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46. 行列のできる相談係

 相変わらず、俺だけやることが無い。

 というわけで今日は、リゼの様子を見に聖堂まで足を運んでいた。


 リゼからの定期連絡によれば、調査は順調らしい。

 仕事にもすっかり慣れ、今は“相談係”を任されているという。

 その名の通り、迷える子羊たちの悩みを聞く役目だ。


 ――ズキン、と頭が痛む。

 昨日のセシルとの模擬戦、途中から記憶がすっぽり抜け落ちているんだよな。

 何か、とても大事なことを忘れている気がしてならない。


 荘厳な雰囲気に気圧されつつ、恐る恐る聖堂に足を踏み入れる。

 広大なホールは、聖女らしき女性たちと訪れた人々で、ごった返していた。

 さすが中央都市だ。


 だが、重要なのはそこじゃない。


 聖女たちが身にまとう制服。

 清らかさと可愛らしさが同居した、あまりに完璧なデザイン。


 ……誰だ。あんなものを考案した変態は。ノーベル平和賞を授与すべきだ。


 まさに天国。

 一日中ここに座っているだけでも、心が洗われそうだ。


 ――っと、リゼの様子を見に来たんだった。

 何やってるんだ俺は。


「えーと、相談係は……」

「お客さん、どうされましたか?」


 背後から声を掛けられ、びくっと肩が跳ねる。


 振り返ると、そこには小動物みたいに愛らしい聖女さんが立っていた。

 ぱちぱちと大きな瞳で瞬きを繰り返し、こちらを見上げている。

 ……反則級の仕草だな。


「あ、えっと、相談係を探してて」

「あー、相談係ですね。あそこの列になります」

「えっ?」

 

 指さされた先には、ひときわ長い行列。

 ざっと見ただけでも、最後尾は視界の端に消えている。

 

「相談係は今日も大盛況です。うちで一番人気のお役目ですから」

「へえ、すごいな。ちなみに、リゼって子もいる?」

「お客さんもリゼちゃん目当てですか。最近入ってきた子なんですけど、瞬く間に超売れっ子ですよ」


 ……あのリゼが?


 一瞬、耳を疑った。

 人付き合いとか、悩み相談なんて一番苦手な分野だろう。

 無理して笑顔を作って、すり減ってしまわないだろうか。


「なんでも、超かわいい外見から無表情で淡々と刺してくる感じ。そのギャップがたまらないらしいです」


 ……良かった。どうやら無理はしていないらしい。


「リゼちゃんご指名なら、一番奥の列です。並んでますけど、回転速いんで意外と待たないかもですよ」

「そうか。ありがとう、並んでくるよ」

「はい、いってらっしゃいませー!」


 聖女さんにぺこりと見送られ、リゼ待ちの列へ並んだ。


 ……あの子も、なかなか可愛かったな。

 名前くらい聞いておけばよかったかもしれない。




「次の方、どうぞー」


 ついに俺の番がきた。

 前の相談者から出てきたが、なぜか妙に恍惚とした表情を浮かべている。

 何を言われたんだ。

 

 相談は個室で行われる仕組みらしい。

 人に聞かれたくない内容もあるからだろう。

 ……この仕事、続けてれば嫌でもゴシップ通になりそうだな。


 ガチャリと扉を開けて部屋に入る。

 テーブルの向かいに、ちょこんと腰かけるリゼの姿。

 たった数日ぶりなのに、不思議と懐かしさがこみ上げてきた。


「よっ。元気にやってるか?」

「颯太……どうしたの」


 少し驚いたように、リゼの目が丸くなる。


「いや、相談係って聞いたからさ。ちゃんとやれてるかなって思って」

「大丈夫。問題ない」

 

「そっか……。でも人気らしいな。列も一番長かったし、すごいよ」

「そんなことない。……でも、たくさんの人たちの悩みを聞いた。小さな悩みも、大きな悩みも。みんなの暮らしを守るためにも、女神のところに行かないとって思った」

「……そうだな」


 調査だけじゃない。

 こうして人と触れ合うことで、リゼは確かに成長している。


「颯太……何か、相談していく?」

「えっ? ああ……そうだな」


 急に言われても何も考えてなかった。


「俺さ、みんなからもっと信頼されたいって思うんだよな。ほら、フォルテリアじゃ散々な言われようだったし……。どうしたら認めてもらえるかな?」

「颯太は十分信頼されてる。でも、そう感じていないなら、きっと原因は颯太自身にあると思う」


「俺自身に……?」

「そう」

「それって、どういう……」


「わからない。でも、信頼されていないって感じさせているのは、颯太自身だから」

「うーん、そうかあ……」


 なんだか禅問答みたいだな。


「ありがとう。自分でも考えてみるよ。ところで、他の人にもそんな感じで接してるのか?」

「ううん、颯太は特別。特別に、優しくしてる」

「えっ、今のが優しいバージョン? 他の人はどんな感じなんだ?」


 リゼは視線を上に向け、少し考えてから答えた。


「さっきの人には、『付き合ってほしい』って言われたから、『無理』って返した」


 おいおい。


「他には……?」

「『稼げるようになりたい』って人には、『ここへ来る暇があるなら勉強しなさい』って」

「そ、そうか……」


 確かに優しくない。

 でも、その無遠慮さがウケたんだろうな。


「あ……」

「ん、どした?」

「守秘義務があるから、今の話は内緒」


 リゼが人差し指を唇に当てる。

 その仕草に、少しドキッとしてしまったのは秘密だ。




 リゼとの面会を終え、再びホールへ戻る。


 ――元気そうで良かった。


「さて、このあとどうするかな……」


 午前中で予定は全部終わってしまった。

 かといって、屋敷に帰ってもやることはない。


「お兄さん、お兄さん」


 背後から声をかけられ、振り返る。

 さっきの小動物系の聖女さんが、つぶらな瞳でこちらを見上げていた。


「あ、さっきはどうも」

「リゼちゃんに会えました?」

「ああ、無事にね。ありがとう」


「いえいえ。それで……お兄さん、リゼちゃんのお知り合いですか?」

「えっ……ああ、同郷なんだ」


 広い意味でな。嘘じゃない。


「あ、本当だ。お兄さんもリゼちゃんと同じ、“ローセル”出身になってますね」

「“ローセル”?」

 

「えっ?」

「えっ?」


 一瞬、互いにきょとんとする。


「やだなぁ。お兄さんの出身地じゃないですか」


 ……しまった。

 あの街、ローセルって名前だったのか。

 そういえば一度も確認してなかった。


「そうそう、ローセル。ド忘れしてたよ。あはは」

「もう、お兄さんったら天然ですね!」


 乾いた笑いが二人の間に響く。


「ねえお兄さん、ぶっちゃけ暇してません?」

「え、分かる? でもなんで?」

「だって、ヴァンガードのライセンス持ってるのに部隊所属じゃなくてフリーでしょう? 平日の真昼間にここをうろついてるのが何よりの証拠です」


 うっ……鋭い。

 自尊心がごっそり削られる。

 そういや、聖女は相手の女神情報を見られるんだったな。


「私、早番なんで午後は空いてるんです。せっかくですし、この後お茶に付き合ってもらえませんか?」

「え、俺と……?」

「はい! だってお兄さん、タイプですもん」


 ……これって、まさかの“逆ナン”ってやつ!?

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