あとがき
登場人物紹介
■ 殿下
本名・鬼澤 賢太郎元・お笑いコンビ「正解パンチ」のツッコミ担当。解散後にサラリーマンとなるが、笑いへの未練を断ち切れず、地底へ。スーツの下に魂のツッコミを隠し持つ、地底の“貴族”。
■ ジーサン
本名・地曳 真太郎。元高校美術教師。定年後に芸人を目指すも挫折。紙芝居と団扇を武器に、前衛的な笑いを追う。趣味は独演、相手はたいてい動物か無人客席。
■ 先生
本名・真田 晶彦 昼は老人ホームのレクリエーション職員、夜はカラオケボックスの恋愛相談師。熟女からの支持が異様に高く、「笑いは処方箋」と真顔で語るナゾの男。
■ 栗尾 鞠子
元・芸人、現在は地元ラジオ局の構成作家。人前に立つことをやめ、舞台の裏から「声」を支える道を選んだ。モスクムオルの名付け親であり、劇場「UP TO ME」の空気を誰よりも愛していた。殿下に特別な想いを抱きつつ、最後まで“見守る人”であり続ける。
■ カミヒコーキ(雨宮 透真・あまみや とうま)
小学低学年の少年。「UP TO ME」にふらりと迷い込み、無言でステージを見つめる常連となる。感情表現は乏しいが観察力に優れ、ジーサンの紙芝居「紙でできたヒーロー」に強く心を動かされる。自由帳に描いた言葉と絵がジーサンに影響を与え、自ら「カミヒコーキ」と名乗るように。地底芸人たちにとって、彼は静かな“希望”の象徴である。
■ 三好 慎一
芸名:ミヨシ(正解パンチ・ボケ担当)。殿下の元相方。芸歴10年を目前にコンビを解散し、地元で建築の仕事に就く。今は家庭を持ち、芸人時代を語ることは少ないが、再会した殿下に「お前のツッコミ、今も一番好きやで」とだけ告げて去る。その一言が、殿下の心に小さな光を灯す。“笑いを降りた者”として、物語の節目に静かに姿を現す。
■ 上原 結花
先生の学生時代の同級生。詩や短編を書いていた文学部出身で、感情表現が苦手な先生に言葉で寄り添った数少ない存在。就職と距離で自然消滅し、告白も別れもなかった関係は、先生の中で「届かない感情」の象徴となっている。彼の“恋愛相談芸”には、今も彼女の口調が忍ばされているが、本人はそのことを知らない。
■ ナナメナナメ
社会を斜めに斬る”コンセプトの若手コンビ。笑いよりも“距離感”で観客を揺さぶる不思議系スタイル。ジーサンに影響を受けた過去があるが、そのことに気づいていない。
■ 坂巻レオ
「ナナメナナメ」のネタ作り担当。元・美術部、ジーサンの前衛紙芝居に影響を受けたが、自身はその自覚がない。ネタの着想は常に“社会の斜め上”。口癖は「笑いってのは、たぶん軸ズレっす」。
■ 野洲トモキ
「ナナメナナメ」のボケ担当。ぽっちゃり系の天然キャラ。意図していない一言が観客の心をざわつかせる“無自覚パワー”の持ち主。相方レオを絶対的に信頼しており、「理解」をキーワードに漫才を展開する。
■ 電撃パパ(でんげきパパ)
本名・江南一徹。42歳、八尾出身。元ボクシング日本ライト級2位。引退後、シングルファーザーとしてプロレスに転向。「電撃パパ」は父親としての自分を笑いに変えたリングネーム。リングでは一切笑わず、「しつけパンチ」「育児ジャーマン」など独自の技を真顔で繰り出す。育児と格闘の矛盾を背負う、寡黙な異色レスラー。
■ そこそこイズム
「ナナメナナメ」に憧れを抱く若手が集まり、彼らのスタイルを進化させた若手お笑いユニット。「UP TO ME」から独自のスタイルを展開し、SNSも活用して着実に人気を伸ばしている。地底芸人の哲学的・ナンセンスな要素を引き継ぎつつ、より広い観客層に笑いを届けることを目指す。
