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パビェーダとシーラ

作者: きゃな

「いい女が入ったぞ」


ある一人の男が私の首筋を掴み、周りの男達に見せびらかしている。


「なかなかいいじゃねえか」

「こいつにゃ色々やってもらうか」


私は奴隷だ。

この男達は私の住んでいた村を襲い、私を誘拐した。

私はこれからこいつらの奴隷としてこの人生を終わる。


「この娘何歳ぐらいなんだ?」

「確か16ぐらいだったはずだぜぃ。」

「いいじゃねえか。いい女を連れてきたな。おい、女を寄越せ。」

「あんま乱暴に扱うんじゃねえぞ。傷が付いちまったら価値が下がる。」


私は違う男に引き渡され、暗く、人の少ない場所に連れてかれた。


「おい、お前、なんて言うんだ?名前。」


男は服を脱ぎながら話しかけてきた。


「パビェーダ」

「へ、お前にゃ名前はいらねえ。」


男は裸になり、私にしゃがみこむように命令した。

私は静かに、その命令を受け入れた。





「あんた、新入りかい?」


私は独房に容れられた。この独房には私だけじゃなくて他の人もいる。


「はい…」

「随分と可愛いじゃないか。なんでここにいるんだい?」

「村が…襲われました。」

「そうかい…辛い道を歩いてきたんだね。私はシーラ。お互い頑張ろうな。」


シーラは私の背中を二回叩いた。


「何を…頑張るんですか…もう…何もできないじゃないですか…男の命令聞いて、辱められて、殴られて…頑張って耐えろって言うんですか。」


私はずっと、自由に生きられると思っていた。

私は少数民族に生まれた。大地を転々として、いろんな場所に行った。

これからいい人と出会って、付き合って、子供いっぱい作って…幸せな家族を作りたかっただけなのに…


「違うよ。勘違いさせてごめんね。だけど…今は耐えるしかない。耐えた先に、自由がある。」

「シーラ…私の名前はパビェーダ、です…」

「よろしくね、パビェーダ。」


シーラは私に手を優しく手に取って、拳と拳を軽くあてた。


それから私は耐えに耐えた。どれだけ辱められようが、虐められようが、私はシーラを信じて耐え抜いた。


「パビェーダ…」


どうしたんだろう…今日のシーラいつもよりなんか暗い。


「私…明日…ここを出る。」


え、もしかして


「奴隷から解放されるの!!やったじゃん!おめでとうシーラ!!おめでとう…」


嬉しいはずなのに涙が溢れる。

うう、私も頑張らなきゃ!シーラ、あなたのことは忘れない。ずっと覚えてる。


「ちが…違うの…」

「え、違うって…何が違うの…」


シーラは涙を流した。私が泣きつくことは何回もあった。

でも、シーラが私に泣きついてくることは今まで一度もなかった。


「妊娠したの…だから…私…」


妊娠した奴隷は、他の場所に異動する。それがここのルールだ。

決して、解放されるわけじゃない。幸せになれるわけじゃない。我が子と話せるわけじゃない。


「シーラ…」


私は泣くのを止めた。私も一緒に泣きたかった、けど、シーラを安心させるには、我慢しなくちゃいけない。無駄な心配がいらないように。自分の子に集中できるように。


「パビェーダ…私、あなたに言いたいことがあったの。とっても大切なこと。」

「大切なこと…」

「そう。私とあなたにとって、何よりも大切なこと。いや、私にはもう関係ないかな…」


そう言ってシーラは紙切れを私に手渡した。

その紙切れには、脱獄の手筈が書かれていた。絵が書いてあり、小さく文字が書かれている。


「シーラ…文字、書けたんだ…」

「私はもともと結構お金持ってたのよ!」

「へへ、明日、一緒に脱獄するんだね!」


シーラは静かに頷いた。今日のシーラは少し様子がおかしかった。妊娠したからなのか、疲れているだけなのか、私には分からない。でも、ついに自由になれる。

自由になったらまずは新しいお家をみつけるでしょ、それから…





っは!?いつの間にか寝てた!


「やだ…死にたくない…」


え、シーラ?


「自由になりたい…パビェーダと…一緒に…」


何言ってるのシーラ。

私はすぐに聞きたかった。だけど、なぜか体が動かなかった。

このとき、シーラと話せていればどれだけ幸せだったのあろう。

私は目を閉じ、シーラノン声を遮るように布団に籠った。





紙切れには、文字が読めない私でも分かるように絵が描いてあった。


「パビェーダ、そろそろ…」

「…ごめんなさい。」


私は隠し持っていた石で、男の頭を殴った。

男は目を見開いたまま動かなくなり、床を血で汚した。

私はすぐに石を服の中にしまい、紙切れに書いてあった場所へと向かった。


そこは、空が見え、緑の草が生えている。外広場だ。そしてそこには、シーラを男が囲んで移動している姿があった。

全部紙切れ通り。このまま、シーラ達が建物の門を出た瞬間、門番に見つからないように、私は回り込む。


そして門番の後ろから、私は息を殺し、石を持ち、門番めがけて…


ゴンッ


「う…」


「っはぁ…はぁ…やった…自由だ…」


私は門を出て、シーラを囲む看守に気付かれないよう、近くの草むらに身を隠した。

これから私は何をしたらいいだろう。私は紙切れを眺めた。


「ん?何か音したよな?」

「動物じゃないか」

「そうかなー」


「いや違う!門番が倒れているぞ!」


パビェーダ!!

私は後ろを振り向き、パビェーダを探した。

私の監視役達は、私を無視して門番のところへ走って行った。


「シーラ!」


声がした場所を見ると、私に向かって小声で手を振るパビェーダの姿があった。

パビェーダのところに行きたい。一緒に逃げたい。だけど…それはできない。

私はパビェーダとは反対の方向に向いた。


「シーラ…どうしたの!一緒に逃げるんじゃないの!」


ごめんね…私はあなたと一緒には行けない…

逃げて、パビェーダ。私なんか見捨てて…


「ねぇ!なんで向こう側向くの!シーラ!!」


気付かれちゃうでしょパビェーダ。

私は、あなたを逃がすことしかできない。一緒には逃げられない。

私は走り出した。パビェーダとは逆の方向へ。


「お、おい!奴隷が逃げたぞ!!」

「逃げられたら俺らも奴隷になっちまうぞ!」

「追いかけろ!!逃がすな!!」


シーラ…

私はてっきり、二人で逃げるんだと思ってた。一緒に逃げて、暮らして…

私の目には、紙切れの文字が鮮明に映っていた。

Спасайся!

何書いてあるか…わからないよ…


私は紙切れを握りしめ、シーラに背を向け走り出した。






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