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第16話 セルクの大樹

〜翌日〜



セルクが群生しているエッカルト湖へとユタカ達三人は向かっている。



馬車を使えば、3時間もかからないとのこと。



天気は良く、気分も晴れやかになりそうな日になりそうだとユタカは思う。



(地球にいたころはこんなに晴れやかじゃなかったなぁ)



彼が地球にいたころは雨男だった。イベントがある日は必ず雨で、いつもげんなり。

家を出ようとしたら、ぽつぽつと雨が降り始めたり、小雨の時は大丈夫だろうと思って傘を持たないで出掛けると後に土砂降りになったり、と。とにかく天気には恵まれていなかった。



それに比べて、こちらの世界に来てからは晴れの日が続いている。

雨男の彼がいるのにもかかわらずだ。


ということは、晴れ男にでもなったのだろうか。それは誰にもわからない。







しばらくして彼らは

エッカルト湖に到着した。





「綺麗ね。湖が空を映しているわ」


まず声を出したのはシアである。



「メルも綺麗だと思う」


とメルも感想を述べた。




目の前に広がるのはとても大きな湖。

大自然に囲まれた湖は、雲ひとつない蒼い空と連なる山々を鏡のように映し出して輝いている。その光景はとても美しい。

また、湖の水はとても澄んでいて透き通っていた。そのため湖の底が見えている。


奇跡の水ことノルイデナがこの湖から採れる水であるというは納得してしまうだろう。



そして美女二人がこの美しい風景と相まってとても絵になっている。



そうユタカが景色に見惚れていると、



「甘くない」



メルが不満そうな声で訴えているのが聞こえた。



すると、



「たしかに甘くないわね」



シアまでもそう言っているではありませんか。



どうかしたのかな?と思い二人に近づくと、湖の水を両手ですくって飲んでいる姿が見られた。



近づくユタカに気付いたシアはユタカの方を向いて、



「ユタカ、あなたも飲んでみて」


と言ってきたので、彼は飲んでみることにする。




ゴク


ゴク



「…うん。甘くない」



とはいえ飲みやすい水だと彼は思った。普通に美味しい水と言えよう。



三人が先日飲んだ水は甘かった。頭が寂しいのが印象的なおじさんはエッカルト湖で採れた水と言っていたが、嘘をついているようにも見えなかった。



これは一体どういうことなんだろうと疑問に思っていると、



コトコト



コトコト



音がする方へ顔を向けた。

しばらくして一台の馬車がユタカがいる所へと近づき、側まで来ると停止した。


すると一人の見知った男が出て来た。



「よう!おまえ達。昨日ぶりだな」



「こんにちは。昨日水を売ってた(頭の寂しい)おじさんじゃないですか。今日は水の補給ですか?」


「その通り。名水ノルイデナを採りに来たってわけだ。お前達もか?」



「厳密に言うと違うんですが、欲しいとは思っています」



新鮮で綺麗な水は調理をする上で欲しいということ。水次第で料理の質が変わるときがあるためである。



軽く言葉を交わしていると、



クイクイ



「おじちゃん、この湖の水甘くない」



メルがおじさんの服を少し引っ張りながら訴えた。



「あぁ、それはな湖の一部でしか採れないからだよお嬢ちゃん」



とおじさんは答えた。



(なるほどね)