■ 大杉 リク(おおすぎ リク)
かつて「ナナメナナメ」に憧れていた後輩であり、ナナメナナメの進化系ユニット「そこそこイズム」のリーダー的存在。以前より痩せて声に張りが出ており、哲学的で少しすっとぼけた語り口が特徴。「地底芸人」としてのルーツを大切にしつつ、新しい笑いを模索している。
■ 前川 ツカサ(まえかわ ツカサ)
大杉リクとコンビを組み、ナナメナナメに憧れながらその流れを継承し、さらに進化させた笑いを追求している。淡々とした語り口で独特の浮世離れした雰囲気を持ち、個性的な存在感を放つ。「地底芸人」のバックボーンを活かし、新たなステージでの成功を目指す。
■ ラブホ暗渠
新進気鋭の芸人コンビ。大阪の地下街やラブホテル街の影響を受けた独特の世界観とネタを持つ。彼らの笑いは「地下の暗渠=隠された水路」に例えられ、深く複雑で、時に詰まり、時に流れるような起伏がある。
■ 桐谷 秀司
「ラブホ暗渠」のメンバー。元地下アイドル。白いスーツに深紅のスカーフがトレードマーク。表舞台からは退きつつも、地底芸人としての新たな道を模索している。自己肯定感が高く、不敵な笑みを絶やさないが、内面には葛藤も抱えている。ステージ上ではカリスマ性を発揮し、観客を惹きつける。
■ 中嶋 忠弘
「ラブホ暗渠」のメンバー。元演劇科の落ちこぼれ。全身黒づくめでクールな印象を与える。言葉巧みで計算高いが、どこか影のある雰囲気を持つ。シュウジと対照的に冷静沈着で、コンビのバランスを取る存在。ネタは演劇的要素を強く含み、観客を深く引き込む。
■ 野良犬のコロン
ジーサンの紙芝居館に通う唯一の“観客”。演目をくわえて逃げた過去があるが、なぜか毎晩やってくる。ジーサンの新作『イヌでもわかる哲学』の主役に抜擢される
■ こいさん(小磯 小枝・こいそ さえ)
十三のカラオケ喫茶「ふれあい歌声ホール」のママ。先生の“恋愛相談芸”を密かにプロデュースしていた立役者。過去に浅草の寄席で前座を務めたことがあり、笑いに対する目は厳しい。
■ 鳥井 諒真
殿下が深夜清掃バイト先で出会った無口な青年。元は舞台美術志望。殿下のツッコミ練習に付き合ううちに、無言でボケを返すように。台詞は少ないが、目とジェスチャーに不思議な説得力がある。
■ ノブさん(延本 信助・のぶもと しんすけ)
豆腐屋の師匠。故人。ジーサンが一度芸を諦めた時に弟子入りした豆腐屋の主人。「芸も豆腐も、滑るか固まるかの勝負や」と語った名言は、ジーサンの座右の銘に。回想の中でたびたび登場し、ジーサンの迷いに“答えない助言”をくれる。
■ ミカ(川西 実佳・かわにし みか)
栗尾の後輩構成作家。 新世代の笑いを推す冷静派。モスクムオルの“泥臭さ”には懐疑的だったが、ある出来事をきっかけに、彼らの芸に涙する。以降、栗尾の影響で「地底記録係」を自称するように。
■ 河田 ふみえ(かわだ ふみえ)
元・芸人育成所「笑楽塾」の事務員。地底芸人たちの前身時代を見守っていた影の功労者。地味な外見に反して毒舌で、芸人志望の若者たちに喝を入れていた。現在は福祉施設勤務。
■ 西岡 バズ(にしおか ばず)
フリー映像作家。UP TO MEのステージを密かに撮影し続け、SNSに無断で上げていたが、ある紙芝居を観て心を打たれ「何も撮らない観客」として通うようになる。
■ 堀内 サチコ(ほりうち さちこ)
先生の通っていた銭湯「寿湯」の番台の女性。芸人たちの話をよく聞いており、彼らが口にしなかった悩みを、静かに見抜いていた。いつもサイダーを差し入れる。
