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シヅカの静かなる仕事 2

 シヅカによればビルの屋上から順番に悪霊達を浄化させていくそうだ。

 大元の悪霊は地下にいるようだが、それを浄化させたところで残った悪霊は救われない。

 つまり俺達はエレベーターを使わずに階段を降りて移動している。

 シヅカは悪霊を討伐するのではなく救済するのだと言った。


「シヅカさん、ほんまこれでうまくいくんですかいな?」

「大丈夫ですよー」


 オーナーが狼狽しているがシヅカは至って嬉しそうだ。

 ちなみにこの木は一般の人間には見えないらしい。

 だからすれ違った者達は何一つ知らない顔で歩いている。


「はい、どうぞ」

「ア、アァ、アリガ、トウ……」


 シヅカが悪霊に実を与えると、そいつは人の姿へと戻っていく。

 恐ろしくやせ細って鬼のような顔をした異形の者が実は女だったと知って驚くほどだ。

 俺達もそこら中にいる悪霊に実を与えていく。


「オイシイ……」

「ふむ」


 男の悪霊が安らかな顔をして逝った。

 確かにこれは討伐とはあまり言えないかもしれん。

 杏里や蓮太のほうは張り切って実を与えているようだ。


「はい! どうぞ!」

「ミタサレテイク……」


 杏里に実を渡された悪霊は大人というよりやや子どもに見えた。

 あんな者まで処刑された時代があったのか。

 なんともやりきれないものがあるな。


(まぁこやつらが本当に真人間ならば地獄に落ちることなどないだろう)

(思えば俺は無実なのになぜか地獄に落とされたのだったな。そう考えればこいつらはまだ幸せかもしれん)

(そ、その件についてはすまないと思っている……)


 冥王を睨むと素直に謝罪してきた。

 俺は別に冥王を責めたわけではないのだが。


(こやつらに無実の罪を着せた者はさぞかし生前を楽しんだことだろう。今頃は地獄の亡者としていつ終わるともわからない責め苦を受けているだろうがな)

(それならばこの悪霊達の溜飲も少しは下りるだろう)


 地獄では異形の姿と成り果てて苦しんでいる者達が相当数いた。

 冥王によれば微妙に自我が残っているらしくて延々と苦痛が続くという。

 その苦痛から逃れるために暴れまわっていたようだ。


(イサナ、そろそろ一階に到達するな。大方の悪霊とやらは片付いたのか?)

(そうかもしれんな)

(そうかもしれんな、か。相変わらずお前には何も感じられないのだな。ぷーくすくす)

(笑うな)

(すまん)


 うむ、謝罪するのはいいことだ。

 そうこうしているうちにシヅカは悠然と歩いて地下を目指す。

 シヅカによればこのホテルの地下は今はほとんど使われていないらしい。


「オーナー、地下へ案内していただいてもいいですかー?」

「へ? あそこは長らく使ってないただの倉庫でっせ?」

「おそらくそこに大元の悪霊……おそらくマモノがいますー。おそらく第六怪位程度ですかねー」

「だいろくかいい?」


 第六怪位といえば俺が討伐した黒コートよりも上か。

 そうなると俺ではまるで相手にならない可能性がある。


 シヅカは先頭に立って地下への階段を降りていく。

 地下に下りた途端に雰囲気は一変して、壁はいわゆるコンクリート作りのものだ。

 頼りない照明が点滅しており、華やかな一階までの建物と同じ場所とは思えない。


「シヅカねーちゃん、ここに悪霊の親玉がいるのか?」

「えぇ、さっきまでの冤罪の方々とは違って今風に言えばガチの罪人ですねぇー」

「ガ、ガチか……」


 そう言ってシヅカは歩き進んで、大広間らしき場所に出た。

 乱雑に物が置かれており、あまり整頓されてるとは言えないな。


「ここに来ると誰かに腕を掴まれたり噛みつかれるみたいですねー。中には物が落ちてきて事故で亡くなられた方もいるそうですー。今じゃ従業員は誰もここに近寄りたがらないそうですー」

「へ? シヅカはん、なんでそんなことを……」

「はい、これですー」

「まーたネットかいな! ホンマ……ホンマァ!」

 

 シヅカがスマホを見せるとオーナーが地団太を踏んで悔しがった。

 しかし答え合わせかのように室内の隅から何かが立ち上がる。

 それは総勢何人いるのかわからないほどで、全部が黒く塗りつぶされたような姿をしていた。

 それでいて口と歯だけがぽっかりと取り付けられたようだ。


「ギヒヒヒ」

「ギャヒヒヒヘヘヘヘ……!」

「アハハハハッ!」


 悪霊達が俺達をあざ笑っているかのようだな。

 気がつけば杏里が俺の陰陽師服の裾を掴んでいる。


「で、で、でで、出た、ァ……」

「オーナーは私の後ろにいてください」


 オーナーが腰を抜かした直後に気絶して倒れてしまう。

 俺は倒れたオーナーを守る様にして立つが、シヅカに片手で制される。

 一人で十分ということか?