それなら納得だとユタカは頷いた。今さっき飲んだ水が甘くないというのがよくわかる。



「それなら来るか?ノルイデナが採れる場所に」


これは願ってもないチャンスである。中々に大きな湖で甘い水を探すとなれば、相当な時間がかかることは免れないだろう。


「いいんですか?よろしくお願いします」


ユタカ達は甘い水が採れる所まで案内してもらうこととなった。






「これ、セルク」


馬車を進めながら、メルは指で指し示す。


これ、これ、と次々と指し示すことから周囲の木々はセルクであるようだ。


その木々から生えている葉っぱは、地球でも見慣れた色や形をしている。


とはいえ、ただ一つ違いがあった。


それは、




「でかいな」



大きさである。思わず口に出してしまうほどに葉っぱは大きかった。手に取っていなくともわかる程大きく人の頭ひとつ分の大きさはありそうである。


一つ一つの木々がそれなりの大木でもあり、樹木は見渡す限りセルクしか存在していない。他の樹木は全く見られなかった。



特殊な生態をしているのかもしれないと思い、後でじっくりと調べることにしようとユタカは決めた。








15分後、



「ここだ」



おじさんは馬車を止め、ユタカ達に聞こえるように言った。

どうやら到着したみたいである。



瓢箪(ひょうたん)型の湖であるエッカルト湖の上方部分、つまりは一番奥と言えば良いだろうか。そこから名水ノルイデナが採れるらしい。



見渡せば何の変哲もないように見えるが、よく見ると水が湧き出ていることに気付いたユタカ。



コポ



コポ



「この湧き出ている水こそ『名水ノルイデナ』だ」



「へぇこれが」



ならば早速飲んでみたいところだが、どうやって水を汲もうかと彼は考えている。

陸上から水面まで1メートル以上はあるように見え、浅瀬になっているわけでもない。


湖の底がかろうじて見える程で結構深さがある。



ここで、彼は思う。おじさんはどうやって水を汲んでいるのだろうかと。


聞いてみようとおじさんの方へ顔を向けようとした時、



ヒュッ



バシャーン



ロープをくくりつけたタル?を湖に投げ入れていた。



そして水がある程度入ったところで、



「おりゃぁぁあ」



掛け声とともにタルを引っ張っていた。



「ふう」



なんとも豪快な手法である。大きなタルに水を入れた状態で陸上まで引き揚げるとは相当な腕っぷしだ。力のあるおじさんならではの方法なのであろう。



「飲んでみるか?」



とおじさんがユタカ達に言ってきたのでありがたく頂戴することになった。



レデューからコップを取り出しておじさんを含めた四人で飲んでみるようだ。






「甘いね、うん」

「プハーッ、うまい」

「甘くて美味しいわ」

「…おかわり」


上からユタカ、おじさん、シア、メルの順で発言した。

ユタカとシアはそのままの感想で、おじさんはビールを飲み干した時のような感想、メルに至ってはノルイデナがお気に入りのようでもう一杯おじさんから貰ったようである。






ユタカも名水ノルイデナが欲しいようで、おじさんと同じようにタルを投げ入れて水がある程度入ったところで引き揚げる方法をとった。


レデューにロープをくくりつけて湖に放り投げようかともしたが、レデュー内が水浸しになりそうなのでこちらの方法はやめておくことにしたのだ。



ポーイ



バシャーン



グッと手足に力を入れて引き揚げる。



ポゥーン



パシッ



「まさか、うまくいくとはな」



タルがうまい具合に彼の前まで浮いたところでキャッチする。ケン玉の玉を手元まで引き揚げる感じと言えばわかりやすいだろう。



それを見ていた三人は言った。



「凄いな兄ちゃん!その細い体型で、よくそんな力があるな」


「ユタカ、実は力持ちだったのね」


「ユタ兄は一体…」


上からおじさん、シア、メルである。


おじさんとシアは驚いていたが、メルは冷静にユタカを分析しようとしていた。


ユタカ自身もここまで力があるとは思っていなかったので、本人も驚きである。



(やっぱ、異世界補正なんだろうか…?)








何はともあれ、名水ノルイデナを無事(?)手に入れられたユタカ達は、本来の目的であるセルクの樹液を採取する。




「悪いけど傷を付けさせてもらうよ」



ユタカはナイフを取り出して、セルクの樹皮に少し穴を空けた。



すると、



ジワ



少しずつ樹液が流れ出してきた。



試しに人差し指ですくって舐めてみる。



「甘い!」


メープルシロップの元となる樹液。彼が思っていたよりも樹液は甘かった。原液でここまで甘いならシロップにしたときはもっと甘くなるかもしれないと確信すり。



彼が甘いと発言してから、すぐさまシアとメルが飛びついてきてセルクの樹液を味わうのは当然の流れ。



「甘いわぁ〜」


「メル甘いの好き」



さすがは女性。二人は甘い物が好きなようだ。



すると横から、



「兄ちゃんよ、俺も味見したいんだがいいか?」



おじさんは興味津々なようである。






一通り味見し終わったので、やっとセルクの樹液の採取を開始する。



レデューから寸胴(深さのある鍋)とロープとパイプのような物(市場で買った)


