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44. 聖堂へ

 任務を終え、ヴァンガード中央本部に戻った俺たちは、調査の結果を報告した。


「……そうか、調査隊は過去へ……。ロウも、カスティアも……」


 アレンは目を閉じ、言葉を探すように小さく息を吐いた。

 しばし沈黙が流れたあと、彼は再びこちらを見据える。


「報告、感謝する。やはり君たちに任せて正解だった。そして――ソウタ殿、リゼさん。君たちが古代から来た者だったとは」

「はい……。正直、自分でもまだ信じきれていません」

 

「ノクセイアを滅ぼしたのは魔物ではなく……君たちと同じ古代人だった、か」

「……すみません」

「いや、君が謝ることではない」


 それでも、胸の奥に重苦しい感情が広がっていく。

 俺は“無能者”の底辺で、奴らとは何の関わりもない。

 けれど、自分が生まれた時代の理不尽が、はるか未来にまで災いを残した――その事実が、どうしようもなく申し訳なかった。

 

「カイム、そしてヴァイルの目的は分かった。だが、どうあれ女神様を殺させるわけにはいかない。人々の生活は、女神様なしでは成り立たないからね」

「あいつらはもう女神のもとに辿り着いてるかもしれない。俺たちも急がないと……。何か手掛かりはありませんか?」


 焦燥が胸を掻きむしる。

 女神は「大丈夫」と言っていたが、楽観視はできなかった。


「実はひとつ、気になることがある」

「本当ですか!?」

 

「先日の試験襲撃事件以降、警察と協力して調査していた。その日と、その前に起きた転移障害の日……転移ステーションに不審なアクセスが記録されていたんだ」

「不審なアクセス……?」

「ああ。アクセス元を追ったところ、ここ中央の聖堂に行き着いた」


「聖堂……」


 マリアが低く呟く。


「当時アクセスしたのは、おそらく協力者の彼女だろう」


 ――フィオナ。

 彼女の悲劇を知っているだけに、胸が痛む。


「彼女が何を調べていたのか。それが分かればヒントになるはずだ」


 思い出す。

 あの日、カイムは言った。

 「女神の居場所が分かった」と。


「よし、なら聖堂に行こう!」

「はあ……」


 マリアが呆れ混じりにため息をつく。


「ソウタ殿。そう簡単にはいかない。聖堂は女神と街をつなぐ中枢機関。情報管理は極めて厳重だ。内部の人間といえど、一介の聖女が簡単に介入できるはずがない」

「えっと、つまり……?」

 

「つまり、聖堂内部に協力者がいる、と」

「そのとおり。さすがマリアさん、噂に違わぬ聡明さだ」


 アレンがマリアに向き直る。


「貴女は以前、中央の聖堂に勤めていたそうだね。高く評価されていたと聞いている。――そこでだ」


「マリアさん。貴女に聖堂への潜入調査を頼みたい」


「えっ……」


 マリアの瞳が揺れた。

 中央の聖堂――そこは彼女にとって忌まわしい記憶の場所。

 そんな場所に戻れだなんて……。


「アレンさん、マリアにとって中央の聖堂は……!」

「分かっている。退職の理由も承知のうえだ。それでも、お願いしたい」

 

「ヴァンガードの誰かじゃ駄目なんですか!?」

「相手は聖堂。こちらの情報はすぐに調べられる。ヴァンガード所属では目をつけられる恐れがある」


 マリアは俯き、口をつぐんだ。

 女神探しのためとはいえ、ようやく癒えかけた傷を抉るようなことはできない。


 重苦しい沈黙が流れる。


「わか――」

「わたしが行く」


 承諾しかけたマリアの言葉を遮るように、リゼが口を開いた。


「リゼさん……?」

「わたしはここでは何者でもない。それに、街の仕組みやギアのことも勉強した。調査、できると思う」


「駄目! あそこは……!」

「マリア。大丈夫」


 リゼが真っ直ぐに見つめる。

 その瞳に押され、マリアは言葉を失った。


「ボクも手伝うよ!」


 ルミナが元気よく挙手する。


「でも、ルミナさんはリュキアの社員だ。怪しまれる」

「うん。だからリゼっちのサポート! 暗号化して定期的に通信するの。困ったことがあれば、すぐみんなで助けに行ける。それならマリアっちも安心でしょ?」


 ……なるほど。

 リゼの状況を共有できるなら、確かに安心だ。


「それなら……リゼさん、お願いできるか?」

「頑張る」


 こうしてリゼの潜入調査が決まった。

 不安はあるが、今は彼女を信じて託すしかない。



 

 中央本部を出た俺たちは、5人でマリアの部屋へ向かっていた。


「よく考えたら、この人数じゃ私の部屋、狭いわね」

「私は自分の家があるので、そっちに戻ります。あ、でも……よかったら皆さん、一緒に来ませんか?」


「セシルの家?」


 そういえば、セシルの家ってどんな場所なんだろう。

 マリアみたいに高級マンションか、それとも……。


「はい。父と兄がいなくなってからは、ひとり暮らしで……正直、ちょっと寂しくて」


「セシルの家、懐かしいわね」

「マリアちゃんの部屋、今もそのままにしてあるよ」

「え、ちょっと!? 何年経ってると思ってるの!」

「部屋、余ってるから別に困らないし」


 セシルの顔に、嬉しそうな色が浮かんでいた。

 本当はずっと、マリアが戻ってきてくれるのを待ってたんだろう。


「部屋が余ってるって……そんなに広いのか?」

「そりゃもう、大豪邸よ。歴代最強って呼ばれた隊長の家だもの。道場も兼ねてて、お弟子さんもたくさんいたんだから」

「へえ……」


 なんだか楽しみになってきた。

 ……それにしても、みんな揃いも揃ってエリートばかりだ。

 俺だけ落ちこぼれで、ちょっと切ない。


「リゼは……明日もう面接だよな。本当に大丈夫か?」


 お世辞にもコミュ力が高いとは言えない彼女が、女性ばかりの職場でやっていけるのか。

 マリアをかばうために無理しているんじゃないか。


「大丈夫。……みんながついてる。それに、聖女の仕事、ちょっと楽しみ」


「あっ!」


 急にセシルが立ち止まった。


「壮行会、しませんか? 潜入前にみんなでいるところを見られるのはよくないと思うので……うちで」


「いいね! まだキャビリンに食材残ってるし、それ使お!」

「壮行会か。いいな、それ」


 セシルの提案にルミナも俺もすぐ賛成する。

 ただひとり、マリアだけが俯き、歩幅を狭めていた。


「マリア」


 リゼがその小さな手で、マリアの手を掴んだ。

 マリアは驚いたように立ち止まり、顔を上げた。


 リゼは柔らかく微笑んでいた。

 その笑みは、この世のものとは思えないほど優しく、女神そのもののようだった。


 その瞬間、俺は息を呑んだ。

 マリアもまた心を奪われたのだろう。

 言葉を交わすことなく、そっとリゼを抱きしめた。

新章の始まり、お読みいただきありがとうございます!

今後の更新についてお知らせです。

物語がこれから迎える中盤の山場を最高のクオリティでお届けするため、しばらくの間、更新を【中二日】から【毎週 火曜日・金曜日 の午前7時】に変更します!

カイムとの決着、そして颯太は無事に帰還できるのか――。

今後の展開にも、ぜひご期待ください!

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