第13話 方針
「のどかな村だな」
セビリンの村はほのぼのとしていそうな雰囲気である。村の周辺は草原と森が広がっており、そこから吹き付ける風はとても心地好く清々しい気持ちにさせてくれる。
宿では2室借りている。一室はユタカ。そしてもう一室にはシアとメルが一緒の部屋にいる。
とりあえずは二日程この村に滞在する予定で、その間に村を適当に散策して、見たことのない食材や食べ物を購入したいとユタカは考えている。
そして彼は前々から考えていたことを試してみようかとも思っていた。
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村の村長さんに許可を貰いに行ってきたユタカは、馬車を携えて村の中心部分へとやって来た。
勿論彼は操縦が出来ないのでシアとメルに頼んだわけである。
事前に買っておいたテーブルや台をレデューから取り出して、馬車中と外に並べる。
そして、並べたテーブルの上にザルのような物やお皿を置いていく。
さらに、レデューからは、保存能力を使った魚や肉等のナマモノの他にルマの街で流通している野菜や果物、ブラッドペッパー等を取り出して、先程のザルやお皿に陳列する。
「よし、完成」
簡易型の規模の小さいスーパーマーケットが出来上がった。
「ユタカ!色々と突っ込みたいんだけどいい?」
何?とばかりに予想はしていたユタカ。
「これ、魚だよね?」
シアが指差した先にあるのは、馬車の外に出した台の上に置かれた生の魚である。
「うん、そうだよ魚だよ」
「何でいかにもさっき捕れた様な新鮮さがある感じがするのかしら?ルマの街からこの村まで四日も経っているのよ!いくらなんでも腐るでしょう?」
保存能力使ったものは腐らない。ユタカはまだ言ってなかったようだ。
「これは、私の能力を使ったから新鮮なんだ」
と言うと、
「…ユタ兄、時空魔法も使えるの?」
メルが横から手でチョンと突っつきながら言ってきた。
するとシアがパッチリとした目をさらに見開き、息使いを荒くしながらこう言った。
「時空魔法ですって!?あの伝説級魔法の?」
面倒なことになってきたので、ユタカは棒になった。
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今回はごまかすのが、難しいと判断して、
「気づいたら使えるようになっていたんだ」
あながち間違っちゃいない説明ではある。
とはいえ、
「状態を保つくらいしか出来ないけどね」
(時空でもそれくらいしか出来ないんだよ。そこまで凄くないような気がする)
「ユタカ、状態を保つというのはね、それはとてもとても………」
どうやら彼は地雷を踏んでしまったようだ。
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「……そういうわけで凄いのよ、わかった?」
「はい、わかりました」
シアから時空魔法がどれほど凄いのかを長々と聞かされたユタカはゲッソリしていた。
そんなこんなで、このやりとりをしていると、村の人達が集まって来ていた。
これは好都合だとユタカは思った。
そして、村人の一人、村人Aが話し掛けてきた。
「賑やかな声が聞こえるから来てみたが馬車を止めて一体何を…ん?これは生の魚じゃないか!」
「はい、ルマの街の方で捕れた生の魚を販売しております」
生の魚という単語を聞いた村人達はどんどん近寄って来る。
「こりゃ驚いた!一体どうやって運んで来たんだ?見たところ新鮮だぜ!」
村人Bがくいついてきた。
すると横からまたしてもメルが、
「時空魔法」
とユタカへ指を差しながら言い放つ。それを聞いた村人達は、驚きの顔と尊敬の眼差しを彼に向けているではないか。
「ほーそうかそうか、ならば納得だ」
村の人達は納得したようで、
「じゃあ、この魚をくれ!」
一人の発言で、
「俺にもくれ」
「ワタシにもちょうだい」
「わしにも売ってくれ」
と魚は飛ぶように売れに売れた。
そして、
「よろしければ、馬車の中もご覧ください」
とユタカが言うと、村人達は馬車の中へと次々に入っていく。
「これはシャロかしら、この村の近くに実らないのよね、これを買うわ」
「なんだなんだ、珍しい物ばかりじゃないか、これとこれとこれをいただこう」
「おぉ、こっちにはブラッドペッパーがあるじゃないですか」
「なんだと?最近めっきり途絶えていたあれがか?こりゃ買わなきゃいかんな」
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「ありがとうございました。またのご贔屓に」