を取り出す。



樹木に寸胴を取り付けてロープで固定する。



そして樹木に空けた穴にパイプのような物を差し込んで、



「完成!」



パイプから流れ出してくる樹液を寸胴で受け止めて貯まるようにした。




「とりあえず、登録するか」




【セルクの樹木】


・シャントルイユ帝国領域のエッカルト湖周辺を主に生息している植物で綺麗な水を好む。幼木は綺麗な水場が近くにある環境でしか育たないが、10年以上経つ木は耐性力がつくためある程度の環境には耐えられるようになる。また、地球でいう(メープル)に非常に近い植物であり、楓よりも葉っぱは大きい。そして樹液は甘く楓よりも糖度が高い。









これならメープルシロップが作れそうだとユタカは頷いた。



それから、10ヵ所に同じようなモノを取り付けた。



セルクの樹液が貯まるまでは時間がかかりそうではあるが、一日経てば結構な量になるはずだと見通し、しばらくは様子を見ることにした。



「なぁ、今更なんだが君達の名前を教えてくれないか?俺は【オイゲン】だ」



ということで彼らは自己紹介をすることになった。






「してユタカよ、聞きたいことがあるんだがいいか?」



「はい何でしょう?」



「セルクの樹液を集めて何をする気なんだ?」



「今は秘密です。こちらの二人にもまだ言っていないので。ま、完成したら教えますよ」



「…?そうか?ならば待つとしよう。完成したらよろしくな」



「わかりました」



「おう。ところで【セルクの大樹】に行かないか?あの大きさはハンパないぜ!一度見てみる価値はあると思うな。もしかしたら樹液がたくさん手に入るかもしれないし」


「セルクの大樹?樹液が大量に手に入るなら是非行きたいですね」


「そうか。あ、ほら、ここから見えるだろ?あのデカイ木だ」



前方50メートル程先に見えるのは大樹。明らかに周りのセルクと比べて大きい。


これは楽しみだとユタカは思いながら馬車は進んで行った。







「デカイな」



思わずそう言いながらユタカは見上げた。



「大きいわね。この木の葉っぱなんてメルと同じくらいの大きさはあるわよ」



シアが地面に落ちていた大樹の葉っぱを拾い広げながら言った。



「うん、簡単にメルを包めるくらいに大きな葉っぱだ」



「はははっ、デカイだろうセルクの大樹は!なんと樹齢100万年だそうだぞ!」




軽く見積もっても直径50メートル以上はある幹に、背丈に至っても高層ビル程はあるだろうか。その存在感は圧巻である。



セルクの大樹に見入っていると、メルが何かを見つけたのか、ある部分をじーっと凝視していた。



「メル、どうかした?」


それに気付いたシアはメルに声を掛けた。


するとメルはあるところを指でさしていた。


何だろう?とシアは首を傾げる。その状況を見ていたユタカはシアと目が合い、お互い頷いてメルがいる場所へと歩み寄った。



「ここ」



ここ?メルが指差した方を見ると、



「空洞か?」



何やら空洞があり、どういうわけか光りが差し込んでいて中の様子がよく見える。



こういった木の空洞や穴は大抵、動物の住み処だろう。しかし、見た感じでは何もなく気配も感じられない。



「奥が光ってる」



メルはそう言いながらとても空洞が気になっている様子。



「んーじゃあこの中に入ってみる?」


「へ?」


突然シアから提案されて、ユタカは思わず間抜けな声を出してしまった。


「大丈夫。安全かどうか先にアタシが見てくるから。まあ危なくなったらすぐ戻ってくるわよ」


と言いながらシアはウインクをした。


「メル、ユタカの護衛お願いね。じゃあ行ってきます」





数分後、シアが空洞から出てきた。

慌てた様子がないことから空洞の中は安全なのだろうとユタカは当たりをつけ、どうだったのかを質問した。


「なんだか凄かったわ。特に危ないこともなかったし皆で入ってみましょ」


