そうか、これはな大きさを無視して物を入れられる道具で、入れた物の重さを感じないという優れものだ」


「!?」


「ちなみに『レデュー』という人物が発明したことから、その名前がついているらしい。使い方はいたって簡単。レデューの口を開いて、入れたい物に触れさせるだけで収納出来る。じゃあ試しにやってみな」


そう言われてユタカはレデューの口を開いて、適当にその袋よりも大きな鍋を触れさせる。



スォォオー



と音を立て、鍋はあっという間に吸い込まれていった。


「す、凄いな」


「だろ?これがあれば、大量の器具を持ち運べるってわけだ」

感動したユタカはフライパンやらレードルやらの調理器具を次々にその袋へ入れていく。全てを入れ終えると、その袋を持ち上げた。


(ふむ。主人が言った通りだな重さを感じない。つまり軽い。こんな小さな袋にたくさんの器具が入っているとは到底思えんが。四次元ポケットならぬ四次元袋だな)



レデューを四次元袋と決めてふと思う。これには一体どれくらいの量までモノが入るのだろうかと。気になったユタカは主人に聞いてみることにした。



「そうだな、家一軒分は入ると思うぞ」



無限大に入る空間というわけではないようだが、それだけの容量が入るのなら十分だと彼は頷いた。




「でもこのレデューって結構高価なモノなんじゃないんですか?」


「まぁ、高価といえば高価だが、そこまで高いモノではないよ。なに、あんたみたいにこんな大量に買ってくれるお客さんなんて滅多にいないんだ、ぜひもらってくれ」


ぜひと言われては中々断れない。しかも、レデューには買った調理器具を全て入れてしまったこともあって尚更だ。


「そ、そうですか。ならありがたく頂戴致します」


「おう。いいってことよ。何かあったらまた来てくれよな」


「はい、また来ます。それでは失礼します」



こうしてユタカは四次元袋ことレデューを手に入れた。







調理器具を手に入れたユタカは、次に『食材』を購入しようと思い街中をさ迷う。


大通りを歩いていると、途中露店がたくさん並ぶ通りを見つけたので彼はそちらへと向かうことにした。


露店を見渡してみると、剣や盾や弓等を並べている店もあれば、髑髏をモチーフにした怪しげな道具や怪しい色をした液体を売っている店、綺麗な宝石のような石を売っている店もあったりと、地球ではお目にかかれないような店が連なっていて、とても賑わっている。


そんな様々な店を渡り歩いていると、水晶の原石のような角ばった形をしていてやや桃色を帯びたバスケットボール位の大きさのソレを見て足を止める。それは一見宝石のように見えるが、札には【サマリの塩】と書かれていた。


「塩?…岩塩か」


塩はぜひ欲しいところである。素材の旨味を引き出す塩は料理にはかかせない存在。


ということで購入しようと値札を見てみると、そこには5000ルーペと表記されていた。


(…今の所持金じゃ買えないな。さっき買った調理器具達と同じくらいの価格もするし。ということは『塩』は高価なんだろうな)


この世界では塩は高価であると踏んだユタカの現在の所持金は500ルーペ。このままでは塩の購入は出来そうにない。


思考を巡らせどうにかして手に入れたい彼はふと思う。塩は食材に分類されるのかということを。


フィニッドを出現させ、水晶の原石のような塩に手を触れる。


するとページがめくられて文字が浮かび上がった。




【サマリの塩】

サマリ王国内で採れた塩。薄い桃色を有しており、ミネラルはそれなりに含まれている。パスタに使用すると良いとされ、肉と魚にも相性が良い。





「よし」


と声を上げるユタカ。一体何が『よし』なんだと店の人から不審な目で見られるが、なんでもありませんよと言いながらごまかした。


(これで塩は手に入れたも同然だ。フィニッドに登録出来たからあとは複製能力を使うだけ)


つまり、買うことが出来ないなら登録さえしてしまえばよい。そうすれば複製して手に入れることが出来るというわけだ。


塩を買う必要がなくなった彼は、露店を後にするのだった。







太陽がちょうど真上にある時間帯。

ユタカはお腹が減っていた。



「麺が食いたいとこだな」



さすがにラーメンや蕎麦はないだろけどと思いつつ麺料理を思い浮かべる。


その結果、『パスタ』があるのではないかという答えに辿り着いた。フィニッドに『パスタに使用すると良い』と表記されていたことが、パスタが存在していることを表している。


