第14話 メルのちから
コトンコトン
コトンコトン
馬車が物凄い速さで道を突き進む。
地球で言うと電車並みの速さといえばいいだろうか。時速100キロは出ている程の速度だ。
しかも上り坂なのにもかかわらずである。
こんなに速度が出ているのなら、揺れと振動が酷く馬車の中にいるユタカ達は悲惨なことになっているだろうと思いきや、
「快適だ」
ユタカは呟いた。
つい言葉に出してしまう程に。馬車の中は揺れがそれほどなく振動もあまりないのだ。これなら体中が痛くなることはないし比較的に楽なのだそうだ。
操縦しているのはメルだ。風魔法を使って馬車の速度を上げてもらうので、コントロールする意味も兼ねて馬車を操縦してもらうことになった。
何か問題が起きた場合なんかに速度調節とかしなきゃいけない時が出て来るかもしれないという意味合いもある。
その操縦しているメルの体を薄っすらと光りが纏っているように見えた。
魔法発動中だからそう見えるのだろうか。
メルにどうして揺れと振動があまりないのかを聞くと、メルの風魔法は馬車全体にかかっており、風自体がクッションの役割をしてくれていると説明してくれた。
それで馬車の中は意外すぎるほど快適というわけらしい。
このままうまく進めば二日程で帝都に着くんじゃないかとユタカは思った。
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「そろそろご飯にしようか」
山を越えた所で、辺りが暗くなってきた。お腹が空いたこともあり、馬車を止めてもらってご飯にしようかとユタカは二人に声をかける。
シアとメルはご飯の時間が楽しみなようで、自然と笑みが零れている。
今日はどんなご飯にしようかなと考えていた時、
ガルルル
「やはりこういった状況になるものなんだな」
全長1.5メートルくらいの見た目からしてオオカミのような動物が十匹以上現れたのだ。それもユタカ達を囲むように。
ハァハァと息遣いを荒くして口から唾液が溢れ出て地面へとポタポタと垂れているように見える。そして、その口から覗かせる牙はなんとも鋭そうで、あんなのに噛み付かれたら骨まで粉砕しそうなそんな感じであった。
このままだと、相手側のご飯タイムになってしまいかねない。
そうユタカが思っていたら、一匹のオオカミらしき動物が飛び掛かって来たので身構えると…
キャインッ
何かに弾かれたかのようにオオカミらしき動物は吹っ飛んでいった。
(あれ?何で吹っ飛んだ?)
…と彼は疑問に思いつつメルの方へ向いてみると、
「風の防御円張ったから大丈夫」
とメルが発言した。
よく見てみると、ユタカ達を中心に半径5メートルくらいの半球状の何かに覆われている。
「メルの防御円は最強だから安心して良いわよ」
とシア。
「最強ね…」
とりあえず、防御円はしばらく持続するようなので安心して良いとのこと。
何気にメルは凄い風魔法使いなんじゃないかと思うユタカだった。
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気を取り直して、ご飯の時間にする。
セビリン村で売っていた食材を使って作った料理はというと…
茄子とトマトリア、カボチャやパプリカが彩る野菜と乾し肉を煮込んだ
【ラタトゥーユ】
野菜達を1〜2センチくらいの大きさに切ったものを煮込んで、塩と胡椒で味付けたシンプルな料理なのだが、中々にうまく出来上がった。ちなみにミエルを少し入れてある。
料理を作っているうちに諦めたのか、オオカミらしき動物達はいつの間にかいなくなっていた。
これで安心してご飯を食べられると息をはくユタカ。
スプーンで軽くすくい、
まずは一口。
パク
モグモグ
(ほぉ〜これはいい
トマトリアの酸味とミエルの甘味が見事に調和して野菜達の旨味を引き立てている。
さらに乾し肉の旨味も合わさり美味しさが増しているようだ。
野菜たっぷりでミネラルが豊富。ビタミンも採れるわけなので女性にはウケが良いかもしれない。
そして、しっかりと煮込んでいるわけだから、消化にも良いかもな。
胃腸の弱い私には良いかもしれん)
とはいえ、この世界に来てから胃腸の調子が良いような気がする彼は、体も軽く体調もすこぶる良好な状態のようだ。
今回の料理はシアとメルの口に合うかなとユタカは思っていたが、
「ユタカ、おかわり」
「ユタ兄、メルも」
二人とも満面の笑みでおかわりを宣言。どうやら気に入ってくれたようだ。
作る側としては嬉しいのだ。作り甲斐もあり、作った料理を食べて笑顔を見せてくれることを。
とはいえ、ユタカは二人に言いたいことがある。
「君ら食べるの速くない?私まだ一口しか食べてないんだよ?」
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コトンコトン
コトンコトン
景色が巡る巡る過ぎていく相変わらずハイペースな速度で道を突き進む馬車。
操縦席には、ユタカとシアが座っている。そしてメルは現在爆睡中である。
メルが爆睡中なのに馬車の速度が落ちていない。メルが魔法を使っているからこそ速度が出ていたわけなのだが、速度はある。
【持続魔法】
一気に大量の魔力を使う代わりに魔法を持続させることが出来る魔法。
それによって馬車の速度は一定の速さに保たれているようだ。
そしてユタカは操縦席にいる。
護衛を雇っているとはいえ、いつまでも何もしないというわけにはいかないと判断して馬車を操縦しているようだ。
一応シアから操縦の仕方を教わり、現在に至るというわけらしい。
「今向かっているブットシュテットてどんなところ?」
シアに聞いてみると。
「そうね、ルマの街よりも大きいわね。帝都だし、立派なお城があるわ。それに美味しい食べ物もたくさんあるしね」
「へぇ。何だか楽しみだな」
「ユタカは行ったことないの?」
「うん、初めて行くよ」
「あら、珍しいわね。だいたいの人は訪れたことがあるんだけど」
そうなの?と言いつつ、異世界から来たんだし知らないのは当然だと思うユタカである。
そんなことを話していると、
「お城見える」
いつの間に起きたのか、メルが後ろからユタカとシアに言葉をかけた。
「本当ね、あともう少しで着くわ。メル、そろそろ馬車の速度を落としましょう」
「わかった」
その言葉を合図に、馬車全体にかかっていた魔法が解除される。
う…いきなり解除したものだから、
ガタンガタン
揺れる。
そしてまた体が痛くなりそうで、ユタカは少し強張る。あと少しで着くというわけで贅沢は言えないなと苦笑する。
ここで彼は違和感を感じた。それは肌が冷たく感じること。
シアとメルは何やら上着を取り出して、はおり始めた。
ユタカは納得した。
「寒いんだな」
「ブットシュテットだから少し寒いわよ。あれ?ユタカ知らなかった?」
知らないよと返事をしながら腕をさすった。
気候までは知るはずがない。地図を見る限り北に位置していたが、寒いとは予想していなかった。
今の格好だと少し肌寒いくらいで、我慢は出来る。そこまで寒いというわけではない。
帝都に到着したら何か着るものでも買おうとユタカは思った。
とはいえ急に寒くなるのはおかしい。
チラッとメルの方を見ると、
「魔法解除したから」
と言われた。
「あの魔法は色々と調整してくれていたのか。ということは寝る時とかも魔法発動してたのかな?じゃないと寒いもんね」
今回の魔法といい防御円といい本当メルには驚かされるユタカ。
(あれ?シア護衛として何もしてなくねえか?)
こうして、シャントルイユ帝国、帝都ブットシュテットへと到着した。