■ ヒゲ山(樋山 忠則・ひやま ただのり)
UP TO MEの近所に住む謎の中年男。芸人ではないが、店の前にいつも座っている。彼が笑うとその日は「ウケ日」とされていた。職業は誰も知らない。
■ ロクさん(六車 光男・むぐるま みつお)
殿下が通っていた喫茶「モーニン梅田」のマスター。元・舞台照明。芸人と演者の「光と影」を知る語り手で、殿下にだけはよくしゃべる。
■ タニさん(谷村 静男・たにむら しずお)
84歳・元・舞台大道具。十三の路地裏で古道具屋を営む。UP TO MEができる以前、先生が初めて即興芝居をやった時の客でもある。劇場跡地の前を通るたび、立ち止まり「このへんに“空気の段差”があるねん」とつぶやく。
■ おとわ婆ちゃん(音羽 テルエ・おとわ・てるえ)
元・落語家の妻。今は耳が遠く、UP TO MEの笑いもほとんど聞こえていなかったが、毎回一番前に座っていた。「誰かが何かを出そうとしてる時の“沈黙”がいちばん好き」と語る。鞠子のことをひそかに孫のように思っている。
■ オカモト爺(岡本 英介・おかもと・えいすけ)
先生の老人ホーム時代の“演芸仲間”。ネタはいつも『古典演歌の替え歌+ポエム』。先生の訃報を聞き、「あいつ、笑いながら沈んでいったなあ」と新聞の隅に短歌を寄せた。
■ ミドリさん(緑川 光江・みどりかわ みつえ)
元・文具店主。ジーサンが初めて紙芝居に使ったクレヨンの寄贈者。以後、彼の作品にだけこっそり色鉛筆の差し入れを続けている。本人は顔を出さないが、小屋の隅に毎回メモを残す。
■ ヘルパー西井
本業:訪問介護士。夜勤明けにUP TO MEへ寄り、“介護現場のあるある”を誰も笑えないくらいリアルに語る芸人。語尾に必ず「…これ笑えへんやろ」とつける。観客はよく泣く。本人は「泣かせる気はない」と言い張っている。
■ トビ職ジョニー
本業:足場組立の職人。高所恐怖症をカミングアウトした“落ちない芸人”。ヘルメットと軍手姿でネタを披露し、笑いのテンポ「ビル三階建て」などの建設単位で語る。芸名の“ジョニー”は謎。
■ Dr.カルテット
本業:内科医グループ(週1でネタ活動)。4人組の医師によるコントユニット。「カルテの向こうの喜劇」をテーマに、ブラックに寄りすぎない医療漫才を展開。UP TO MEでは「命の重さがネタになるか」を問われ、沈黙した経験がある。
■ ウーバー佐久間
本業:フードデリバリー。ネタ中にスマホが鳴って退出してしまう芸風で知られる“通い芸人”。「出前中に芸やってるんか、芸中に出前してんのか、もう分からん」と客が戸惑うが、それが芸の肝。遅れてきた拍手が持ち味。
■ 行政書士はじめました
本業:行政書士(元バンドマン)。開業届や遺言書をテーマに漫談を展開。テンションは低いが言葉選びに味がある。ジーサンとは言葉の感性で通じ合い、裏で手紙の代筆を頼まれることもある。
■ 真空ステップ(しんくうステップ)
無言の殺法師。すべての技を「音を出さずに」決める異端のレスラー。動きの静けさと読みづらさで、観客の“反応のズレ”すらコントロールする。試合中に音響が一瞬無音になる“真空タイム”は会場全体が息を呑む異空間。キャッチコピー:沈黙の空間殺法師 必殺技:エアロ・ロック(錯覚系関節技)
■ ゼリー正義
