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第11話 メルの登場

蜂の巣から脱出したユタカとシアは、ルマの街まで戻って来た。



シアにミエルの筒を150程渡して依頼終了というカタチになった。



「じゃまたね。ギルドに来ればまた会えると思うわ」


と言われシアと別れた。





ユタカはシアと別れる前に蜂の巣内を一瞬で凍らせたことについて言われたのが以下の通りである。


シア曰く、広範囲を凍らせる魔法を使えるのにもかかわらずギルドに登録していないのは、シアからしてみれば考えられないことらしい。(ユタカの場合は魔法ではなくフィニッドから授かった能力)

あれ程の魔法が使えれば、ギルドでもかなり優遇され、報酬の良い依頼も受けられる。

低く見積もっても冒険者ランクBの実力はあると言われる始末。


そして、あの魔法はどうやって身につけたの?やらを質問され、彼は本当のことを言うとややこしくなりそうなので適当にごまかした。


優遇されるのであれば、暇な時にでもギルドに登録してみようかなと思うユタカだった。







「そういえば」


ミエルをフィニッドに登録していなかったことを思い出したユタカはフィニッドを取り出す。




【ミエル・クイーン】

ビーウェスタの亜種ビーウェスタリスクより採れるミエル。ビーウェスタ自身がミエルを巣から持ち出すことについては未だ解明されていない。通常のビーウェスタのミエルに比べて六角形状の筒が大きく、詰まっているミエルの糖度も高い。品質としては最高ではあるがミエル自体が一般的ではないがために、その存在は知られていない。

ミエル・クイーンは、抗菌作用を持つため長期保存が可能となっている。




ユタカが入手したミエルは通常のミエルではなくミエル・クイーンというものであった。さらには最高品質のおまけつき。


フィニッドに書かれた内容を読んでいると、本から強力な光が解放された。








パンパカパ〜ン


『登録30種類達成』



フィニッドから前回と同様に、蒼い光がユタカの額を貫いた。


「あぁ、もう30種類登録されたのか」


これでまた彼は新たな能力を授かった。


今回はどういった能力なんだろうと思っていると、フィニッドのページがめくられ文字が写し出された。





『あなたは以下の能力を手に入れた


【乾燥能力】


指定した物、空間を乾燥させることができる。勿論解除は可能』





「簡単に干し肉を作れそうだな」


他にも色々と役に立ちそうな能力であることは間違いと思いフィニッドを閉じた。





最近身の回りの物を揃えたせいか金欠気味なユタカは先程手に入れたミエルを一つ売りに出してみようと考えていた。



ギルドに登録していないユタカはギルドでは売れないので、エウベル商会に行って買い取ってもらうことにした。





「…」


「…」


「…これはミエルですよね?」



「はい、そうですよ」



ユタカはレデューからミエルの詰まった六角形状の筒を一つ取り出してカウンターに置き、前回リッチミルクの実を買い取ってもらった時のお姉さんにそれを見せた。



「す、すごいですね。こんなに大きなミエルの筒を見るのは初めてですよ」


お姉さんは若干興奮しながらそう言った。


そして、


「では、検査魔法をかけます」





「特に異常はないようですね。」



異常がないとわかれば、あとは買い取ってくれる価格がどうなのかが気になるところ。彼は期待を胸にソワソワとしていた。


「えーと、どれくらいで買い取りしていただけますか?」


「…そうですね。一度中身を取り出してから重さを計測して計算しましょう」







キュリ


キュリ



「…っ!」



お姉さんがミエルの筒を開けるのに悪戦苦闘中であった。


ギザギザとした刃がついているノコギリのような物を使っているのだが、開けるどころか傷すらも付かない程硬いボディをしているミエルの筒。



キュリ


キュリ



全く開く気配がみられない筒。これでは埒があかない。


お姉さんの目には段々と涙が貯まっていた。


(仕方ない)


「よかったら私が開けますよ」


「え?いいんですか?」


「はい」


「す、すみません、ありがとうございます。」



ユタカはショートソードを取り出した。


ノコギリで傷すら付かないということは力で開けることは難しいと彼は予想する。



(…ならば、こうしよう)



ジリ…


スゥーー



コロン



筒の上端はあっさりと切れて落ちた。





ショートソードに熱伝導能力を使って熱で溶かし切ったのである。


所詮は蜜蝋みつろういくら硬くても熱で簡単に溶ける。


カウンターのお姉さんは口をあんぐり開けて固まっている。


だがそれは一瞬のことで、


「お見事です!!」


とすぐさま顔を引き締め言ってくれた。




あんなに筒を開けるのに苦戦していたのを、目の前であっさりと開けられては無理もない。




パチパチ


チン



カウンターのお姉さんはソロバンに似た計算機で買い取り金貨をユタカに提示した。


「計測と計算の結果、買い取り価格は200000ルーペ。金貨200枚でございます。よろしいでしょうか?」



(き、金貨200枚だって!?そんなに貰っていいの?)


