第3話 ディメテル
突然現れた蒼い色が特徴的なイケメンが言ってきた言葉に豊は首を傾げた。
(フードマスター?それは一体何だ?…まぁいい、今はそれよりも現状把握の方が先だ)
「ところで、ここは一体何処です?そしてあなたは一体何者?」
「ここはですね」
彼は返事をしながら、豊の近くまで歩きだし丁度話しやすい位置までくると止まって説明をし始めた。
「呼び寄せの間。世界に存在するモノ、ヒトを呼び寄せるための場です。しかし何でもというわけではありませんが。そして僕は…」
彼は少し間をおいて答えようとしている。
(…まさか、神だなんて言うんじゃないよね?)
「この世界【クラウズ・エント】の創造神『ディメテル』です」
(そのまさかですか!しかも創造神だって?いきなり信じられるわけがないだろう!)
豊は内心で突っ込みながら、ジト目で神様のほうを見る。
「…信じてない目をしていますね。いきなり信じろというほうが無理がありますか。ならばこれでどうでしょう」
そう言うと自称神様の背中から光り輝く純白の翼が生えていた。いや、正確には背中から直接生えているわけではなく少し間が空いていて、生えているように見えると言った方が良いだろうか。
翼を出した神様は、今度は自身の右手人差し指に光を点してそれを豊に向ける。
そして放った。
つまり豊の額を貫いた。
その光りはありとあらゆる映像を豊の脳に擦り付ける。
地球が誕生した瞬間や、人類が始めて二足歩行をした瞬間、等を実際に見ていたかのような感覚を直接叩き込むようにして強制的に豊の記憶として焼き付けた。
そんなことが出来るのは神様ぐらいであると思わざるえないので、豊は彼を神様なのだと理解した。
「どうやら信じてもらえたようだね」
神様は信じてもらえたことに満足して笑顔になっていた。
目の前にいる方は神様だということが分かった豊はふと疑問に思う。
(私を呼び寄せたのは一体何故?そして、ここは地球じゃないのか?クラウズ・エント…異世界というやつか?だから島が浮いてたりするのか?…あ、ラ〇ュタは?ここはラ〇ュタなのか??)
次から次へと浮き出てくる疑問。
「あ、あの、ここってもしかして私がいた世界ではないのですか?島が浮いているみたいですし…ラ〇ュタなんでしょうか?」
「ここは地球ではありません。そして空に浮かぶ島もとい宮殿は僕が住むために創ったものなので、ラ〇ュタではありません。神空の宮殿島【エアロパレス】です。ちなみに地上に降りれば地球のようなつくりをしていたと思いますよ」
(ラ〇ュタじゃないのか、ちょっと…いやけっこうがっかりかも。
…あれ?今神様から地球という言葉がでてきたぞ。もしや地球も神様が創ったのか?)
「ちなみに、地球も僕が創りました」
聞く前に勝手に答えてくれた神様。
(なるほど。やはりそうなのか。だから私を呼び寄せることが出来たんだ)
「では、私を呼び寄せた理由は一体何なんでしょうか?」
「そうですね、色々と話したいので少し場所をかえましょうか」
パチンッ
神様が指を鳴すと一瞬にして周囲の風景が変わった。薄暗い所から一変して、明るい場所に移動したようだ。
豊は今のはどうやったんだろうと思ったが、神様だから出来ることなのだということにした。
「それではそちらの椅子に腰掛けてください。」
「では失礼。…やわらかい。フワッフワだ」
促されるままに腰掛けた椅子は、白い雲のような色合いで、フワッフワしすぎてとろけそうなくらい座り心地の好い椅子であった。
そして目の前にはティーカップが二つ置かれている。香りからして紅茶であろう赤茶色の飲み物が注がれていた。
「よければそちらの飲み物でも飲みながら、話の続きをしましょう」
神様は二つあるうちの一つのティーカップを手にとって、紅茶らしきものを一口飲むと話し始めた。
「フードマスター殿には、ここクラウズ・エントという世界の地上へと降り、していただきたいことがあります」
(…私なんかが出来ることってあるのか?もしや魔王を倒すとかか?)