ということでシアを先頭に4人は一列になって空洞の中へと入っていった。







大人2人は通れるくらいの大きさの穴を進んでいる4人。


異様な輝きを放つ空間が続き、奥に進むにつれて輝きが増しているようにも感じる通路。


途中曲がりくねっている場所もあり、どこまで続いているのかは、シアのみが知っている。


凄いと言っていたこともあり一体何が凄いのかユタカは気になっていた。期待に胸を躍らせているうちにその場所へと辿り着いた。



そこは、窓からカーテン越しに太陽の光りが差し込んだような優しくやわらかい明るさで辺りを照らし、自然と落ち着ける神秘的な場所だった。また、大樹の最深部であるのか空間は広く、見上げるとどこまでも続く吹き抜けは圧巻である。


そんな情景に見入っていると、シアが言葉を発した。


「凄いでしょ。なんだか心が洗われるみたいに気持ちが落ち着くっていうのかな」


他の3人は頷いた。


「それと、アレが何なのか気になるのよね」


シアの目線の先にあるもの、それはゴボゴボと音を立てている。


それは広間の中心に根のような枝が螺旋状に集まっていて、そこから水のようなものが溢れ出していた。



木の中なのに水(?)が湧き出ているなんて有り得るのか?とユタカは思うがファンタジーな世界なので十分有り得るだろうと納得した。


しかしただの水でないことは間違いない。色が少しばかり茶色であることがその理由である。


4人はその水が溢れ出るところまで近づいた。


「これって飲めるのか?」


疑問を口に出しつつも確認する意味で少し飲んでみようとユタカが試そうとした時、隣にいた普段は無表情の少女が両手でその水をすくって飲んだのである。


「メ、メル?だい」


大丈夫かと聞こうとした瞬間、


「甘くておいしい」


とメルはニコッとして言った。


他の3人もメルに続けとばかりにその水を飲みだした。



「甘いな。はて、この味はどこかで…」


「うん、ついさっき味わったような…」


上からオイゲン、シアの順である。




そして、





「こ、これはセルクの樹液!!」



見事正解を引き当てたのはユタカ。

そう、これは樹木に傷を付けて採取したセルクの樹液と同じ味だったのである。



樹液とわかった4人はしばらくその甘さを味わった。



そしてユタカは溢れ出るセルクの樹液を見て何かを考えていた。



どうやらこの溢れ出るセルクの樹液は溜まることなく何処かへと流れているようだ。少しばかり流れを辿るとほんの少しだけ、外の景色が見えた気がした。



つまりはこの樹液は外へと流れていることになる。

それならば、このセルクの大樹から樹液を採取すれば良いのではないだろうかとユタカは考えた。


樹木に傷を付けないで、尚且つ大量に樹液を確保出来る。


まずは、この溢れ出る樹液を大量にいただくことにした彼は、何も物を入れていないレデューを取り出して直に樹液を注ぎ込んだ。セルクの樹液専用ならば水浸しになることはないし問題ないだろうということらしい。




「では俺も」


ちゃっかりオイゲンも樹液をいただいたそうな。



何気なくフィニッドを取り出してみると、



「あれ?さっきセルクは登録したはずなんだが」



新しく登録されたようだ。



【セルクの大樹】


・樹齢100万年を越すセルクのこと。セルクの樹齢が100万年を越すと、木の内部で樹液が湧き出るようになる。世界にひとつ、エッカルト湖周辺にしか存在しない大樹である。







世界にひとつだけしか存在しないセルクの大樹。ならば、なくなることはどうしても避けたい。




「保存能力」



これで朽ちることはまずないだろうとユタカはセルクの大樹に、長生きしろよと呟いた。






レデューにたっぷりと樹液を入れたユタカ達は、セルクの大樹を後にした。



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