また、パンが存在していることから『うどん』もあるのではないかとも予想したが、和食があるとは考えにくいということでこちらは却下したのであった。



食事処を探していると、所々で食欲を刺激する匂いが漂っている。


そのおかげでユタカの空腹増す一方であった。


どこでもいいから店に入ろうとそう思って歩いていると、斜めに傾いている看板が目に入る。そして目線を店の方へと移すと外観は少し寂れており、営業しているのかどうか怪しい店があった。

看板には【キッチン・パスタの力】と書かれていて、営業中の札が出ている。


パスタと書かれていたので彼は迷わずその店へと入る。


「こんにちわー…」


挨拶をしながら店内を見渡すと、一人もお客がいなかった。お昼時なのにである。


テーブルと椅子があって特に汚いというわけでもなく店内は普通。


ならば、食べられない程まずい店なんだろうかと失礼なことを考えていると、


「悪いけど帰ってくれ」


店の奥のほうから男性らしき声が聞こえた。


「…何故ですか?表には営業中の札が出てましたよ」


とユタカが言い返すと。


「ちっ、ガキ共また悪戯しやがったみてーだな」


と言いながら、坊主頭にキリッとした目付き、太い眉毛と伸びた髭。熊のような大きな体つきで鍛え上げられた腕を組みながら一人の男性が店の奥から出て来た。


「あいつら、よく札をひっくり返すんだよ、ったく」


なにか諦めているかのような声でその男性は溜息をつきながら[Open]と書かれた面をひっくり返した。


そして、


「悪いが、帰ってくれ」


と言われてしまった。


しかしユタカは簡単には諦めない。今から他の店に行く気力はなく、空腹の状態で店から出ることなんてしたくなかったからである。



「パスタが食べたいんです」


「あん?他の店をあたってくれないか。うちはもうパスタを出せないんだ」


もうパスタを出せない、という言葉が引っかかり何か特別な理由でもあるのだろうとユタカは思った。



「何か理由がありそうですね。よければ教えてくれませんか?」


と聞くと、彼は一瞬表情が険しくなったが、ハァと溜息をつきながら、


「…まぁ、話したところで変わらないからな。いいだろう話してやる」


と答えてくれた。





「そうだな…まず俺自慢のパスタは、ある食材がないと駄目なんだ。それがない限り俺はパスタを作る気はない」


料理にこだわりを持っている料理人魂が、ひしひしと伝わってくる。


「そんで、そのある食材は唐辛子の一種【ブラッドペッパー】なんだが、一応この世界では貴重な唐辛子でよルマの町から西へ位置する【ネモネの森】の奥でしか採れない唐辛子なんだ。でもよ、どういうわけか5年前から全く採れなくなってしまってな、調査しには行ったが原因不明なんだ。そんで街の調査団に依頼をしたんだが結局判らずじまい。今に至るってわけよ」


「採り過ぎたってことはないのですか?」


「それは大丈夫だと思うぞ。今まで実ったブラッドペッパーは全て採っても数ヶ月でまた実ったしな」


「そのネモネの森で変わったことってありました?」


「…そうだな、しいて言うならブラッドペッパーが生えてた場所周辺が暗くなってたような気がすんな」



ユタカは右手の指をあごにあてて考える。


(暗くなった?黒くなったじゃなくて?色々と考えられるけども…どうやら一度行って確かめて見た方がよさそうだ)


「主人さん、一度その場所へ行って自分の目で確かめてみたいのですが案内してもらえませんか?」


「それは別にかまわねぇが…」


「では行きましょう。私の名前はキリシマユタカです。ユタカと呼んでください」


「わかった。俺はニルバだよろしくな」



二人は互いに握手を交わした。



「では案内お願いします」



ぐぅ〜


腹の虫が鳴る。

すっかりお腹が空いていることを忘れていたユタカ。

思い出したら止まらない空腹の叫びに耐えられなくなり今にも倒れそうになる。


「何か適当に飯作ってやるけど食ってくか?」


ニルバのその発言により、彼は復活をとげる。


「ま、パスタ以外になるがな」


麺が食べたいユタカだが、贅沢は言ってられないと思考を切り替えて昼食にありつけたのだった。

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