第4話:文字化けする認識:崩壊の始まり
【SAN値:18 / 100】
ルポライター、葉山の意識は、もはや正常な思考を紡ぐことを拒絶していた。
「あ……あが……っ……」
佐藤健太の部屋で見つけた、あのボロボロの日記。
それを開いた瞬間、文字が、紙面から這い出してきたのだ。
いや、そうではない。
葉山の「視界」そのものが、文字によって侵略され始めていた。
彼が部屋の壁を見れば、そこには壁紙の模様ではなく、びっしりと書き込まれた『㦸』という漢字の羅列が見える。
彼が自分の手を見れば、皮膚のシワがすべて「古い記録」の文字列に置き換わっている。
認識が、情報を処理しきれずにオーバーフローを起こしている。
「たす……けて……だれ……か……」
葉山はスマホを掴み、警察へ電話をかけようとした。
だが、スマホの画面はすでに、彼が知っている「道具」ではなくなっていた。
アプリアイコンはすべて消え、代わりに真っ赤な背景に黒いノイズが走り、
『お 前 も 読 ん だ な』
という巨大な文字が、画面を突き破らんばかりに点滅していた。
その時、葉山の耳に、決定的な破壊音が響いた。
――バリバリバリッ!
現実の音が、文字化けし始めたのだ。
救急車のサイレンは、電子的な悲鳴へと変わり。
自分の心臓の音は、キーボードを叩く打鍵音(タイプ音)へと変質する。
葉山は気づいてしまった。
自分という存在は、もはや肉体を持った人間ではない。
誰かが書いている「物語」の登場人物として、消費され、書き換えられ、間もなく「削除」されようとしている、ただのテキストデータに過ぎないということを。
「そんな……ばかな……。俺には……家族も……名前も……」
彼が「名前」を思い出そうとした瞬間、彼の脳裏から、自分自身の顔のイメージが消えた。
代わりに、真っ白な紙の上に書かれた、
『葉山(仮名)』
という、無機質な設定資料の文字が浮かび上がる。
ベチャリ。
天井から、巨大な「文字の塊」が落ちてきた。
それは、佐藤健太の祖父の日記のページが、何万枚も重なり合って人の形を成したものだった。
怪物は、動けない葉山の喉元に、紙でできた鋭い爪を立てた。
「……ああ……きれいだ……」
葉山は最後に、それ。を見た。
怪物の「顔」にある空白の中に、吸い込まれていく自分の情報。
自分が生きてきた34年間の記憶が、一瞬で「一冊の古本」へと圧縮され、怪物の身体の一部として統合されていく。
葉山は、最後にスマホのカメラを自分に向けた。
死にゆく者の執念か、それとも「血脈」が、次の標的を定めるための合図か。
シャッターが切られる。
保存された写真は、今、あなたの端末へと自動的に送信された。
【SAN値:12 / 100】
【読者への汚染:欠落のパズル Lvl.9】
ご覧ください。
この第4話のテキスト、所々で「歪み」が生じていませんでしたか?
葉山氏は消滅しました。
彼は、あなたに「ヒント」を遺しました。
彼の最期の写真を確認してください。
もちろん、そんな写真はフォルダにはありません。
ですが、今、あなたの端末の「キャッシュメモリ」の奥底に、
削除できない3.14MBの隠しデータが書き込まれました。
それが解凍されるとき、あなたの部屋の「壁」も、紙のように剥がれ始めるでしょう。
第5話「空白の共犯者:あなたの後ろにいる私」へ続く。
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