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25. 初任務

 耳をつんざくようなサイレン。

 叩きつけるような激しい足音。

 けたたましい喧騒に叩き起こされ、俺はベッドから跳ね起きた。

 

 何だ、何が起きてる?

 ……大規模な避難訓練、とかだったらいいな。

 

 なんて淡い期待は、1通の着信で砕かれる。


『ソウタ、緊急事態だ。協力してくれ』


 アレンの声だった。

 セシルの上官。

 俺は部隊所属じゃないけど、一応俺にとっても上司になるのかな。


「はい……えっと、いったい何が?」

『悪いが説明している時間が無い。外に出れば分かるはずだ。』


 声のトーンから緊迫が伝わってくる。


『今すぐアルカナ社へ向かってくれ。セシルと共に。道中、逃げ遅れた人がいれば助けてくれ』

「……了解しました」

『頼んだぞ。……くれぐれも、死ぬな』


 通信はそこで切れた。

 ……なんか、怖いこと言ってなかったか?



 ロビーは、人でごった返していた。

 怯えた表情の大人、泣きじゃくる子供、呆然と立ち尽くす老人。

 リュキア社のスタッフが懸命に誘導しているが、明らかにキャパシティを超えている。

 まるで戦場の野戦病院のような光景に、俺は息を呑んだ。

 

 状況がつかめない。

 誰か、知っている人は……そう思ってあたりを見回す。


「ソウタさん」


 声の主を見て、思わず胸をなでおろした。

 セシルとセラさんだった。


「何がどうなってるんですか?」


 すぐに疑問をぶつける。

 わけが分からない状況への不安を、少しでも早く解消したかった。

 

「街に……魔物が現れたんです」

「魔物が!?」

「はい。かなりの数です。それに……今まで一度も見たことがない種が……」

 

 セシルの表情にわずかな震えが混じっていた。

 場数を踏んできた彼女がこう言うのだから、相当だ。

 

「ここを臨時の避難場所として開放しました。テスト室の圧縮空間なら、かなりの人数を収容できますので」


 セラさんが冷静に説明を続けた。

 なるほど、それでこれだけの人が集まっているのか。

 

「お二人は、任務があるのでしたよね」

「はい。アレン隊長から連絡が。ソウタさんにもありましたよね?」

 

「うん。アルカナに向かえって。でも、どうしてアルカナなんだ?」

「魔物はアルカナ社上空に出現した(ゲート)から現れています」

「“(ゲート)”?」

「空間と空間を繋ぐ扉。転移装置にも利用されている技術ですが……あれは十中八九、“外”のどこかと繋がっています」


 思考を巡らせるように、セラさんは顎に手を当てる。

 

「つまり、魔物はその門を通って来ていて、元を断たない限りキリがない、と」

 

「その通りです。通常、(ゲート)は結びたい2地点間で座標を同期させて開きます。ですが、あれは……」

「おそらく、こちら側から“外”の特定座標へ一方的にエネルギーを送り込み、こじ開けている。……こんな荒業ができる技術者は、世界に1人しか心当たりがありません。クロスタ……彼女でしょう」


 こんな大迷惑をかけてまで“外”の特定の場所に行きたい連中なんて、心当たりは1つしかない。

 クロスタ博士は奴らの仲間ってことで確定か。


「ソウタさん、急ぎましょう」

「ああ、そうだな。ところで、マリアは……」


 あたりを見るが、マリアの姿は無い。

 無事なんだろうか。

 それだけが大きく引っかかっていた。


「分かりません……こちらには、来ていないみたいです」


 セシルは苦虫を嚙み潰したように言った。

 誰よりも心配なはずだ。

 だが、彼女はヴァンガードとしての責務を優先し、その感情を必死に押し殺している。


「……そうか。まあ、あいつなら大丈夫だろう。賢いし、それに、強いんだろ? とっとと片付けて迎えに行こう。……で、単独行動の説教もしてやらないとな」


 本当は俺だって心配だ。

 最悪の事態なんて考えたくもなかった。


「行かれるのでしたら、これを――」


 セラさんが差し出したのは、鞘に収められた一振りの剣だった。

 流線形のフォルムに、蒼いラインが走っている。

 シンプルだが、洗練されたデザインだ。


「もしかして、俺のギアですか!?」


 期待を抑えられず、前のめりになる。


「いえ、申し訳ありません。そちらはまだ最終調整が……。取り急ぎ弊社の汎用ギアをお持ちしました」

「な、なんだ……てっきり完成したのかと……」


 ちょっと、いや、それなりに落胆した。


「新しいギアは完成次第、ソウタさんの元へ転送いたします。それと、汎用ギアですが――」

「訓練用ギアを実践向けにアレンジしたものでして、攻撃性が大幅に高くなっています。汎用とは言え、十分な力を発揮してくれる筈です」


 汎用ギアを受け取る。

 なんだかんだ、見た目は気に入った。

 専用ギア完成までの間、相棒としてよろしく頼むぜ。


「ありがとうございます。ところで、ここの守りは大丈夫なんですか?」

「スタッフにもギアの扱いに長けた者がおりますし、ヴァンガードの方々も。……いざとなれば、ルミナもいます」

「そうですか……」

「お二人は防衛ではなく、元凶の排除を任された。それだけ期待されているということかと。さあ、急いでください」


 セラさんの言葉に、背中を押される。

 俺はセシルと視線を交わし、頷き合った。

 

 ヴァンガードとしての初任務――やってやろうじゃないか。

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