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第12話 旅路

家の中へと先に入って行ってしまったメルに追い付いたユタカとシアは、一つの部屋に案内された。



メルはテーブルの上にティーカップを置いていき、透明感のある赤茶色の液体をポットから注いでいた。



紅茶のような、ハーブティーのような良い香りが鼻をくすぐる。



とても熱そうな程に湯気が立っていたのでユタカは後程いただくことにした。



お茶を全て注ぎ終わって、紫色の瞳がユタカとシアをとらえている。



「…それでメルに用て何?」


メルはポットをテーブルの端に置いて言った。



「メルが植物について詳しいとシアから聞いて来たんだ。今から言う植物について教えてほしいんだけども…」


「…そう、わかった」


メルはコクンと頷いた。


ユタカはレデューから紙とペンを取り出して、楓の葉を描いて彼女に見せる。


「これなんだけど、知ってる?」


じーっとユタカが描いた絵を見てこう答えた。


「…知ってる」


その回答を聞いた彼は心の中でガッツポーズを決めた。これで目的達成に大きく近付いた。



「良かったらその植物の生息地を教えてくれないか?」


「…うん、いいよ」


顔は無表情で読み取りにくいが、こんな見ず知らずの男に教えてくれるとは、素直で優しい子だなとユタカは思った。



そう思っていると『ぐぅ〜』という音が聞こえて、


「…その前にお腹すいた」


と無表情な少女は呟いた。



その言葉を耳にしたユタカはフィニッドを取り出し念じる。すると、一つの料理が彼の手に現れた。


「…っ!?」


突然のことでメルに加えてシアも驚いていた。



焼きたての香ばしいトーストにバターの香りが合わさり、ミエルの甘い匂いが周囲に漂う。


それはユタカが朝食に決定したミエルトーストである。それが今メルの目の前に差し出された。



「良かったら食べて」



「いいの?」



「勿論」



ユタカに食べて良いことを確認したメルはそのままミエルトーストにかぶりつた。


行儀が悪い食べ方ではあるが、ユタカ本人も同じようにして食べたのでそのあたりは何も言わなかった。

モグモグ


ゴクン



一度目のえん下が終わると、無表情だったメルの顔がとても良い笑顔になっていた。


「おいしい」


とニコニコしながら感想をユタカに向かってメルは言った。


ここまで表情のギャップがある少女を見て、彼は可愛いなぁと思うのだった。






「ユタ兄、おいしかった。ありがとう」


「ユタ兄?あぁ私のことか。どういたしまして」



お礼を言われて返事をした彼は視線を向けられていることに気付く。



じー



シアが物欲しそうにしているのように見えたユタカはシアも食べたいのかな?と思う。


「ユタカ!本が光ってからミエルのトーストが現れた気がするんだけど気のせいかしら?」


(あー、そっちか)



これはまた説明しなければいけないのかと思いつつ、ふぅーっと息をはいた。







「…ということで、登録した食べ物を複製出来るんだ」


「「へぇー」」


ユタカは二人にフィニッドについて少しだけ説明している。他言無用ということも付け加えて。


シアには前回食べ物は複製できると説明したが、一手間加えた料理まで複製出来ることは言ってなかったのであった。


最近になって彼はフィニッドについて気付いたことがある。このフィニッドには使用者の名前つまりユタカの名前が刻み込まれている。

このことから持ち主が決まっている。さらに持ち主の意思、この場合ユタカであるが、念じることでフィニッドを出現させたり消したり出来ることから、万が一盗まれたとしても簡単に手元に戻すことが出来る。

なので、彼が死なない限り大丈夫だということだ。もし使用者が死んでしまったらフィニッドは神様の手元に戻る。元々は神様の所有物。フィニッドの最後のページにそう記されてあった。


以上のことから、公にしなければ、そこまで秘密にする必要がない。ということでシアとメルにはフィニッドについて少し説明するのだった。




バサッ



メルは地図を広げてある地域を指で示した。


「この植物は【セルク】そしてセルクはここ【シャントルイユ帝国】領に生息する」



シャントルイユ帝国は【オールストレーム大陸】の北西部に位置する国である。

また、今ユタカ達がいる場所はオールストレーム大陸の南部に位置する国【クラネルト王国】である。

南部とはいえ、熱帯地域ではない。温暖な気温の地域である。





シャントルイユ帝国までどのくらいの距離なんだろうとユタカは思う。地図を見る限りわりと近いようにも見える。


「メル、ここからシャントルイユ帝国まではどれくらいかかる?」


「…馬車で10日くらい」



ユタカは生まれてからこの年まで馬車に乗ったことはない。現代人には中々乗る機会がないである。むしろ乗ったことがある人のほうが珍しいのではないだろうか。そのため、イマイチ馬車で10日という距離はつかめなかった。