豊はテンプレ的なことかと思っていると、神様は手を前にかざし強い光をとき放った。
すると、本のようなものが一冊神様の手に収まっていた。
「これは【フィニッド】といいます。フード(食べ物と食材)を記録し、この神殿島へと転送することが出来る本です。クラウズ・エントの地上には地球には存在しない食材が多くあります。勿論地球に存在するものもありますが。そして、フードマスター殿が調理を施した料理も記録されます」
(…なんだかポ〇モン図鑑の食べ物バージョンって感じだな。私が作る料理が記録されるなんてどうなんだか。そこまで料理つくるの上手くないんだけども。まぁいい、つまりは)
「フードを片っ端からその本に記録して転送してほしいということですか?」
「はい、そうです。しかし記録さえしていただければ創ることができるので転送はしなくても大丈夫です」
(んー、そうしたら神様が直々に地上に降りてフードを集めたほうが早い気がする…)
そう思っていると神様はこう言った。
「僕が地上へ降りてフードを収集してもよいのですが、色々としなければならないことありまして、それができません。」
「なるほど、私を呼び出した理由はそれですか」
「はい、そうです。フードマスター殿には、私の代わりにクラウズ・エントでフード収集をしていただきます。そしてもうひとつ、【食】を発展させてほしいのです。このクラウズ・エントという世界は地球でいうと中世ヨーロッパのような時代です。科学が発達してないがゆえに食に関してもあまり発達していません。また、それに伴い料理の種類も地球と比べるとかなり少ないかもしれません」
「だいたいのことは理解しました。ところで先程から気になっていたのですが、フードマスター、とは何ですか?」
「フード能力が非常に高く【食】で世界を変えうる者をフードマスターと呼びます。あなたはそのフード能力が非常に高いのです」
「フード能力??それは一体どのようなものでしょうか」
「そうですね…簡単にいえば、安物の肉を高級な肉を使ったような料理にできたりする力です。きっと役に立つでしょう」
(私にそんな力があったとはね…なんだか実感ないけど。神様が存在するのだしありえるか)
豊は目の前に置いてある飲み物に手を伸ばして、一口飲んでみる。予想どうりその飲み物は紅茶であった。
一息入れて神様は口を開いて次のように言った。
「ちなみにこちらの世界では【魔法】が存在します」
魔法。それはよく漫画に出てきそうな、炎や風などを手から放ったり、雷を降らせたり、時空間を操作することが出来る力である。
「もちろん鍛錬を積むことで魔法の習得は誰にでもできます」
「つまり私でも魔法は使えるということですか?」
「はい、そのとうりです。しかしフードマスター殿には必要ないかもしれません」
(私には必要ない…?)
「いずれお分かりになりますよ」
「…ならいいのですが」
若干腑に落ちない豊ではあったが、そこまで気にすることでもないと思った。
「フードマスター殿、いやユタカ殿と呼ばせてもらいましょう。突然呼び出して身勝手ではあるのですが、僕の代わりにフードの記録と食の発展をしていただけますか?」
神様は真剣な面持ちでユタカを真っ直ぐに見ている。
そんなに真剣にされちゃあ断れないじゃないかと思いつつ、
自分のフードマスターとしての力と魔法に期待をよせ、
「私で良ければ引き受けましょう。神様のことはディメテル様と呼ばさせていただきますね。」
と答えてお互いに握手を交わした。
「…ところでディメテル様、私はどうやって地上に降りましょう?」
簡単なことです、と言いながら。
パチンッ
ディメテルが指を鳴らした瞬間、ユタカはその場から消えた。
「ユタカ殿、健闘を祈ります」
こうしてユタカは食の開拓者として地上へと降りたのだった。