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第4話 シアとの出会い

ディメテルによってクラウズ・エントの地上へと降り立ったユタカは現在迷子になっていた。


「…出口はどこなんだ?」


そう呟いた彼はかれこれ一時間程さ迷い続けていた。全体的に黄緑色を基調とする壁と床が迷路のように入り組んだ通路として永遠と続いている。そのため進んでいるのか、それとも進んでいないのか、同じところをグルグルと行ったり来たりしているのかもわからない。ときおり足場がグニュっとして軟らかいところがあったり、ネバネバしたところなどもあって不思議な空間だった。

また、未知なる場所でもあるのでモンスターと呼ばれる生き物が存在しうる可能性もある。今のところそういったモンスターは現れてはいない。それどころか生き物の気配が全くないのだ。


そもそもディメテルがいきなり危険な場所に送り込むことは考えにくい。

なぜなら食を発展させてほしいと頼んできたのはディメテルであるということ。フード能力はあるとは言っていたがそれは身の危険に対処出来る力ではなく食材を美味しくさせる力であること。魔法が使えるとも言っていたが鍛練が必要とのことなので現時点では使えないこと。これらを並べて考えてみると、ここは危険な場所ではないとユタカは判断した。


とはいえ油断は禁物。この先一体何が待ち受けているのかわからないのであるから注意は必要だ。



迷宮のような通路を進んでいると、ユタカは自身の体に違和感を覚える。


「…光っているのか?」


彼は自分の体を確かめてみると青白い光を纏っていることに気がついた。先程から何かに覆われているような感覚はあったのだがまさか光っているとは思っていなかったようである。その光は数分しても消えることなく持続して光っている。

特に害はなさそうなので気にしないことにしたユタカは、さらにこの通路の奥へと足を進めた。


しばらく突き進んでいると、広い部屋のような空間へと出た。そしてこの先に続く通路は見当たらないようなので、どうやらここが行き止まりとなりそうである。


この空間の中心には、天井と地面から螺旋状の石柱のようなものが伸びており、その石柱がちょうど交わる部分は膨らんでいて、淡く光っている何かがあった。


「何だろうか?」


ユタカはそう声にだして、光っているところに近づき覗き込むようにして見てみる。



「…これは、宝石か?」



そこには、直径30センチ程はある乳白色の楕円状の形をした【少し光沢があるモノ】があった。


よく見てみると、透明感のある細長い棒状の枝のようなものがその【少し光沢があるモノ】を守るようにして包み込んでいる。


ユタカは迂闊に手を出してはならないと思いつつも、それが一体何なのかが気になってしょうがなかった。


好奇心に負けた彼は、それに触れてみようと手を伸ばす。細長い棒状の枝のようなものは意外と軟らかく簡単に取り除くことが出来たのであっさりと中身に触れられた。


「お…冷たい」


少しばかりヒンヤリとしたそれをユタカはなんとなく両手で掴んで取り出した。


「真珠みたいな感じがするけど、これは一体何だろう?」


形は楕円形なのだが、色と光沢具合から真珠に近いと見受けられる。


そんな真珠のようなものに見とれていると、


ホワァ~ン


気の抜ける音ともに蒼い光がユタカの目の前で収束し、やがて一冊の本となって宙に浮いていた。そして本が開きページがめくられた。


「これは【フィニッド】だったかな。たしか食材を記録する本で…。お、文字と絵が浮き出てきたぞ。」





【リッチミルクの果実(特大)】


牛乳を濃縮させたような味わいのある美味なる果実。とても濃厚でコクがあり少し甘みを持ち、腐りにくく長期の保存が可能。真珠のような輝きを持ち合わせていることから『ミルキーパール』と呼ばれることもある。通常のリッチミルクの実と比べておよそ10倍もの大きさがあり、ここまで大きなものは大変珍しく見つかることは稀である。

また、保護膜に覆われている果実を取り出すと、急速に枯れる植物でもある。






「なるほど、こうしてフィニッドに記録されるのか。しかし驚いたな、この真珠に似たモノが果実だっただなんて。…あれ?何かが引っかかるような気がする」



と言うのもつかの間、周囲の壁がミシミシと音を鳴らし次々と茶色へと変色していく。石柱のようなのもは重さに耐え切れなくなったのか、上の部分がポキッと折れてそのまま落下していく。その下にはユタカがいた。