と内心驚いていた。


勿論返事は決まって、はいと答えて金貨を受け取りエイベル商会をあとにした。




「いやー素晴らしい」


一気に懐があったまったユタカは当分お金には困らない。


とはいえ、たくさんあるミエルを一度に大量に換金するのは怪しまれるだろうということで、使い道を慎重に考える必要があると彼は悩むのだった。






「うーん…」



甘い物が果物とミエルくらいしか存在していないというこの世界に、どうにかして、甘い物を一般的な食べ物として流通することが出来ないかどうかを考えていた。


栄養士としてこの考えはいかがなものかとは問われそうだが、甘い物というのは至福の喜びや癒しを与えてくれるのである。

例えばシアがミエルを食べた時の表情は幸せを表すには丁度良いほどにわかりやすい。当然ユタカも甘い物は好物なので尚更である。


このことから世界に甘い物が必要だと彼は考えるようになった。

色々な見解を広めるためにも、この世界を見てまわる必要があるとも考えた。


ミエルを一般化するには、ビーウェスタを養蜂出来るようにすればいいが、個体自体が大きい故に難しいことが予想される。

ビーウェスタリスクは危険性が高く蜂の巣自体が大き過ぎるため養蜂はかなり厳しい。


ユタカが持っているミエルを世間に流してもよいが限界がある。


なんにせよ、ミエルの一般化は困難と言える。




ならばミエルに代わるモノを探さなければならない。


しばらくはミエルに代わるモノを探し出して甘い物を一般化することを目標に掲げユタカは活動することに決めた。






「あ、」


まだミエルを食べてなかったことを思い出し、宿に帰って食べようとするのだった。





「♪」



分厚く切った食パンを能力を使い焼き色をつけていた彼は鼻唄をしながら作業をしていた。


狐色に焼けた分厚い食パンの上に、バターをたっぷりと塗る。


そして仕上げにミエル・クイーンを大量にぶちまけて完成した。


ハニートーストならぬ、ミエルトースト。なんとも豪快で贅沢な一品。



「あぁ、バターの風味が食欲をそそる」




…食べる前にフィニッドを取り出し登録する。



登録完了。



「いただきます!」



ナイフとフォークを使わず、ユタカはそのままかぶりついた。



「…っ!!」


「こ、これほどとは…」



口に含んだ瞬間、バターの風味がやってきたと思うと全てを包み込むような優しくも強い甘さが舌を愛でるように広がっていく女王様。絶妙に絡み合うバターとミエルのスイートハーモニー。そしていつの間にか口の中で溶けるように消えていく。


これが、


「ミエル・クイーンか」


優しくて強い甘味を持つがしつこくなく後味が非常に良い。バターとの相性は最高であるようだ。



一分程で平らげてしまった彼が一言。「朝食に決定」


次の日の朝食からはミエルトーストがお決まりとなった瞬間であった。






ミエルトーストを食べ終えた彼は、地球にいた頃パンに塗っていたモノを思い出していた。


ハチミツ、ジャム、ピーナッツバター、マーガリン…と挙げていき記憶を辿っていく。


「ん?待てよ…何かが引っ掛かるぞ?ハチミツに近いモノがあったハズだ…


味は全く違うがハチミツに近い色をしていて、そこまでドロドロとしていない液体状の…シロップ?…そうか、わかったぞ【メープルシロップ】だ!」



ハチミツ程ドロドロとしていない、サラッした液体。パンケーキやお菓子によく使われているモノ。そして甘いということ。


メープルとは植物のかえでのこと。メープルシロップは楓の樹液から作ったシロップである。綿密に言うと砂糖楓シュガーメープルから採った樹液を煮詰めた物がメープルシロップとして売られている。

またメープルシロップの原産国として有名なのは、国の国旗にもなっているカナダであるのだが、実は日本の秩父辺りでもメープルシロップは作られていたりもする。閑話休題。




(この世界に楓が存在するかどうかは実際探してみないことには分からない。もし大量の楓の木があるのなら、少しばかり木の幹に傷を付けさせてもらい、樹液を少しわけてもらう。これならば、一本一本から採れる樹液の量が少なくともたくさんの量は確保出来る。