「ところでユタカ、その絵に描かれた植物を探してどうするの?」


とシアに聞かれたユタカは、まだ言ってなかったっけと頭をポリポリとかきつつ返事をした。



「この植物…セルクって言ったっけ?もしかしたら、この植物からあるモノが作れるかもしれないんだ」



「あるモノ?興味ある」


無表情の少女ことメルがユタカのほうを向いて言ってきた。


「アタシも気になるわね」


シアも興味を持ちはじめたようだ。



「ま、それは完成してからのお楽しみってことで。」


すごい気になるーと二人は言いつつも、完成を待つことにした。



(まだうまく作れるか分からないけど、とりあえずはセルクから樹液を採ってからだな)



そう考えているうちに、先程メルに煎れてもらったお茶はほどよい温かさにまで下がっていたのでユタカは一口飲んでみた。



(ん?これは美味しい。酸味があるけど飲みやすいな)


一気に飲み干したユタカは思わず笑みをこぼし、メルにおかわりを催促したのだった。





セルクの生息地がわかったユタカは、シャントルイユ帝国領へと向かうことにした。


シャントルイユ帝国領までの距離は馬車で10日程度。異世界ということで何が起こるか想像がつかない。安全を考慮し護衛を雇おうと考えていた。


「護衛依頼をするとなれば、やっぱりギルドだよな」


ということでユタカはギルドへと足を運んだ。





「ようこそギルドへ」


受付の女性に迎えられたユタカは護衛の依頼をしたいことを述べた。


「依頼ですね。それでしたらこちらの用紙に記入をお願い致します」






記入を終えて受付の女性に用紙を渡す。



「今から掲示板の方に依頼内容を張り出しますので、請け負う冒険者がお決まり次第ご連絡致します」



頷いたユタカは、請け負う冒険者が決まるまで宿で待つことにした。





翌日。


ギルドから連絡が届いて護衛をしてくれる冒険者が決まったとのこと。なので一度ギルドへと行くことにした。



運命の悪戯か偶然なのかどうなのかわからない。


「まさか依頼を受けたのが君達だとはね」


肩まである緑色の髪が風でなびいている美女。表情が読み取りにくいが笑顔の可愛い背の低い童顔な美少女のお二方。


「ちょうど目に入った依頼を読んでみたらユタカだったからね。面白そうだし受けてみたわ」


とシアが言った。


「そっか。シアは冒険者だからわかるけど、もしかしてメルも冒険者なのか?」


「ギルドには一応登録してる…風魔法使えるから護衛出来る」


戦闘向きとは思えないと踏んでいたユタカは、魔法という言葉を聞いて、なるほどねと呟いた。紺色のローブのようなワンピース姿の少女は魔法使いに見える。


ユタカにとっては未知なる領域である魔法。それが使えるのならば護衛としての役割はありそうである。


そして力量はわからないが、二人共顔見知りということもあり、ユタカは気が楽でもあった。



「それじゃ、シアとメル護衛よろしく」


「うん、よろしくね」

「よろしく」



女性二人に護衛されるのはなんとも情けないが、いざとなればユタカも参戦はするつもりである。



こうして三人はシャントルイユ帝国領を目指し向かうのだった。





「…っ」



馬車に揺られて半日。

ユタカは馬車によって起こる振動で表情が堅かった。


(…痛い。尻がヤバい)



現代人には、馬車の揺れと尻の痛さは辛いものがあった。


視線を前に向けると、メルが視界に入る。馬車を操縦しているのは、なんとメルなのである。

率先して操縦の申し出をしてきたので。ユタカはあっさりと了承したのである。



横に視線を向けるとシアは眠っていた。


「よく眠れるなシアは…それより護衛が寝ていていいのかよって思うけど」


そう突っ込むユタカだったが、今走っている街道が安全であることと、尻の痛さのほうが気になるということで、それ以上は何も言わなかった。






日が傾き、夜の帳が降りる前に野営の準備をする。



適当に木の枝等を集めて、ユタカは熱伝導能力で火を点ける。


すると、


「ユタ兄、炎魔法が使えるの?」


とメルが聞いてきた。


「うん、厳密に言うと魔法じゃないけどそれに近いものかな」


「あれ?ユタカ。前に氷魔法使ってなかったっけ?」


とシアが言ってきた。



「…能力なんだけどな。近いものは使えるけど…」


「…ユタ兄何者?」



(いきなり何者って言われてもな…メルよ)


