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第19話 カスタードとバニラアイス

蒼い空に白い雲が所々に浮かぶ空模様。今日もまた晴れの天気が続くシャントルイユ帝国の帝都ブットシュテット。


そんな蒼空が広がる空の下、控えめながらも上質な黒色の衣類を身に纏い、フードをかぶって顔が見えないように隠している人物がいた。その人物は従者を引き連れ何かを探しているようだ。そして何人か護衛がいるようで街の住人に紛れて周囲を警戒しながら、顔を隠している人物を見守っている。


しばらく歩いていると顔を隠している人物と従者は大きな広場へと着いた。


「噂ではこの辺りだと伺っております」


付き添うようにして歩いている従者はフードで顔を隠している人物へとそう言った。


「そっか、これで"クレープ"が食べられるんだね」


と言い広場を見渡して探してみるが、


「ない…」


見つからなかった。


おかしいですね噂ではこの辺りなのですが…と従者のルッツは主であるヴィレムに言うが、広場は行き交う人々と小道具らしきものを売っている店ぐらいしか見当たらない。


ヴィレムはこのままだとお忍びで街まで来た意味がなくなってしまうと思い、ルッツに頼んで街行く人に聞いてもらうことにした。


行き交う人々が多い中、小道具を売っている商売人なら滞在している時間等が長く何かしら知っているだろうと予想してルッツは尋ねてみた。


「あぁ、クレープならさっきまで売ってたぜ。長蛇の列でそりゃもう凄かった。ま、売り切れて商売人達はもういなみたいだがな」


ルッツの横で話しを聞いていたヴィレムは俯いた。


「申し訳ございません。調べが甘かったゆえに…全ては私の責任です」


ルッツは深々と頭をさげた。


「いや…いいよルッツ。頭を上げて」


恐る恐る頭を上げたルッツは、力を込めて握りこぶしをつくっている主を見て思わず声を掛けた。


「ヴィレム様?」


「僕は諦めないよ」


そう言ってヴィレムは顔を上げた。


「甘い物が大好きな僕は、今までパレーレと果物しか甘い食べ物は存在しないと思ってた。でもそれ以外の甘い食べ物が存在するとわかれば、絶対に食べてみたい」


握っていたこぶしを空へと突き出し、


「絶対に食べてやる」


と高々と宣言した。


これがきっかけとなり、彼のお菓子への情熱がさらに増すことになったのだった。





一方その頃ユタカは、大量に買い占めたバニラことバニラビーンズを使ったモノを二つ完成させていた。


まずひとつ目は

【カスタードクリーム】


生クリームをたくさん食べられないユタカは生クリームの代わりとなるクリームが欲しかった。バニラの入るクリームといえば何かと考えて一番最初に頭に浮かんだのがカスタードクリーム。原材料が牛乳、卵黄、砂糖、バニラ、小麦粉なので生クリームと比べて食べやすいと本人は思っているためカスタードクリームを作った。


そして二つ目は

【バニラアイスクリーム】


生クリームや牛乳、卵黄、砂糖等とバニラを使って仕上げたもの。バニラの甘い香りがさらにアイスクリームを引き立てる。口に含むと舌の熱で溶ける食感は初めて食べる人にとって衝撃的な印象が残るに違いないとユタカは思っている。そして今回ユタカは卵を使わないアイスクリームを作るようである。