「イ、イサナ君、怖いよぉ」

「杏里……」


 杏里が怖がっているということは相当な悪霊か。

 蓮太もそれに気づいたようで、さっそく応戦の構えを見せた。


「か、かかってこいやぁ!」

「蓮太と杏里ちゃんも私の後ろにいてくださいー。それに杏里ちゃんが怖がっているのはこの悪霊達じゃないと思いますねー」

「な、なんだって!?」

「そこですー」


 シヅカが指した先には黒い何かが渦巻いていた。

 多くの人が渦に飲み込まれるような様相であり、それが次第に一つになっていく。


「なんだあれは」

「イ、イサナ君、怖い……」

「イサナ! 杏里! 俺の後ろへいろ!」


 蓮太が俺の前に立って杏里がしがみついてくる。

 俺は無意識のうちに杏里を抱き寄せていた。


「通常、何かを建てる際は地鎮祭を行います。その土地にはそれぞれ曰くがあり、土地に憑く何かを浄化しなければいけません。ただしそれはただ邪魔者を排除するものではありません」

「……浄化か?」

「処刑場だったこの地に憑く罪人は憎しみと共にこの地に根付いています。確かに彼らは生前許しがたい罪を犯したかもしれません。しかしそれは救済しなくていい理由にはならないのです」

「なるほど。するとここは……」

「えぇ、地鎮祭などろくに行わなかったのでしょう。よく今日までもったものです」


 今のシヅカにいつもの間延び口調はない。

 俺が考えもしなかったことだ。

 悪霊やマモノは討伐すべき悪と考えていたがシヅカは違う。

 どんなものであろうと救いの道を見出すのがシヅカのやり方だ。


「風を吹かせて実を分け与えていたのはかつての生を思い出させるためでした。悪霊も元は人間……こうはならない道だってあったはずです」

「泣いているのか?」


 シヅカの涙の雫が零れ落ちる。

 悪霊に情が移るなど俺ではまったく考えられん。

 俺はただ陰陽師としての格好だとか務めしか考えていなかった。


「蓮太、イサナ、杏里ちゃん。あなた達に私と同じ考えをもちなさいとは言いません。ただ今は私の仕事を見てください」


 シヅカは両手で印を結んだ。

 同時に実体化した悪霊が動き始める。

 複数の腕を持ち、それぞれの手には処刑器具と思われるものを持っていた。


「イヒヒヒヒ! コロス! コロシテヤルワ! コロシテヤロウゾ! ワタシハ、オレハ、ボクハタノジイガラァァァ!」


 悪霊が武器を振り回してシヅカに突進した。

 が、何かに衝突したかのように突然もの凄い勢いで弾き飛ばされてしまう。

 シヅカの前に見えない壁でもあるかのようだ。


「五行の壱。土印・帰霊。私の陰陽術の基礎にしてすべてでもあるこれは、あらゆる霊力をあるべきところへ帰らせます。それが霊力による暴力であろうと、すべてはあなたに返るのです」


 そういうことか。

 だから俺や蓮太の陰陽術が無効化されてしまったのか。

 あれは消滅したのではなく俺の中に霊力が返ってしまったわけだ。


 いや、何を言っている?

 そんな口頭で言われて頭で納得できるほど単純ではない。

 これは俺が未熟だからというものもあるが、明らか人知を超えた陰陽術だ。


 周囲にいる黒い悪霊達も俺達へ一歩も近づけない。

 近づいては帰されて、いつまで経っても辿りつけないようだ。


「五行の参……木印・世界樹」


 室内に瞬時に巨木が青々と育った。

 天井をぶち抜くほどの大きさで俺はもはや目を奪われるしかない。

 更に巨木の枝がそれぞれ木製の家々を形作り、悪霊達がそれぞれ向かう。


「ア、アァ……」

「イエ……イエニ……カエル……」


 あの悪霊達が列をなして家の入り口に吸い込まれるようにして入っていった。

 巨大な親玉と思えるマモノからも一つ、二つと黒い影が分離していく。

 向かう先はあの家だ。


「オオォ、オオオオォォォーー……!」

「悪霊やマモノも元は人間、帰るべきところがあればそこに安住します。さぁ……もう苦しまなくていいのです」


 親玉のマモノが次第に縮んでいく。

 そして最後の黒い影が消えた際には一つの黒い人魂が残り、シヅカがそれを両手で包む。


「さぁ……もうお眠り」

「モウ……ツカレタ……」


 それがマモノの最後の呟きだった。

 世界樹が葉を散らして巨木が光の粒子となって拡散、残ったのは無機質な室内と静寂のみだ。

 俺はただその場に呆然と立ち尽くすしかなかった。


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