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第10話 ミエルを求めて【後編】

花が群生している場所に蜂が来るだろうと予測したユタカは、街から少し離れた所に来ていた。



「まさかこんなにあっさりと見つかるとは」



六角形の筒が、今ユタカ達の目の前にある。




「ときにシアよ、これがミエルだよな?」


「…えぇ、おそらく」


「簡単に見つかったんだが」


「…」


「そして明らかに握り拳3つ分より大きいんだが…」



目の前にある六角形の筒はあきらかに握り拳3つ分よりも大きいのである。高さ1メートル幅30センチはありそうな大きさだった。


「…とりあえず、持って帰るか」


ユタカはレデューを取り出して六角形の筒をしまった。



なんとも呆気なく依頼をこなしてしまったがゆえに、もどかしい。しかしユタカがシアの方に目を向けると、とっても良い笑顔であった。



「♪〜」


ご機嫌なようで鼻歌を奏でていた。



(シアはこれで終わりだと思っていることだろう。でも、まだ終わっちゃいない。まだ始まったばかりなんだから)


「シア、さっき手に入れたミエル筒ごとあげるから、もう一度付き合ってもらえないかな?」


「え?もう一度…?」


シアは顔を傾げている。


「うん、もう一度ミエルを探しに行こうと思ってさ」


「それは別にかまわないけど…」


「なら決定ね。」


若干強引に、決定した。



「今日のところは解散だ。明日もよろしく」





〜翌日〜




昨日と同じように、花が群生している場所にユタカはシアと一緒に来ていた。



「ユタカ、さすがに昨日みたいに運よくミエルはないと思うわよ」


「うん、私もミエルはないと思う」


「?」


「今回は蜂であるビーウェスタに案内してもらおうかなと思ってさ」


つまりビーウェスタを案内役として巣まで行き、潜入するということ。


シアにはまだ蜂の巣に潜入することを言っていない。


30分程、花の群生している近くの茂みで待機していると、


「あ、ユタカ!ビーウェスタが来たよ!」



ブーン


ブーン




2対4枚の羽からは不快な音を奏でている。黒と黄色の縞々模様の体はまさに警戒色。尻の先から出ている鋭い尾針からは時折液体が垂れていた。


そんな気色悪い蜂を見ていたユタカは口を開いた。



「あの蜂、やけにでかくないか?」



「…ビーウェスタにしては大きいわね」



「女王蜂なのかな?」



「…さぁ」


シアと同じくらいはある大きさの蜂は通常のビーウェスタよりも体が大きいらしいので、ユタカは女王蜂なのでは思った。そしてその女王蜂?は体が大きいがゆえに花の蜜を吸う時は飛びながらしているようである。





何分かして、花の蜜を採り終わったのか森の中へ飛び立っていく。




「よし、追い掛けるぞ」



ユタカ達はその蜂の追跡を始めた。






(…速い!たしかビーウェスタは動きは速くないって言ってたような気がするが)


巨体に見合わず、速い速度で森を進んでいく蜂。


ユタカとシアは見失わないように食らいつくように追い掛けている。


ユタカは自身がこんなに速く走れたのか疑問になるほどの速度を出していた。


(体が軽い…異世界に来たことによる恩恵か?それとも神様によるものか?まぁどちらにせよ、地球にいるときよりは断然速いのは確かだ)


