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楼王家次女、華月

「五行の壱! 火印! 焔!」


 道場にて蓮太が修行に励んでいるようだ。

 蓮太は俺に色々と教えてくれるはずなのだが、今はそれどころではないと見える。

 朝から汗だくになって術を何度も繰り出していた。


 見ていて思ったのだがやはり蓮太は弟の俺に戦わせたことを気にしている。

 俺自身はまったく気にしていないのだが、兄としての立場を重んじている蓮太にとっては小さなことではない。

 己の力不足が招いた結果だと捉えているようで、本当に修行に身が入っていた。


「クソッ! この程度じゃダメだ!」

「蓮太、今のが全力か?」

「あ? 全力に決まってるだろう! ケンカ売ってんのか!」

「いや、すまない。そういうつもりで言ったわけではない」


 迂闊な質問だったようだ。

 蓮太の術の威力が俺よりも低い気がしてな。

 しかし陰陽術において威力は一つの指標でしかないだろう。


 蓮太は威力ばかりを気にしているみたいだが、俺からすればとてつもない精度だ。

 炎の球を自在に操って道場内を飛び回らせる技術は目を見張るものがある。

 オレも試しにやってみたがどうもうまくいかない。


 炎の球が大きくなりすぎてまた道場を破壊してしまいそうだった。

 そこへいくと蓮太の力は俺を優に上回っていると考えて問題ないだろう。


「きゃんきゃん!」

「ケル……ではなかった。こいつはベロか」


 ケルベロスのうちの一匹、ベロがやってきた。

 屋敷の中で放し飼いしているようだ。

 ケルは白くベロは黒、スーが灰色と見分ければいい。

 オレはベロを抱きかかえて道場の端に座った。


 蓮太は汗だくになりながらも様々な術を使用している。

 俺も修行を行いたいのだが、また道場を壊しては申し訳が立たない。

 それに兄の蓮太の横で修行を始めてもいいのだろうか?


 この道場には俺と蓮太以外、ほとんど誰も顔を見せない。

 蓮太より上の兄や姉はとっくにここでの修行を終えているからだ。

 それに陰陽師の仕事で出払っていることが多いため、俺もほとんど顔を合わせたことがない。


「はぁ~~~……頭痛いし……って、なんか使われてるしー」


 道場に姿を現したのは次女の華月(かづき)だ。

 12歳で頭髪を金髪に染めており、赤のチェックのスカートがやたらと短い。

 靴下もだらしなく伸びたものでとにかく個性的だ。


 まともに話したことはないがやたらと目立っているので印象に残っている。

 食事の時はいつもスマホというものをいじっていて家族とろくに会話もしない。

 蓮太に言わせればいわゆる不良なのだそうだ。


「華月ねーちゃん! 入ってくんなよ! 今使ってるんだからさ!」

「えー、せっかく昼寝しようと思ったのにさー。マジだるっ」

「ていうか仕事じゃなかったのかよ?」

「依頼主のハゲが報酬ケチってきたから頭きてふけた」


 華月はカバンのストラップという小さい人形がついた装飾品を鳴らした。

 そして道場の真ん中でごろりと寝転ぶ。


「お、おい! オレが訓練してんだよ!」

「いーじゃん。アンタ天才なんだしよゆーだって。それよりマジ眠いんだわー」

「自分の部屋で寝ろよ! よくこんなとこで寝れるな!」

「うるさいなー。じゃあ、どかしてみー?」


 華月が片手をひらひらと揺らして挑発している。

 蓮太は顔を茹ダコのように赤くして五行の壱・焔を使い始めた。

 これはケンカか? それにしてはやりすぎではないか?


「だったらどかしてやるよッ!」


 蓮太から炎の球が放たれた途端、華月のストラップの一つがガタガタと揺れた。

 それは亀の人形のようなものでその場で巨大化してしまう。


「どっこらしょっとぉ~……はぁ~~しんど……」


 蓮太が放った炎の球が亀の甲羅に直撃してかき消えてしまう。

 亀は何事もなかったかのようにまた元の人形へと戻った。


「く、クソッ! 式神はズルだろ!」

「これがアタシのスタイルだしー」


 式神とは確か神霊のことで、それを何らかの媒介に宿らせて顕現させる。

 神と名がついてはいるが本当の意味で神ではない。

 精霊などと言い換えられたりもするが、その正体は自然界の付喪神だ。

 長い間大切にされたものに魂が宿るように、それは自然界の動植物にも言えること。


 とはいえ、オレもこの目で見るのは初めてだな。

 あのストラップというものを媒介にして、しかも一瞬で顕現した。

 どんな手段を用いているのか想像もつかない。


 あの亀以外にも華月は複数の神霊を使役しているのだろう。

 粗野な印象を受ける華月だが陰陽師としての実力は高い。

 寝ながらあの蓮太を軽くあしらうほどなのだからな。


「五行の壱! 水印! 水牢!」 


 蓮太の水の球が華月を襲うが今度はイタチのようなストラップが動く。


「はいはいはいお待ちのお方はこちらの列にどうぞぉ~~~! なぁ~んちってぇ! きゃはは~っ!」


 イタチは体をしならせたかと思うと水の球をぐにゃりとゆがめた。

 水はブーメランのように曲線を描いたかと思うと、それが蓮太に返ってくる。


「ぶはぁっ!」


 蓮太は水を浴びてビシャビシャだ。

 あのイタチ、一体どういう手段を用いた?

 術の進路を変更する能力なのか?


「さっきからうるさいんだけどぉ~。あんたは部屋で勉強でもしてなー」

「華月ねーちゃんもだろ!」

「アタシは成績優秀だからねー。あんたはこの前のテストで確か24点だっけ?」

「なんで知ってんだよ!?」


 蓮太は学校に通っているようだ。

 オレもあと少ししたら通う予定だが、テストというのは存外厄介なものだと記憶している。

 この言葉はあまりいい気分にはならないのだ。


「クッソ! もういいからそこどけよぉ! 父ちゃんと母ちゃんに言いつけるぞ!」

「二人とも朝から事故現場の仕事だってさー。悪霊化する前に手を打つって張り切ってたよー」

「じゃあ、じいちゃんとばあちゃん!」

「遠方の地鎮祭にいってるから夜まで帰らないよー」


 蓮太の当てがことこどく外れたようだ。

 やはり楼王家となれば常に陰陽師としての仕事に追われるのだな。

 特に事故現場では突然の死に戸惑った霊が絶望して悪霊化しやすいとのことだ。


「シズカ姉ちゃん! 迅兄ちゃん!」

「祈祷の依頼で県外かなー。迅兄のほうはパチンコ店の悪霊を討伐しにいくってさー」

「絶対パチンコ打ちたいだけだろ!?」

「うけるよねー。どうせ負けるくせにさー」


 迅とはあまり話したことはないが実力者だろう?

 楼王家の人間が負けるほどの悪霊がいるというのか。

 やはり現世は地獄以上の脅威が多くいると見える。


「もうどけろよーーーー!」

「やーだー」


 蓮太が華月をどかそうとするがまるでビクともしていない。

 このままでは蓮太が修行をできないわけだが、俺はどうすべきか。

 迷ったがここは道場であり、寝る場所ではない。


「華月。蓮太のためにどけてもらいたい」

「は?」


 俺は華月の後ろに立った。

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