その二つがちょうど完成したところで見知った顔の人物が一人やってきた。


「くんくん、あら、何かしら?すごく甘い香りがするわねぇ」


部屋中はバニラビーンズの甘い香りで満されている。今回は何を作ったのと言わんばかりに目を輝かせているシアに、完成したものを見せた。



「へぇ、新しい食べ物ね。食べてもいい?」


どうぞ。とユタカは勧めてシアにスプーンを持たせた。


黄色いクリームから食べてみるようで、スプーンでひとすくい。口へと運ぶシア。



「はぁ〜美味しい。白いクリームと違って、滑らかな舌触りで食べた瞬間に甘い香りが広がって、いつの間にか飲み込んでいるの」


と感想を言いつつ用意した分のカスタードクリームを全て平らげた。


あれ結構量があったはずなんだけど全部食べてしまったのか〜、とユタカは思ったが口には出さなかった。


「ふう、次はこれね」


早くも次の獲物に狙いを定めたシアの目が怪しく光る。スプーンを矢に見立てて射るようにして、アイスクリームという名の白い球体状の獲物に一直線スプーンを解き放つ。見事命中したスプーンはアイスクリームにめり込むように突き刺さった。アイスクリームはえぐられ食べやすい分量をすくい取られて、怪しい雰囲気を醸し出す緑髪の女性の口へと吸い込まれていく…。


「…」


バタッ


シアはアイスクリームを食べた瞬間テーブルの上に突っ伏した。


それを見ていたユタカは、大丈夫か?とシアに声をかけながら近付くと、ムクッと起き上がった。どうやら一時的に気を失ったようである。


「ユタカ!これは一体何?白くて丸くて可愛いし、食べてみると冷たいんだけど甘くてもう少し味わっていたいなーと思っていたら溶けていつの間にか口の中からなくなってて…香りもなんだかとても良いし…うまく説明出来ないけど、すごくすごーく美味しいわ!」


シアはそう言ってアイスクリームを凄まじい速さで食べていく。


すると、



キーン



「あ、頭が痛い!」


シアは頭を手で押さえて俯き状態になった。


やれやれとユタカはシアをなだめて説明する。


「これは"アイスクリーム"という名前の凍った"お菓子"だ。バニラという甘い香りがするものも使ったから"バニラアイスクリーム"になるけどね。ちなみにカスタードクリームにもバニラは使っているんだ。あとは…そうそう、凍ったお菓子を一気に食べると頭が痛くなるんだよ」


そういうのは食べる前に言ってよーと辛そうにしながらも訴えてくるシア。


「そうは言われてもね…」


まさか一気に食べるとは思わなかった、とユタカ答え、なんとかシアを落ち着かせようとしたのだった。





何分かしてシアが頭痛から解放されると、何時からいたのか銀髪の少女がユタカの隣に立っていた。


そして例のごとくユタカの服をくいくいと引っ張りこう言った。


「ユタ兄、あれメルも食べたい」


やはりそうくるかと予想していたユタカは、メルをテーブルの席につかせて、先程作っておいたカスタードクリームとアイスクリームを皿に盛り付けるのだが、今回はアイスクリームの横にカスタードクリームを添えるようにして置きセルクシロップを格子状に振り掛けミントらしきハーブの葉をちょこんとアイスクリームの上に乗せて、メルに差し出すことにした。



「…きれい」


メルからそう言ってもらえたユタカは満足だ。

味はもちろん大事なことだけれど、見た目も大事だと思っているユタカは少しだけデコレーション的なことをしたのだ。


スプーンを渡すと、メルは直ぐさまアイスクリームをすくいあげて口に含む。


バタッ


メルもまたシアと同じように一時的に気を失い、そしてすぐに意識を取り戻すと、


「…冷たくて美味しい」


と食べた感想を言ってアイスクリームを一気に掻き込むようにして食べた。


あれ?この展開は…とユタカは思うが時すでに遅し。


「うぅ…」


メルは頭を手で押さえて唸っている。つまりは頭痛を起こしたのだ。


しばらくしたら頭痛は治るよ、とシアから教えてもらい痛みが引くまでなんとか耐えようとするメル。



その光景を見ていたユタカは、まさか二人とも同じ行動をして同じ状態になるとは思いもしなかった。ハハッと小さく笑いながらも二人には聞こえない声で、面白いなぁ〜と呟くのだった。







翌日。


毎日晴天が続くブットシュテット。しかし今日はいつもと違って雲が多い空模様となっていた。


そして今日もまた、大きな広場にてクレープを販売するユタカの店ではたくさんの人達が並んで賑わっていた。


ちなみにアイスクリームをたくさん食べてよいという条件を付けて、シアとメルには手伝いをしてもらっている。そして前日はクレープをたくさん食べてよいという条件で手伝ってもらっていたりする。