ねばつく笑顔と意味深な言葉で相手と観客を撹乱する、“トーク寄り”プロレスラー。あらゆる攻撃に「正義」のラベルを貼って強引に納得させる“言いくるめ系ファイター”。試合後に配られるプラスチック製スプーンは、地底界隈では伝説の記念品。キャッチコピー:揺れる正義、ねばつく夢 必殺技:ジャスティス・プディング(全身脱力フォールド)
■ そマチ針ロマン(まちばりロマン)
詩と刺し技を融合させた異色の存在。技の直前、短詩を朗読することで相手の動きを鈍らせる。その詩の内容は毎回変わるため、事前研究が不可能。唯一無二の“詩的関節師”。キャッチコピー:縫い目から生まれた、痛みの詩人 必殺技:一針落月(指一本で急所を突く)
あとがき
◆ 栗尾鞠子
「おもろいって、何なんやろな」この言葉を、私はたぶん、人生で百回くらい書いたし、二百回くらい考えて、三百回くらい逃げた。芸人やめて、構成作家になって、ラジオの電波の裏から声を並べるようになったけど、それでも、“笑い”ってやつからは、ずっと離れられへんかった。 いや、たぶん、離れたくなかったんやと思います。
この物語には、たくさんの「スベリ」と「傷」と「矢印」が詰まってます。ステージから落ちた日も、シャッターが閉まった夜も、誰かがまだ、地底で灯し続けてくれてた。私は、モスクムオルの3人を見てて、何度も泣きそうになりました。でも、不思議と泣けなかった。それはきっと、「笑い」に助けられてたからやと思います。どんなにしんどくても、「ツッコめる距離」があるうちは、人は孤独ちゃうから。この本を手に取ってくれたあなたが、もしも今、誰にも見えへん場所で何かを掘ってるとしたら。その“地底”にも、ちゃんと光は届く。 そう思ってくれたら、私は嬉しいです。ほなね。私の声、もう届いたかな。
◆ 殿下
どうも、地底出身、現・陶芸部所属の鬼澤です。…って言うたら、絶対「誰?」って顔されるんですよね。せやから今もつい「殿下です」って名乗ってまいます。そっちの方が、たぶん通りがええ。この物語、読み終わったあと、なんとも言えん顔になってる人が多いと思います。「笑ってええのか」「泣いてもうた」「いや、どっちでもない」― その全部が正解です。
モスクムオルやから。俺自身、芸人としてはぜんぜん“売れてへん”まま終わりました。ただひとつだけ誇れるのは、「スベりに行く勇気」だけはあったこと。あれ、めちゃくちゃ根性いりますよ。お客が5人しかおらんのに、「滑るなよ!」って顔されるんですから。でも、滑るってのは、地面に足がある証拠です。浮いてたら、滑らん。ツッコんで転んで、そこでやっと人の顔が見える。俺は、そう思いたい。
この本が出るって聞いて、正直ビビりました。「マジで? 誰が読むん?」って。でもまあ…飴ちゃんでも舐めるつもりで、読んでもらえたらええかな。最初甘いけど、最後ちょっとしみるやつ。ほんで最後に。もし、読者さんの中に「笑いを諦めたことがある」って人がいたら。ちょっとだけでええから、また舞台、探してみてください。地底にも、光ってあるんやで。
◆ ジーサン
一枚の紙に、描いたつもりが、描かれていたのは わたしの方だった。笑わせようとして、笑われて、それでも、手は止められなかった。あの日、誰もいないベンチの前で風にめくられたページを、ひとりの子が、笑ってくれた。それがすべての始まりだった。
地上には舞台がなかった。地底には灯りがなかった。でも、どちらにも「誰か」がいて、 その「誰か」が、目をこすりながら見つめてくれたら、それだけで、 芸は生まれる。
紙は、弱い。濡れるし、破けるし、燃えてしまうこともある。でもその分、何度でも折りなおせる。わたしの芸も、たぶん、そういうものでした。破けかけたページの端で、それでも声を出す人がいる。その声が、あなたの地底に、届けばいいと願っています。では、めくります。次の一枚。音のしない拍手の中で。
