第24話 六大才女の全面戦争と、僕のライフはもうゼロよ
立花さんの説得を終え、僕が恐る恐る生徒会室へと戻った直後のことだった。
ガチャリ、と扉を開けた瞬間に肌を刺したのは、初夏の陽気を一瞬で叩き落とすような、凄まじい極寒のプレッシャーだった。
「……遅かったわね、なつめ」
ソファーの真ん中に鎮座した三郷が、冷徹極まりない視線で僕を射抜く。
その両脇には、すでにそれぞれの『領地』を主張するように、才女たちが集結していた。
「なつめくん、立花さんのところに行ってたんでしょう? ずるいよ、私を一番に誘ってくれたのに!」
天音さんがエナメルバッグを握り締めて身を乗り出し、反対側からは笹浪さんが僕の右腕をがしっと抱き込んできた。
「なつめくん、週末のデートの前に他の女の子とばっかり約束したら駄目。私の衣装選び、忘れてないよね?」
「……なつめくんは、私の騎士になる」
部屋の隅から椎名さんが音もなく歩み寄り、僕の制服の裾を掴む。
すると、僕の背後から浅利先輩のひんやりとした手が伸びてきて、僕の首元にその細い腕を絡ませてきた。
「違う。彼は私の天使の守護者。私が、全部作る」
一瞬にして、僕は五人の才女たちに物理的に包囲されていた。
完全に逃げ場を失った僕の前に、最後の一人――スケジュールをこじ開けてきた立花凛花さんが、モデルとしての圧倒的な笑みを浮かべて現れる。
「みんな、そこまでにしなよ。なつめくんが困ってるじゃん」
「立花さん!」
救世主が現れた、と僕が目を輝かせたのも束の間。
凛花さんは僕の左腕を優しく、けれど力強く自分の胸元へと引き寄せた。
「なつめくんの衣装は、現役モデルの私が全面プロデュースするって約束したの。だから、彼とペアを組むのは私。みんなは引き立て役になってくれる?」
その一言が、導火線に火をつけた。
「随分と大きな口を叩くのね、立花さん。なつめの隣に立つのは、彼の公式の恋人である私よ」
三郷がソファーから立ち上がり、瞳の奥に黒い炎を灯す。
「公式って言っても、どうせ仮でしょ!? 私はなつめくんの今を一番近くで支えるって決めたんだから、三郷さんにも立花さんにも負けない!」
笹浪さんが僕の右腕をさらに強く抱き締め、その豊かな柔らかさが腕に伝わって、僕の心臓がうるさく跳ね上がる。
「ちょっと、みんな勝手に決めないでよ! なつめくんが『天音さんが頑張ってるところを見たい』って言ってくれたんだから、私が隣でお揃いのスポーツ衣装を着るの!」
「……不純。なつめくんは、私の本の世界の住人になる」
「私の伴侶。闇でも、天使でも、私の隣でしか完成しない」
三郷、笹浪さん、凛花さん、天音さん、椎名さん、浅利先輩。
六人の才女たちの凄まじい独占欲と視線が、僕という中心点を巡って激しく衝突し、生徒会室の空気が爆発寸前まで膨れ上がる。
あまりのプレッシャーに、壁際に避難していた穂状さんが「ひぃっ、キャットファイトの次元を超えてる!?」と頭を抱えてガタガタと震えていた。
「あ、あの、みんな、僕の意見は……」
「「「「「「なつめ(くん・伴侶)は黙っていて!」」」」」」
「はい……」
完璧にハモった美少女たちの怒号に、僕のライフは一瞬にしてゼロになった。
右を向いても左を向いても、触れそうなほど近くに国宝級の美貌があり、それぞれの甘い香りと熱気が、僕の理性を容赦なく狂わせにくる。
「影久くん、本当に噂以上の人たらしだな……」
デスクの奥で、桐谷会長だけが「これは面白い文化祭になりそうだ」と、一人で満足そうに深く頷いていた。
僕を巡る才女たちの全面戦争は、文化祭という大舞台を前に、もう誰にも止められない爆発的な領域へと突入しようとしていたのだった。
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