「アイスクリームはいかがですかー最後尾はこちらですよー」


と呼び込みと誘導をしているのはオイゲンだ。今日は前日と配置が違い、案内係+アイスクリーム宣伝の担当をしている。


「いらっしゃいませ。クレープひとつ30ルーペ、アイスクリームもひとつ30ルーペでございます」


シアは変わらず受付(レジ)をやってもらっている。


ということは、メルがユタカの調理補助になる。


「メル、アイスクリームを切ってくれ」

「…わかった」


すると、


スパスパ


メルの風魔法によってアイスクリームが等分間隔で綺麗に切り揃えられたのだ。しかも球体である。


それを、進化した能力を使い"オーブン"のようにして焼き上げた"コーン"に乗せてお客さんに提供する。

とはいえコーンの部分を直接手で持って提供するわけではなく、ある植物の葉を手で持つ部分として使用したのだ。ちなみにクレープにも同じものを使用している。

それは【コニデ】と呼ばれる植物の葉で、直径約4センチ長さが約10センチの円錐状の形をした葉である。シャントルイユ帝国周辺ならそこら中にある植物で簡単に手に入れることが出来て、クレープやコーンにちょうどフィットする形という偶然も重なり採用している。


手を汚さずに食べられることが出来て燃やすか土に埋めることで処分が楽な上、なによりエコである。まあ、この世界でエコがどうのこうの言えるかはわからないが。


そんな具合に、クレープとアイスクリームを販売する。

アイスクリームを買ったお客さんの反応を見てみると、最初の一口を食べると足元がふらつくのである。そして皆口を揃えて"美味しい"と感想をくれる。


シアとメルが最初の一口でテーブル上に倒れたのは記憶に新しいが、お客さんは倒れるまでにはいかないようだ。シアとメルのリアクションを思い出したユタカは、二人共オーバーリアクションなんだなと微笑むのだった。





3時間程売り続けていると、いつの間にか雲行きが怪しくなっており今にも雨が降り出しそうな灰色の空であった。


そこへ全身黒色の格好をしたフードを深く被っていて顔が見えない人物と、きっちりとした身なりの整った人物との二人組が、クレープとアイスクリームを注文した。

怪しさ全開の二人組のお客さんを見て、シアは不思議に思いながらも接客をこなし会計をする。

そして隣りのクレープとアイスクリームを受け取る場所へと促した。


ありがとうございます、と言いながらユタカとメルは注文された品を渡す。その時フードで顔が見えない人物の手がとても震えていた。それが気になったユタカはクレープを作りつつその人物を目で追った。


すると、買ったクレープを貪るようにガツガツと口に流し込むと足元がふらついて、終いにはアイスクリームを食べたと同時にその場で倒れたのだ。


その一部始終を見ていたユタカは、シアとメル以外に倒れる程のリアクションをする人がいるんだな〜と、呑気なことを思っていた。


しかしユタカは呑気でいられない状況になる。


「ヴィレム様!大丈夫ですか!?」


従者らしき男が慌てて大声で叫ぶ。そして街人に紛れていた何人かの護衛兵らしき者達も現れた。


フードを被った人物は倒れた拍子にフードが外れて顔があらわになり、


「「「ヴィレム様」」」


と広場にいる人達が集まり皆驚いて騒いでいる。


ヴィレムって誰よ?とユタカは思い聞いてみると、


シアとメルは直ぐさま、


「「シャントルイユ帝国の第2皇子!」」


と答えて教えてくれた。


ふーん皇子ね、と軽く聞き流そうとするユタカを尻目にシアは顔色を青く染めながら続けて言う。



「…ねぇユタカ、ヴィレム様が倒れたのはもしかして…」


「クレープとアイスクリームを食べた瞬間だったかな…」



この展開まずいっぽい?と彼が思っていると、



ポツ


ポツ



空を見上げると水滴が頬を伝って地面へと滲んだ。どうやら雨が降り始めたようである。


その雨が降ってきたことに気を取られて、


「この場にいる販売員を捕らえろー!!」


の掛け声と共にユタカ達は捕まるのだった。



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