第1話 始まりは突然に
白い作業着に身を包み同じ色の帽子やマスクを装着した人たちが忙しく動きまわっている。
回転釜と呼ばれる大量調理向けの巨大な釜に食材を放り込み、これまた巨大なヘラを振り回し調理をする人、炊き上がったご飯やお粥を器によそう人、ミキサーに料理を突っ込みペースト状態にする人たちが作業をしているここは、患者様に提供する病院食を作る厨房である。
「えーと、お昼の献立は、ご飯に味噌汁、豚肉生姜焼き、小松菜のお浸しと果物はオレンジか」
そう呟きながらお昼ご飯の献立を頭に入れていく一人の男がいた。作業指示表を見ながら色々と確認をしていると後輩がやってきた。
「おはようございます」
挨拶をしてくるあたり今から出勤のようである。
「おはよう、相変わらず片倉さんは出勤が早いね」
「いえいえ、霧島先輩のほうが早いですよ!」
霧島先輩と呼ばれた男の名は霧島豊。今年で栄養士として働いて4年目である。
そんな彼は後輩の片倉と簡単に仕事の内容を話した後、仕事の持ち場へとそれぞれが向かった。
病院の食事と言えば『まずい』と答える人が多い。きちんと計量しているということもあり味付けは薄いのが現状である。そしてアレルギーを持つ患者様もいるので、醤油や味噌といった調味料が使えない場合もあったり、面倒でありながら中々やりがいのある[栄養士]という名の職業。
普通の《栄養士》は、病院勤務者の場合アレルギー食を作ったりミキサー食を作ったり等の仕事をする。
そして病院以外の勤務者は、給食のおばさんやらおじさんと呼ばれる学校給食や企業の食堂といった所に属して食事を提供しているがほとんどだ。
《管理栄養士》では色々と仕事に手を出せる範囲が広がり、患者様の栄養指導を行うことができる。栄養士でも指導はできないことはないが、加算やら何やらと色々あるので難しいのが現状である。
豊は管理栄養士になるため、実務経験を三年間積み、管理栄養士受験資格を手に入れた。
しかし、彼はその試験を受けるために必要な願書をすっかり出し忘れてしまった。
管理栄養士になるための試験は一年に一度しか行われない国家試験である。つまり試験は来年まで受けられないということだ。
「ふう、来年は必ず受けないとな」
少しばかり気落ちしている彼は仕事が終わり帰路の途中であった。
「あーなんだかお腹の調子が…」
突然の腹痛を起こし家まで急いで帰るよう足を速める。
なんとか無事家に到着した彼はトイレへと駆け込んだ。
幼少の頃から胃腸が弱く腹痛と戦うことが多かった彼は、消化不良により点滴を打つ程ひどい時もあったが、現在はそこまで状態は悪くはなく体の成長と共にだいぶ改善はされてきた。
そんな胃腸の弱い彼がトイレから出ようとドアを開けた時、蒼い光に包まれて消えてしまった。