家族会議再び
子ども達が寝静まった深夜、今日は絶好の家族会議日和だ。
家族といっても子ども達がいないから実質大人の密談となっているがな。
今夜も私こと厳二郎と妻の風香、父の厳蔵、母のユヅ。長男の迅、長女のシヅカ、そして次女の華月が雁首を揃えている。
テーブルに置かれた湯飲みには誰も手をつけていない。
私も茶など飲んでいる場合ではないと感じているのだから当然だ。
いや、呑気にすすっているのは父の厳蔵と母のユヅだ。
「はぁぁ~~……。どれ、茶菓子は……ありゃ、きれとったか。ユヅ、とってきてくれるかい」
「自分でやりな。あたしゃ腰が痛いんだよ」
この二人は本当にマイペースだ。
父が仕方なくといった態度で腰を上げてキッチンから煎餅を持ってきてバリバリと食べ始める。
あの歳で未だ入れ歯になっていないのだから見上げたものだ。
呆れた私は構わず話を打ち出すことにした。
「華月、イサナを仕事に連れていったようだな」
「うんー。グダグダすんのは嫌だからハッキリ言うけど、あれマジやばい。あの黒コートをあっさり討伐しちゃったんだからね」
「陰陽連でも近々第五怪位に引き上げる予定だったアレを、か……やはりあの子は常軌を逸している」
通称黒コート。
生前、数多の女性にストーキングをしては殺害を繰り返していた生粋のシリアルキラーだ。
運命の出会いを求めていたらしいが、ついぞそんなものが見つかることなく自害してしまった。
それがマモノ化してからは見境なく異性を襲っていたのだから性質が悪い。
このまま長引けば匠クラスの陰陽師が動いていたかもしれん。
陰陽師の階級は頂、極、匠、上、中、下の六段階がある。
我々八頭衆は頂、陰陽連の実質的な顔役で実社会への影響力もそれなりに大きい。
例えば楽凱は裏社会を取り仕切っていて、警察とも大変仲がよかったはずだ。
「ていうかあんなのアタシに行かせないでよ。しかも依頼人が社長さんとか荷が重すぎだしー」
「全員、予定が埋まっていたのだ。それに楼王家は依頼人を差別しない。社長であろうと順番は守ってもらう」
「アタシが上クラスだからって無茶させすぎじゃない?」
華月は12歳にして上だ。
我が娘ながら天才としか言いようがないが私は決して褒めない。
獅子は我が子を谷底に突き落とす。
私も獅子の気持ちで日々子ども達を容赦なく厳しく躾けているのだ。
「フン、やはり相手が黒コートでは荷が重かったようだな。貴様のような奴が陰陽師として生計を立てるなど無理だろう。せいぜい金でも蓄えて将来に備えるんだな」
「わーーー! おこづかい! 10万円! ありがとー! パパ大好きー!」
このように私は娘であろうと教育の手は抜かない。
決して甘やかした上でのおこづかいではないのだからな。
「依頼人が社長だからさー、今回は陰陽師が殺到してたらしいじゃん? そこでイサナ……楼王家が解決したもんだから、またやっかむ奴らが出るかもねー」
「下らん。だからいつまで経っても二流なのだ」
「まぁそれはそれとして、イサナは普通じゃないよ。パパはホントにあの子を陰陽師にするつもりなの? だってイサナ、迅兄のところでもやっちゃったんでしょー?」
「む?」
その迅が何やらものほしそうな顔をしているな。
また家賃の支払いが滞るとでもいうのか?
「いいなぁ。親父、俺にもおこづかいくれよ」
「迅、貴様はまたギャンブルで金を使い果たしたな」
「いや、今日は色々あってそうでもないんだよ。イサナ、あいつは……なんていうか化け物だ」
華月と迅の話を聞いて私は何度も唸った。
あのイサナは黒コートの呪いを内側から破ったというではないか。
イタコの口寄せとも違う。悪霊の憑依とも違う。
陰陽術でそのようなことが可能なのか?