◆ 先生
第101回 地底恋愛講座 テーマ:「笑いと愛は、だいたい同じタイミングでスベる」皆さん、こんばんは。恋愛相談家(兼・芸人)の“先生”です。
この本を読んでくださったあなた、まずは拍手。ええ、自分に。よくぞここまで、地底を旅してきてくれました。さて、今回は特別編。恋も芸も、だいたい似たようなもんやという話をひとつ。恋愛には“間”が必要です。押して引いて、沈黙のあとに「ほんでな…」って返す、それがええ。ツッコミも一緒。早すぎたら滑るし、遅すぎたら届かん。つまり、「相手の余白を信じる」んですわ。それから、愛も笑いも“返ってくるとは限らん”という点でよく似てます。
手紙もギャグも、たまに捨てられる。でも、それでも投げ続けた人間だけが、たまに奇跡を起こすんです。この物語に出てきた連中は、みんなどっかで失恋してます。恋人に、夢に、自分自身に。でも、捨てきれんかった“声”だけは残してた。それが、ええんです。さて、講座もそろそろ終わりにしましょう。 あなたがもし今、誰にも届かん想いを抱えてるのなら、安心してください。それ、たぶん「恋」やなくて「芸」です。笑いも愛も、諦めたときが、本当の入口。以上、先生からの最後の講義でした。愛してますよ。だいたい全員。今夜もカラオケ喫茶より愛をこめて…
◆ 雨宮 透真
紙でできたヒーローは、雨にぬれても立っていた。やぶれたとこを、ぼくにくれた。「君は、まだ大丈夫」って。劇場の光は暗かったけど、ステージの上に、笑いがぽつりと落ちていた。ぼくはそれを拾って、ランドセルにしまった。名前をもらった日から、空を見上げることが増えた。
カミヒコーキ。まっすぐ飛べないけど、ちゃんと届く気がする名前。あの人たちは、地底で笑ってた。でもきっと、あそこは地底やなくて、ぼくの心の“下の方”やった。そこに落ちてた笑いは、今もぼくの中で、ひらひらしてる。また行くね、UP TO ME。ぼくのお守りは、まだポケットの中にあるから。
◆ 三好 慎一
どうも、ミヨシです。ボケのまま、死にました。成仏したかって? さあな。たぶん、まだしてへん。こっちにはツッコミが一人もおらんから、ボケても風に流れるだけや。でも不思議と、寂しくはないねん。笑われへんことに、慣れてもうたんかもな。
殿下、あんた、まだ地底で笑い探してるんやな。ツッコミの背中、あの頃よりちょっと曲がったけど、まだ真っ直ぐ進んどる。先生もジーサンも、変わったようで変わってへん。みんな地底におって、なんか、地上より自由やな。俺はここで、ボケのリハビリ中や。誰もツッコまへんけど、ええねん。あんたらの舞台、こっからよう見えてる。せやから、もうちょっとだけ、おもろいことやってくれ。こっちは、静かに拍手しとるから。
◆ 野良犬のコロン
わたしは犬です。名前はコロン。誰が呼んだか知りません。たぶんジーサンです。最初は、あの紙芝居、ただの紙の束やと思ってました。くわえて逃げたこともあるし、びしょ濡れにしたこともある。でも、ある夜、風の音と紙の音が混ざった瞬間に、「これは、おもろいもんかもしれんな」って思いました。言葉はわからんけど、匂いと音と間がわかる。ジーサンの“間”は、腹がすいてる夜の街と、どこか似てる。誰にも見向きされん場所で、誰かを待ってる時間みたいな。
わたしは犬です。拍手はできへんけど、ちゃんと見てます。きょうも、裏口からそっと入って、いちばん前の席で。