これを産業にすることも出来るし、木が枯れない限り安定した量を確保出来ることから、一般化するのは難しくないハズだ)



「よし、これならいける!これならミエルの代替えとして十分に発揮するだろう!」



ユタカはミエルに代わるメープルシロップを一般化出来ると確信して立ち上がった。





楓を探すユタカは、もしかしたら、この街の近くにあるかもしれないと思い模索中である。もし楓が見付からなかったとしても旅をしながらでも探すことに決めていた。

幸いお金の心配はない。レデューもあるので荷物の持ち運びにも困ることはない。


世界を見てまわりたいユタカにとって丁度良い機会でもある。



とはいえ植物には詳しくない彼は楓を探すにも探しようがない。植物に詳しい人物を尋ねてそれから楓を探すことにした。






翌日、探すあてのないユタカはギルドへと足を運んだ。そして、そこには見知った人物がいたので声を掛けた。



「おはよう、シア」


「ん?あらユタカじゃないおはよう。もしかしてギルドに登録でもしに来たの?」


「いや、違う。登録をしに来たんじゃないんだ。人探しをしていてね」


「人探し?良かったら協力するよ」



「本当に?ありがとう。実は植物に詳しい人を探しててね。シアの知り合いにいる?」


冒険者であるシアなら顔が広そうだと彼は期待する。



「いるわよ」


「やった」


「ちょっと変わり者なんだけど、ユタカなら大丈夫だと思うわ」



大丈夫なら心配する必要はないと彼は思った。シアの知り合いということあって信頼出来そうだとも思ったのだ。


「じゃあ案内してもらえるかな?」


「勿論いいわよ。あ、でもちょっと待ってて」


と言われたのでしばし待つことにする。



シアの準備が出来たので、現在植物に詳しい方がいる所までユタカは案内してもらっている。


(そういえばシアはあれからミエルをどうしたのだろう?半分くらいは売ったかな?聞いてみることにしよう)


「シア、あれからミエルは食べた?それとも売った?」


「勿論食べたわ。ひとつは売ったけどね、それはもう大金がもらえて最高よ」


たしかに大金である。なんていったって金貨200枚なのであるから。さらにシアの場合ミエルが大好きなようなので一石二鳥である。


「ユタカはどうしたの?」


「私もシアと同じだよ。ミエルをパンに塗って食べたりとかしたかな」


「あ、それアタシもしたわ。ミエルとパンって合うわよね」


「うん、そうなんだよなぁ」



とそんなやり取りをしているうちに、一件の年期のある建物の前で足を止めた。

街から少し離れた所に存在するこの建物は、古いながらも外観に奥ゆかしさがあってとても良い雰囲気を出している家だと外壁の外からでも見受けられる。

そして外壁から玄関までの間には様々な植物が生えていた。



コンコン


とシアがドアをノックして、


「ごめんください」


と言うと。


しばらくして、ドアがガチャッと音を出しながらゆっくりと開いた。



「久しぶり【メル】元気だった?」


「…久しぶりシアちゃん、メルは元気」


ドアを開けた本人がそう言い返すと、チラリと視線を隣へと移す。


「…誰?」



ユタカの方を見ながらそう言った。

その子は身長120センチくらいで背は低く童顔だが整った顔立ち。銀色の瞳は何でも見通すような印象を持ち瞳と同じ色の髪はツヤツヤとしていて腰ぐらいまでの長さであった。いわゆる美少女である。



誰と聞かれたので自己紹介をする。


「初めまして、キリシマユタカだ。気軽にユタカと呼んでくれ」


とユタカがお辞儀をすると、目の前にいる美少女は、


「【メルヴィナ】メルでいい…」


と教えてくれた。



「今日はね、隣にいるユタカがあなたに用があるの」


とシアがここを訪れた理由を話す。



「…家に入って。それから聞く」



メルはそう言うと家の中へと行ってしまった。



「どう?変わってるでしょ?」


「うん、たしかに」


口数は多くはなさそうだなと彼は思った。


「メル、家で話し聞くって言ってたし、お邪魔しちゃいましょ。あ、アタシも参加していい?」


「うん、勿論。その方が私としても助かるよ」



(初対面どうしだとなんだか不安だし。ここはシアに頼ろう。後でお礼を考えておくとしよう)



「お邪魔します」



ユタカとシアはメルの家の中へと入って行くのだった。




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