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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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ありがとう、おやすみ

作者: のりと
掲載日:2026/07/19

「これからは、別々に暮らしましょう」


そう告げると、弟は少しだけ首を傾げた。


私の背をとっくに越しているのに、中身は小さな子どものままだった。


自分では何もできない、馬鹿な弟。

この先もずっと、弟の分まで私が背負わなければならないのだと思うと、背筋がぞっとした。


「あいしてるよ、ねえさん。おやすみ」


弟はいつものように笑って、それ以上は何も言わなかった。


愛しているからこそ、離れたほうがいい。

この苦しみから、解放してあげたほうがいい。


私はそう自分に言い聞かせた。


馬鹿で、愛らしい弟。

純粋無垢な心を持つ、愚かな弟。


けれど、本当の馬鹿者は私だった。


向き合おうとしなくて、ごめんなさい。

自分のことばかり考えて、ごめんなさい。


愛してる、と心から言えなくて、ごめんなさい。


弟の口から何度も告げられた「愛してる」という言葉が、私には苦しかった。


返さなければならない気がした。

けれど、どうしても同じ言葉を返すことができなかった。


後悔と自責の念だけが、愚か者の私を癒やしてくれているような気がした。


静まり返った我が家で遺品を整理していると、弟が好きだった絵本の間から、髪留めと一通の手紙が落ちた。


『このあいだは、お金をかっ手にとってごめんなさい。


ねえさんは、ぼくのことがきらいかもしれないけれど、ぼくはねえさんがかなしむかおを見たくないです。


むかしみたいに、いっしょにたのしく笑いたいです』


拙い字で書かれた、弟の最後の言葉。


私は手紙を握ったまま、しばらく動けなかった。


きっと今の私を見たら、弟はひどく悲しむだろう。


また、ねえさんが笑っていないと、困った顔をするのだろう。


私のことを愛してくれて、ありがとう。


私もあなたを愛していた。


ただ、その言葉を口にするには、あまりにも遅すぎた。


そして、おやすみなさい。

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