ふとシアのほうに視線をチラッと向けると、涼しい顔をして走っていた。さすがは冒険者だなと思いつつユタカは前へ視線を戻した。


しばらく走っていると、前方に岩肌が見えてきた。


行き止まりか?と思っていると、前を飛んでいる蜂は岩肌の上の方へと上昇して穴があいている所へと入って行った。



「あの穴に入って行ったわね。巣でもあるのかしら?」


と岩肌の上の方を見上げながらシアは言った。


「おそらくそうだろう」


とユタカは言葉を返えした。



あとは煙で蜂を弱らせて突入しようと考えていると、


「…!?」


突然シアはユタカの腕を掴んで茂みへと引っ張って身を隠した。


「ど、どうした?」



と聞くと、シアは口に人差し指をつけて、目線を蜂の巣があるだろう穴に向けたので、彼もそちらを見てみる。



すると先程まで追い掛けた蜂が、何匹も何匹も出て行った。


これを見たユタカは理解する。シアと同じくらいの大きさをしたビーウェスタは女王蜂ではないということを。




何匹か飛び立って姿が見えなくなった所でシアに説明を始めた。


「よく聞いてくれ。これからあの穴の中へ潜入する。シアには悪いが一緒に来てもらうよ」


「本気で言ってるの?ユタカ」


「あぁ、本気だ」


真っ直ぐに目を見て話した。


「ふふ、しょうがないわね。やれるだけのことはやりましょう」


「ありがとうシア」


シアの了解を得た所で、穴に潜入する前に、煙を穴の中にあるだろう巣に充満させたいユタカ。


先日道具屋で強力な煙を発生させる手の平サイズの【集煙玉】と呼ばれるお香玉を買った彼は蜂の巣にほうり込み蜂達を弱らせようと考えていた。


ビーウェスタの蜂の巣は洞窟のようにポッカリと開いた直径5メートルはある穴の中にあるようなので、集煙玉に火を点して、思い切り巣の中へと投下した。



またも茂みに隠れて様子を伺う。


穴に解き放たれた集煙玉はモクモクと大量の煙を吐き出し、異常を察知した蜂達は穴から次々と出て来て周囲を見回している。



10分程して、煙を直で喰らった蜂は弱々しく飛び回っていた。




巣の内部に煙が行き渡った頃合いだろうと思い、ユタカはそろそろ蜂の巣に潜入しようとした。



「シア、そろそろ潜入するよ」


「わかったわ」



二人は防護マスクをして視界の悪い煙の充満するビーウェスタの巣の中へと入って行った。





煙によって視界は悪いが松明に火を点なくても、巣の中は明るかった。


現在二人は人が4人くらい通れる通路をシアを先頭に進んでいる。天井もいくらか余裕があって頭をぶつけることはないようである。



途中、動きの鈍くなった蜂に遭遇するが、シアが何処からか取り出した弓と矢ですぐ仕留める。

しばらくはシアに蜂の退治を任せて進んで行った。



ある程度進んでいくと大きな空間に出た。



「…なんだここは!?」


ユタカは思わず声を出してしまった。


「すごいわね。どこかのお城かと思ったわ」


女王(蜂)がいるわけなので城であることにはかわりはない。


吹き抜けのある巨大なショッピングモールのような、上から眺めたらそのように写るであろう凄みのある景観。そしてひとつのひとつの階層が黄色と茶色が交互に折り重ねた色なのだが、黄金色に輝いているように見えるのは幻想的であった。


煙がまだ充満しているので、蜂達は眠っているように動かない。これはチャンスでもあるので今のうちにミエルを手に入れたいところである。


二人は足早に蜂の城を歩き出した。



「しかし、暑いわね」


「うむ。夏のような暑さだな」


蜂の城は暑い。夏の猛暑のような感じだ。おまけに湿度も高いようでムシムシしている。


蜂の城の中は吹き抜けを中心に6つの広い部屋のような場所に繋がっているだけで、そこまで複雑な構造ではないようだ。

とはいえ、六角形状の壁が一面にあるので、ミエルと見間違えるのはしばしばあった。


「こ、これ全部ミエルかな!?」


このように勘違いしてしまうシアがいる。


「まずは落ち着こうかシア。六角形ではあるけれど壁だよこれ」


ユタカはそう言うと、手で壁を触ってみる。


それを見たシアは彼と同じように手で壁を触って納得したようだ。


「弾力があって柔らかいのね」


ミエルの筒と違って壁は弾力があった。ついでに少しばかり壁を壊してみてもミエルが流れてこないことからこれはミエルではない。




特にコレといったもの(ミエル)は見つからなく、六角形状の壁があるのみ。


6つある内の3つ部屋を探索して、残すこと3つの部屋となった。


その3つとも、やけに蜂達が多いことから重要なものがあるのには違いないといえよう。




動かない蜂の横を通り抜け、その先には六角形の筒状のものがところせましに積み重なっている。


奥行きのある筒。どうやらコレは、ただの壁ではないようだ。


ミエルにあった六角形状の筒は完全に密閉状態だった。


しかし目の前にある筒は密閉されていない。




ぐにゅん



ぐにゅん



やけに気の抜ける音が筒の方から聞こえる。



ぐにゅん



ぐにゅん



「なんだか嫌な予感がするわね…」


シアのその予感は的中するであろう。


筒の奥からはい出て来たのは…



「キシャァァア」



ビーウェスタの幼虫である。



「!!」



気色悪いことこの上ない乳白色の波打つ姿のビーウェスタの幼虫。それを見たユタカは顔を歪めた。シアは冒険者なだけあって表情を変えることはなかった。そしていつ襲い掛かっても対処出来るように身構えた。


