第15話 名水ノルイデナ
チュンチュン
ピュー
ホケキョ
窓から差し込む光りが目覚めの朝だと教えてくれる…
「今日も良い天気だ」
昨日、ユタカ達は夜に帝都に着いたこともあり、すぐに泊まれる宿を探して就寝したのだった。
そして、今はもう朝である。
宿に朝食が付いていたことを思い出し、隣りの部屋にいるだろうシアとメルを起こしに彼は向かった。
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シア、メルと共に朝食をとるため席に着く。
朝食は何かなと思って待っていると、いくつかの料理がテーブルの上に置かれた。
その中で、一番に目を引く食べ物がある。
それは、
【ソーセージ】
である。
皿の上に、どーんと大きなソーセージが3本と小さいのが3本。
そしてソーセージの横にある皿には大きなパンと、
【ジャガイモ】
が皮付きのままクシ切りにカットされ油で揚げたのを玉葱とベーコンで炒めた
【ジャーマンポテト】
らしきものが皿の上に大量に乗せられていた。
あとは、朝とれたばかりだという牛乳をホットミルクで。
早速いただくことにしたユタカ。
まずはやはり一番最初に目に入ったと思われるソーセージから食べるようだ。
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「中々美味しかった」
シアとメルの方を見ても笑顔である。
とはいえ地球出身のユタカからするとソーセージの味は薄かった。
やはり塩は高価だからなのか。彼としてはソーセージはもっと塩味が欲しいみたいだ。…塩味強めのソーセージでも作ってみるか?とも考えている。
(それにしてもジャガイモ料理にソーセージとはね…あとビールなんかあればドイツだな)
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今日はセルクがどの辺りに生息しているのか調べることにしたユタカ。
メルによると、帝都ブットシュテットから北東の地域に生息しているとのこと。
地図を広げてみると、
「湖…?」
地図に記されている場所には【エッカルト湖】と書かれていた。
つまり、セルクはエッカルト湖周辺に群生している植物となる。
あとはその湖まで、どのくらいの距離があるのか地元の人に聞いてみることとなった。
情報を集めつつ準備しつつ帝都を散策を開始。
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ユタカ達は今、帝都ブットシュテットで情報を集めつつ散策をしている。
「いやぁ、帝都だけあって人の流れが凄いな」
ユタカは思わず口に出してしまう。
シャントルイユ帝国
帝都ブットシュテット。
やや肌寒い気候の地域。
帝都の近くにはエッカルト湖から流れているエッカルト川がある。
都の中心にそびえ立つのは国を象徴する城。青と白を基調とした配色は某テーマパークにあるシン〇レラ城にそっくり。
そしてその城へと続く道がとにかく広い。ルマの街の倍以上はあると思われる道幅。道自体も整備されているのか綺麗である。日本で言う京都のような等間隔で道が敷かれているような感じであった。
そして、物流が盛んなのか人の量が凄い。特にお店が並ぶ通りはとても賑わっているように見えた。
活気があるし物流も盛んであるから、食を広める場所としては良いかもしれないとユタカは目論む。
そんなことを思って歩いていると、
「…奇跡の水」
とメルが呟いたと同時に突然走り出した。
「あら、アタシも欲しいわ!」
とシアまでも走り出した始末。
「えーと、奇跡の水?それって一体何さ?」
ユタカは一人おいてけぼりであった。
となると、二人を追い掛けなければならない。
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ゴクッ
ゴクッ
プハァ
「う、うまい!もう一杯!」
二人を追い掛けて、
奇跡の水と称する【ノルイデナの水】を一気飲みしたユタカは思わずそう言葉を発した。
「でしょ!ブットシュテットといえば名水ノルイデナよ。久しぶりに飲んだけど美味しいわぁ〜やっぱコレよね」
と飲み干したグラスを片手にシアは言った。
「メルも久々」
ノルイデナの水を少しずつ飲んでいるメルを見ていると何だか小動物のようだと思ったユタカ。
結論としては、この水は美味しい。飲みやすいのは当然であり、何よりも、
「この甘さが絶妙なのよね」
とても甘いというわけではないが、優しい甘さで後味がスッキリである。非常に飲みやすく体に浸透するような感じがする水のようだ。
でも何で奇跡の水なんだろうか、何か特別な力でもあるのか?と疑問に思ったユタカは、
奇跡の水ことノルイデナの水を販売している頭が寂しいおじさんから、
おかわりを受け取りながら聞いてみることにした。
「おじさん、この水は何で奇跡の水と呼ばれているんですか?」
「おう!それはな、病気や怪我を治す効果があるからだぜ!例えば、傷口に直接かけると治る速度が早いとかな。あと、この水を飲むと体が軽くなるんだ」
体が軽くなった感じはするユタカは、今なら垂直飛びで5メートルは跳べそうな気がした。
(…試しにやってみるか?