「一般人です」


ユタカはそう答えるしかなかった。


「そう…」



声色から納得したのか、していないのか判らないが、納得したということにしたユタカ。


シアのほうはそうはいかないみたいのようで…




適当に色々とごまかしていると、三人はお腹が空いてきたようだ。ご飯にしようとユタカは提案した。



レデューから鍋を取り出したユタカは、鍋フタを開けると良い匂いが辺りを漂った。


いかにも出来立てのようにグツグツと煮えているそれは、人参とジャガ芋と肉達がクリーミーな白色の少しトロミのついた液体の中で踊っている。



これは【シチュー】である。


旅路の前に、つまり事前に作っておいたものをレデューに入れておいたということだ。


それとパンを取り出して、簡単な晩御飯の完成である。



目の前にいる童顔の美少女の口から涎が出てる。


その横には、緑色の髪の美女からも口から涎が出ている始末。


なんともはしたない二人をそのままにしておくわけにはいかないので、

レデューからお皿とスプーンとレードルを取り出し、二人の前によそってあげた。



「「「いただきます」」」


の掛け声と共に、二人は物凄い速さでシチューを食べていった。




「「ごちそうさま」」



女性二人はおかわりをしても、ユタカよりも先に食べ終わっていた。


食欲旺盛すぎる二人のうちの一人がこう提案してきた。


「ねぇ、ユタカ。料理の担当はユタカでいいよね?」


親指を立てて、


「決定」


とユタカが言葉を発する前にメルが横から言ってきた。


「よろしく頼んだわ」



ユタカが返事をする前に一方的に決まってしまった。


「まぁいいけど、せめて洗い物はやってくれよな?」


その言葉が二人に届いたかは疑問である。





「それにしてもユタカの料理は美味しいわね。今まで食べたシチューの中で断トツだわ」


とシア。


「ユタ兄さすが」


とメルは笑顔だ。



フード能力によってうけた影響はかなり大きい。ユタカの作る料理は美味しいのである。






翌日。


馬車の中は非常に暇であるようで何もすることがない。


ユタカは若干小腹が空いてきたので、レデューからあるモノを取り出した。

直径2センチくらいのオレンジ色で丸い形をした甘い香りがするこれを、頬張る。


モグモグ


(うん、美味しい)


乾燥させたからか、それは生で食べるよりも弾力があり濃縮された甘さと香りが口いっぱいに広がるなんともフルーティーな味わいのようだ。



今ユタカが食べたのは、いわゆる【ドライフルーツ】である。


元はオレンジ色のしたツルツルした表面で野球ボールくらいの大きさの果物【アーチェ】


桃のような味がする果物。

水分を含む量があまり多くなく。生食よりも加工した方がむいていると予想した彼は乾燥能力を使って完成させたのが、この【ドライアーチェ】というわけだ。保存は効くし、そのまま食べてもよい携帯食料である。



そのドライアーチェを食べていると、読んでいた本を閉じて物欲しそうにメルがユタカを見ている。


「食べる?」


と彼が聞くと、コクンと頷いたのでドライアーチェをメルに何個かあげたようだ。


メルはそれをひとつ頬張った。


モグモグ


「おいしい」


と言いながら、メルは笑顔になった。


どうやら、メルは美味しい物を食べると笑顔になるようである。


メルにあげたドライアーチェは次々に口へと運ばれあっという間になくなった。


「ユタ兄ありがとう」


とお礼を言って本を再び読み始めた。





何事もなく、

ルマの街から出て四日が過ぎようとしていた。



「ユタカ!村が見えてきたわ」


と引き続き馬車を操縦しているシアが言ってきたので、彼は馬車から顔を出して見てみることにした。



まだ距離はあるが、前方に集落が見える。



「セビリンの村」


何かしらの本を読みながらメルは言った。



「補給も兼ねて村に立ち寄ったほうがいいわよ。シャントルイユまではまだ結構距離あるしね」


とシアから助言をもらう。


ずっと馬車に乗りっぱなしで、尻が痛くなっているユタカにとっては丁度よかった。



「わかった。その村に行こう」



ユタカ達一行はセビリンの村へと入っていった。




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