ルマの街で大量に仕入れた甲斐あって、並べた品全てが、
「完売だ」
あっという間に売れた。特に魚は秒殺であった。
セビリンの村の近くには川や海がない。
魚を仕入れるにしても、輸送中に駄目になってしまうのがオチである。まず新鮮な魚なんてものは通常手に入らないのだ。
結果、飛ぶように売れたというわけである。
シアとメルにも販売を手伝ってもらったので、後で報酬をあげなきゃなと思うユタカだった。
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「販売はした。ので次は買い出しだ」
出来ればこの村の特産品があれば購入したいとユタカは意気込んでいた。
シアとメルに先程の報酬として金貨を何枚か手に握らせた。
メルは非常に驚いていた感じだったが、収めてもらった。
二人に馬車を戻してもらった後、彼は村のお店を見て回ることにする。
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「ほう、これは中々」
ユタカは只今お店で物色中。店主曰く【キノコ】はセビリン村の特産物らしい。
つまり今手に取っているのは、キノコである
そのキノコは、傘の部分が大きく色は黒色で見た目はシイタケに近いものであった。
【クレノタケ】
主にセビリン村で採れるキノコ。
地球でいうシイタケに近い形で色は黒く、傘の部分は大きい。味はシメジに近い。そして多くの旨味成分を含み食物繊維が豊富である。
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隣りに目を移したユタカは目を見開く。
「こ、これは!」
絶妙な形、そして良い香りがする、日本では高級なキノコに分類される。
「マツタケ!」
まさか異世界にあるとは思わなかったマツタケ。
しかしマツタケとは何かが違う。
よく目を凝らすと、
「…紫?」
色合いが若干紫色をしていた。
(なんだろう、紫色のキノコってよくないような…)
そう彼が思っついると、店主が、
「そのキノコ初見かい?別に毒があるわけじゃないぞ。火を通せば紫色から茶色に変わるから安心してくれ」
と教えてくれた。
【マツシノタケ】
セビリン村で採れるキノコの中ではやや高級品に分類される。別名セビリン。
地球でいうマツタケに非常に近いキノコ。キノコの中では良い香りがするランキングでは上位である。
少し紫色を帯びているが毒はなく、火を通せば紫色から茶色に変色する。
生食もできる。
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「毎度ありまた来てくれよ♪」
キノコを販売していた店主は上機嫌である。
なぜならば、
店にあったクレノタケとマツシノタケ全てをユタカが購入したのであるから。
ついでに、この村で美味しいご飯処があるかを聞いたところ、
「それなら【マルスクレノ亭】がオススメだ。自慢のキノコ料理を出してくれるぜ」
期待出来そうな気がしたユタカは、店主にお礼を言って、その場を離れた。
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一度宿に戻って収穫した物を部屋に置いて、シアとメルがいる隣りの部屋のドアを叩こうとしたら、
ガチャ
「あらユタカ、どうしたの?」
タイミング良くシアがドアを開いて部屋から出て来た。
「今からご飯を食べに行こうかと思ってさ、シア達も一緒にどう?」
「ちょうどいいわね。今アタシ達もご飯食べに行こうとしてた所なのよ。ね?メル」
「うん、ご飯食べる」
「なら行こう。村の人に美味しい店教えてもらったんだ」
「へえ、期待しちゃうわね」
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ユタカ達三人は、マルスクレノ亭へとやって来た。
店の外にいても何やら良い香りが漂い鼻をくすぐる。
「こんにちわー」
と言いながら店の中へと入ると、ほとんどの席は埋まっていた。偶然三人分の席がちょうど空いていたのでそこへ腰掛けることにした。
「いらっしゃいませ」
と、一人の少年が水の入ったコップを三人分持ってきた。
「この店は初めてですか?」
「「「はい」」」
「それでしたら、こちらの3品がオススメとなっています」
「じゃアタシはこれ」
「…メルはこれがいい」
「私はこれで」
上から、シア、メル、ユタカである。
見事に三人共違うオススメ料理を選んだ。
「かしこまりました」
と少年は告げてホールの仕事に戻っていった。