思い切りだと大変なことになりそうな気がするから、ほんの少しだけだな)
「てい」
微妙な掛け声と共に脚にほんの少しだけ力を入れて地面を蹴る。
シュッ
(3メートルくらいか)
「ユタカって意外と脚力あるのね。アタシと同じくらい飛べるんだもの」
シアはユタカに感心していた。
実際のところ、全力を出せば10メートルは余裕で跳べそうな気がしたユタカである。名水による効果なのかは疑問ではあるが。
そんなこんなで、この水は一体どこで手に入れたのかを聞いてみると、
「エッカルト湖から湧き出る水だぜ」
と教えてくれた。
エッカルト湖といえばユタカ達が行く予定の場所ではないか。なんという偶然。
ならばセルクについて知っているかもしれない。湖の周辺に群生しているのであるから何かしら知っているに違いないとユタカは予想した。
「おじさん、コレ知ってる?」
ユタカはおじさんにセルクを描いたイラストを見せた。
「ん?…セルクの葉か?知ってるもなにもエッカルト湖のまわりにあるぜ。これがどうかしたのか?」
「はい、私はこの葉の成る樹を求めているんですよ」
「ほう。それならエッカルト湖に行くといいぞ。とびきりでかいセルクの樹があるからな」
(へぇ、とびきりでかいセルクの樹ね)
「そうなんですか、ありがとうございます」
「ところでお前達、エッカルト湖までどうやって行くかわかるか?」
「いえ、わかりません」
「じゃあ教えてやる」
ということで、ついでにおじさんにエッカルト湖までの道のりと、どのくらいの距離があるかを教えてもらったユタカ達だった。
(あぁ、このおじさん良い人だな。頭は寂しいけど)
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【ノルイデナの水】
エッカルト湖から湧き出る水で奇跡の水と呼ばれている。またブットシュテットの名水である。この水を求めて来る人もいるくらいである。
通常の水と違い甘さがある。スッキリとした後味で、非常に飲みやすい。
怪我の治癒効果があり傷口に直接かけたりすることで治る速度が通常の倍以上。また、疲労を回復させる効果もあり、疲れ等にも効く。そして、身体能力を向上させる効果を少し持つ。
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エッカルト湖までの距離は徒歩なら半日、馬車ならそこまでかからないとのことなので、次の日にでもエッカルト湖へと行くことにした。
ということで、彼らは今日は帝都の散策と明日に備えての準備をする。
色々と見て回っていると、良い匂いが漂うエリアに入る。
どうやら飲食店が立ち並ぶ場所へと到着したようだ。
いつの間にかご飯時になっていたせいかそれぞれのお店には結構な人が並んでいた。
そして、
ぐぅ〜
「メルお腹空いた」
とメルが言ってきた。どうやらメルの空腹は限界のようだ。
「ちょうどいいからご飯にしようか」
とユタカが言うと、二人は即座に頷いた。
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ユタカ達は【乙女心】というお店に入った。
店名は突っ込みたいところだが空腹なようなので気にしない方向である。
店内を見渡すとテキパキと機敏な動きで店内を駆け巡るホールの女性が三人の元へとやってきた。
「いらっしゃいませ、ご注文はいかがなさいますか」
「日替わりランチを一つ」
「アタシも日替わりランチ」
「メルも」
上からユタカ、シア、メル。
ということで三人は日替わりランチをチョイスした。
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20分後。
「お待たせ致しました、日替わりランチでございます」
ホールの女性が持ってきたものを受け取る。
パンにスープ、ポテトサラダみたいな品と、
輪切りにしたソーセージと卵と炒めたものにパセリがふりかかった品にキャベツの酢漬けを付け合わせに。そして少し茶色を帯びた飲み物の5品である。
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「ごちそうさま」
茶色を帯びた飲み物はなんとも香ばしさのある蕎麦茶のような味だった。温かくし和むユタカ。
シアとメルの方を見ると、メルはいつも通りだが、シアの表情は少し険しかった。
特にマズイ料理はなかった。となると、もしや嫌いな食べ物があったのかと彼は予想する。
「…ユタカ、この茶色い飲み物どう思う?
とシアに言われた。
「あぁ、この香ばしいお茶ね。美味しいと思うけど…?」
「アタシ、これはちょっと…」
どうやらユタカの予想通り、苦手なものであった。
とはいえ、独特な味わいなので好みは別れる。ユタカは好きだけど、シアには合わなかったようだ。
シアの隣りにいるメルはというと、
「おかわり」
蕎麦茶らしきものが気に入ったみたいだ。メルには嫌いな物がないらしい。
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ご飯も食べ終えたので、セビリン村で大量に購入したキノコ達を売ることにしたユタカ。
今回は馬車は使わないで、キノコだけ販売ということなので彼一人でも大丈夫だろう。シアとメルには先に帰ってもらった。
露店が並ぶ所にちょうどスペースが空いていた場所があったのでそこで売ることにする。販売スペースは誰かの許可が必要ということはなかった。
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あっという間にキノコは完売した。
お客さん曰く、
「セビリン村のキノコは他のキノコに比べて美味しいのよ」
「セビリン村からのキノコは薬にもなるんだよ」
「体に良いしね」
などの感想をもらい、まとめ買いするお客さんなんかも結構いたおかげで2時間程で完売した。
懐があたたまったユタカは宿へと戻っていった。