このままでは直撃すると思いきや、彼に纏っていた蒼い光りによってそれは弾かれた。


「弾いた?」


その言葉とともに纏っていた光は消えた。


「…ふむ。ディメテル様によるお守りみたいなものか?しかし光が消えたということは次があるとは限らない。フィニッドに枯れる植物と書いてあったし…そう考えるとここからすぐに出たほうがいいな」



とはいえ出口がわからない。いや、あるのさえ微妙である。植物体の中、おそらくは中心部分であろうここは行き止まりである。考える暇もなくユタカは来た道を慌てて走っていった。



ミシッピシッ


シュゥーー



そして間もなくこの植物は枯れたのだった。





「?…いったい何かしら。何かがしぼむような音がしたけど。気になるわね」


そう言うと女性は音がした方へと風を切るような速さで駆け出した。



数分後、その音がした場所へと到着する。



「こ、これは、まさかリッチミルクの植物体?こんなに大きいのは初めて見るわね。さぞかし巨大な果実が実っていたことだろうけど。」



大きな植物体に驚くものの、すでに枯れていたので、誰かが果実を採取した後だろうと思い彼女は元の場所へと戻ろうとした。


すると、



パサ


パキパキ


ドスン



「こんな分厚くて堅そうな壁、案外壊せるものなんだな。おー外だ明るい!やっと地上から光を浴びられる」



現れたのは、黒髪黒眼の青年であるユタカだ。薄暗い空間からの明るい外へ出られたことによる開放感に喜んでいる。


「でも、崩れなくてよかった。ま、よく考えてみれば枯れた植物ってすぐ崩れないしな。木なんかは枯れていても腐らなければ案外幹はしっかりしていたりするし」



ぶつぶつと呟きながらユタカが枯れた植物について考えていると、



「おーい」



という声が聞こえた。人の声がしたと思い周囲を見渡してみると、下の方で両手を振っている人がいるのを発見した。

今いるところからその人がいる地表までは結構な高さがある。およそ20メートルはあるのではなかろうか。そんな高さのある植物体からの眺めは良く広大な森がどこまでも続いているのが見える。また途中に街らしきものがあることを確認出来たユタカは、とりあえずその街へ行こうと思った。

このだいぶ高さがあるところからどうやって下へと降りようか考えていた彼は、良い手段がないか周囲を探してみる。すると、滑り台のようにUの字で勾配になっている部分があるのを発見した。螺旋状にグルグルと地表まで続いているように見えたのでいけるのではと予想し、他に地表に降りる手段は見つからなかったのでこの滑り台らしきものを使用すことにした。


「滑り台なんて十何年ぶりだろ」


小さい頃によく遊んだなあと思いつつ、発進するのだった。






「ふう、意外と楽しかったな」


少年に戻った気分を味わい満足したユタカは、地表へと無事到着した。


そこへ、


「何が楽しかったの?」


落ち着いた緑色の髪は少々ウェーブがかかっており肩に届くほどの長さ、パッチリとしていてタレ目気味の目が優しい印象を与える整った顔立ち、クリーム色のチュニックのようなものに革で出来ているであろう胸当て、ハーフパンツに編み上げのブーツ、背中には何本もの弓矢を装着した女性が質問を投げかけてきたのである。


「恥ずかしながら滑り台を十数年ぶりに体験したもので」


とユタカは答えつつ、目の前にいる女性へと視線を合わせる。


「ん?コレのことかな」


「はいそうです。ところでえーと、あなたは?私は霧島豊といいます。ユタカとお呼びください」


「アタシはシンシア。気軽にシアと呼んでね。あと敬語じゃなくていいよ」


「わかった、ならば遠慮なく。先程これを手に入れたのだが、食べたことはあるか?」



ユタカは手に持っていた真珠のような楕円形の果実をシアに差し出した。



「す、すごい!こんなに大きいリッチミルクの果実は初めて見た。一応食べたことはあるわよ、すごーく美味しいの」


「そうなんだ。実はこれ食べたことがないんだよ私」


そういってユタカはリッチミルクの果実にかぶりついた。


(これはうまい!バナナのような食感で、味は練乳に近いな。パンに塗ったりしたら良さそうだ。ん、何だかシアが凄く物欲しそうに見てる…)


一人で食べきれる量だが、シアがキラキラとした目で訴えてくるのでユタカは半分あげることにした。


「え、いいのお!?ありがとう」


「どういたしまして」


とてもいい笑顔でシアはその果実を頬張った。

美人の笑顔には凄まじい破壊力がある。それにやられたユタカはしばし見惚れてしまうのだった。



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