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しばらくして、
「お待たせ致しました」
少年の手からシアの目の前に置かれたのは、
「クレノタケとベーコンのスパゲッティセビリン風でございます」
キノコとパスタの相性は抜群。見た目と味が伴っているであろう。
続いて運ばれたのは、
「クレノタケとポテトのセビリン風グラタンでございます」
メルの前に置かれたそれはとても熱そうである。グラタンのチーズとクレノタケはうまい具合に調和していそうである。
最後に、ユタカの前に置かれた料理はというと、
「ヘインバルクのソテークレノタケソースがけセビリン風とパンでございます」
ここは男の子。やはりガッツリ食べたいのか肉を選択したようである。
「「「いただきます」」」
モグモグ
ゴクン
三人から笑顔がこぼれる。
(美味しい。ヘインバルクは鶏肉のような味だし、クレノタケとよく合う。しかしこのクレノタケのソースは凄いよ。
フィニッドにシイタケよりも旨味成分が多いと書いてあったけど、予想以上に私の舌に旨味を与えてくれる。なんだろ、少し甘味もあるからか、より美味しく感じる。
あと、風味が良いんだよな〜さらに美味しさを引き立てるというかなんというか)
フォークでクルクルとパスタを巻いて口へ運ぶシアは、
「美味しいわね。香りが凄い良いわ」
との感想が出た。
隣りのメルへ視線を向けると、笑顔になりながら、口いっぱいにグラタンを頬張っている。
熱くないのかな?とユタカは思うが、風の魔法でも使って冷ましているのだろうと予想した。
どちらにせよ、メルを見て癒されるユタカであった。
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半分くらい食べた所で、ひとつ気になることがあるユタカ。
「セビリン風って何?」
ホールの少年を呼び出して聞いてみることにした。
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「セビリン風というのはマツシノタケのことをいいます。料理の真ん中を見てください。紫色のが少し散りばめられていますでしょう?」
あ、ほんとだ。少し分かりにくいけど紫色があった。
(なるほど、そういうことか。だから風味が良いんだな。納得)
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いくらか時間が過ぎて、
「「「ごちそうさま」」」
全てを綺麗に平らげた三人。
「うむ、美味しかった。
オススメなだけある」
「ありがとうございました。またお待ちしております」
お金を払ったユタカ達はマルスクレノ亭をあとにした。
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翌日。
今ユタカは地図を広げている。
セビリンの村からシャントルイユ帝国領までは速くて六日で着く。
その間にはちょっとした山があり、それを越えればシャントルイユ帝国領があって、さらに一日程進めば帝都【ブットシュテット】に着く。
普通に進めば七日はかかるということだ。しかし途中に村や街がないようなので行きよりも若干大変かもしれない。
そう考えていると、メルがやって来て、
「…メルの魔法使えば速く着くかも」
と言ってきた。
「どんな魔法を使うんだい?」
「風を付与する魔法」
「風力を使うってことかな?」
「そう」
なるほどね。その手があるのか、とユタカは手を叩いた。
つまり馬と馬車に風を付与することで、馬自体の加速と馬車が風によって引っ張る力が軽減されるから馬の負担も少なくて済む。
それならば速度は速くなる。
ここで疑問が出てくる。
…何故ルマの街からセビリンの村までは使わなかったのだろうか?ということを。
「魔力結構使うから疲れる」
それなら無理には出来ない。しかし、なぜこのタイミングでメルが。魔法付与できることを話して来たのだろうか。
今回付与魔力使ったら疲れてしまうのは明白なのである。
メルに理由を聞くと、
「これあるから」
とメルはオレンジ色をした物を取り出した。
「ドライアーチェ?これがどうかしたのか?」
「これ食べると魔力回復する」
そういうことか、とユタカは納得した。ならば特別にと、レデューを開いた。
「メル、これだけあれば足りるかい?」
メルの両手いっぱいにドライアーチェを渡した。
「十分」
メルは大きく頷いた。
これで予定よりも速く帝都ブットシュテットに着けることになるとユタカは思うのだった。