しかしその幼虫ははい出て来たといっても筒から完全には出れないようで、顔を出してキシャァァアと声(?)を上げるだけであった。


そのことに気付いたシアは、用がない所にいつまでもいる必要がないと判断してユタカの腕を掴み次の部屋へと向かった。





今度は密閉された六角形状の筒が綺麗にビッシリと積み重なっている部屋とやってきた二人。


レデューから、花の咲いていた場所で手に入れたミエルを取り出して同様の物か確かめたユタカは、頷いた。


「どうやらこれ全てがミエルのようだ」


「す、凄い…こんなにあるなんて」


「…シア、あれ見てみな、ミエルが流れているぞ」


直径5センチメートル程の穴が開いた筒があり、その穴からは地球で見慣れた黄金色の液体が流れている。


それを見たシアは、すぐさま飛び付き、人差し指で少しミエルをすくい口へと運び、


「おいしい〜!!」


ミエルの虜になっていた。





シアの味見タイムが終わって、二人は次々とミエルをレデューに放り込んでいった。


「採取完了」


「お疲れ様。シアありがとう」


「どういたしまして。それにしても結構な量だったわね。筒がかるく700個はあったわよ」


「うんまぁ全部だからな。おかげでこの部屋はスッキリだ」


辺りを見渡すとすっきりとした何もない空間になっていた。


「ミエルの半分はシアにあげるよ」


「え?いいよこんなにもらえないわ」


「最初に言ったじゃないか、報酬はミエルの半分だって」


とはいえ、さすがに量が多過ぎたようなので1/4で妥協してもらう結果になったのである。


ミエルの回収を終えたユタカは、部屋がもう一つ残っていたことを思い出す。


(おそらく…女王蜂がいるよな)


触らぬ神に祟りなし。ユタカは全力でなかったことにしようとした。


しかしそう問屋が卸さない。



「ユタカ、なんだかビーウェスタ達が動き出してきたよ」


とシアが言ってきた。煙の効果が薄れてきたためであろうか。活発に動き始める蜂達。


部屋を出て吹き抜けへと向かうと、まだ行ってない部屋の方から何か物凄い気配が放たれている。



ブゥン

ブウゥーン

ブォーゥン



全長3メートルはあろうか黒と黄色の縞模様の体に、背中から生える6枚の羽。尻から伸びた極太でかつ鋭い針は一撃で獲物を死に至らすであろう。額には菱形で紫色の紋章のようなものが不気味に輝いていた。


「ショォォオッ」



蜂の女王が姿を現した。


明らかに他の蜂と違う姿に威圧感あるオーラを放っている。



「ユタカ!逃げるよ!!」



シアは声を荒げて叫んだ。

アレはヤバいと脳内から危険信号が発せられたようだ。


しかし、煙から復活した蜂共が二人の行くてを阻み次々と突っ込んでくる。


シアの弓による乱れ打ちとユタカのショートソード(街で買った)で防いではいるが突撃してくる蜂達を迎撃するには限界がある。




「チッ」


ユタカは舌打ちをし、出口へと走りながらショートソードを振り回し考える。



(仕方ない。うまくいくかわからないけど、試してみるか)





『冷凍』






カキンッ

カキカキンッ



蜂の巣内があっという間に凍り付き、この空間には冷気が伴った。


つまりこの蜂の巣内を《冷凍庫》にしたのだ。



「ユ、ユタカ?これは一体?」


「これは私の能力『冷凍』なんだ。成功するとは思ってなかったんだけどね」


ほんとここまでうまくいくとは思ってなかった彼は内心驚きつつも手を握り締めてガッツポーズをした。



蜂は寒さにより動きが鈍る。女王蜂を除いたほとんどの蜂達は急に動きが鈍くなっている。


今が脱出のチャンス。


ユタカ達は全速力で出口へと急いだ。


そして、なぜだか女王蜂は追い掛けては来なかった。



二人はなんとか蜂の巣から出ることが出来た。




女王蜂はユタカ達が逃げることを察したのであろうか。種の保存のため自らは無駄な攻撃をして来なかったのではないかとユタカは思う。女王蜂がいればいつかは復興は出来る。


しかし女王蜂は明らかに格が上。ユタカ達を倒そうとすれば倒すことが出来たのかもしれない。


ということはどういう意味を示すのか、ユタカは理解した。


「今回は見逃してもらったということか」


ゾッとしつつも女王蜂に感謝し、冷凍能力を解除するユタカなのであった。



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