迅の話も大概だ。
はぐれ陰陽師は基本的に質が低い者ばかりだが、稀に桁外れの陰陽術の使い手がいる。
陰陽連を追放された者や実績を出せずに抜けた者、独学で陰陽術を学んだ者が大半だからだ。
そんな中であの楽凱のお膝元でわずかな間とはいえ、好き勝手にできたのだから相当なものだろう。
調べ上げれば余罪も出てくることは予想できる。
独学で学んだのであれば危険だ。放置すればより厄介な使い手になっていた可能性があった。
「ほっほっほっ……。黒コートもはぐれ陰陽師も運がなかったということじゃな!」
「父さん、楽観視している場合ではない。あのイサナ、見立て通り普通ではない。あの子を陰陽師にしてしまっていいものか?」
「ほう、なぜそう思う?」
相変わらず父は能天気な方だ。
私など遠く及ばない実力者にも関わらず八頭衆の地位を譲ってきたほどにな。
一体何を考えているのか昔からさっぱりわからない。
「5歳で第5怪位相当のマモノを討伐したなど、長い陰陽師の歴史を紐解いても例がないだろう。完全に怪物だ」
「あの伝説の陰陽師、清来は確か7歳で討伐しとったらしいがの」
「それは確か第一怪位かそれに満たないレベルの魑魅魍魎だろう。こっちは第五怪位だぞ? 最低でも匠……それも成人して経験豊富な陰陽師でなければ相手にもならん」
「だからそれがどうしたというのじゃ」
父さんが何枚目かわからない煎餅をバリバリと噛み砕いた。
茶でそれを流し込んでから私達家族を一望する。
「辛気臭いのう。どいつもこいつも大切なことを見落としおってからに……。母さん、茶菓子が切れた」
「自分でやれってさっき言ったよ」
「はぁー、やれやれ……腰が痛いのう」
父さんがキッチンへと消えていく。
どうして私の両親はこうなのだ、と呆れかけた時だ。
母のユヅが湯飲みを叩きつけるようにしてテーブルに置いた。
「まったく! どいつもこいつもなんだってんだい! イサナは家族だろうが!」
母の怒号で家族全員が萎縮した。
「前も言ったはずだ! イサナはあたしのかわいい孫だ! すっぺぇ顔してあーだこーだ喚いてんじゃねぇ! 大体イサナがどうであろうと、化け物にしないように育てるのがあたしら家族だろうが!」
母の言葉に私もガツンと後頭部を打たれた感覚を覚える。
そうだ。大切なのは心、力ではない。
おそらく父もそう言いたかったのだろう。
「風香! あんたはどうなんだい! 自分のかわいい息子が化け物扱いされてんだよ! えぇ! 言ってみい!」
「そ、そうですよね。お母さん……すみません」
風香が立ち上がってキッと表情を変えた。
こうなった時の風香は強いな。
「イサナは私達の家族です。イサナが陰陽師になるかどうかはあの子の意思次第、もしその道を選んだとしても私達家族が支えてやりましょう。もし異を唱えるなら堂々と意見を言ってください」
母さんの力強い言葉に誰も物申せない。
こうなった母さん相手には口ごたえしないほうが得策だ。
私も黙ることにした。
「あの、いいですかー?」
挙手したのは長女のシヅカだ。
いつもは静観しているのに何を言い出すつもりだ?
「なんだい、シヅカ。あんたもあーだこーだ言い出すってのかい」
「いいえ、ユヅおばあ様。要するに皆さんはイサナの将来を危惧されていらっしゃるのでしょうー? 確かにかの災禍エキドがそうであったように、人がマモノ以上の脅威となることもあるでしょうー」
「イサナがそうなるってのかい?」
「いえ、そうならないようにしましょうー」
私ですら口答えを憚る鬼の母を前にしてシヅカは常に笑顔だ。
あの子は昔から何かに動じたり怒ったことがない。
それどころか悪霊にさえ情けをかけてしまうような子だ。
だから私はあの子が陰陽師になることを反対した。
が、今の楼王家でもっとも実績を積み重ねて名を上げているのはシヅカだ。
「来週やってくるあの子と一緒にイサナを私の仕事に同行させますー」
父が煎餅を食べながら戻ってきた時、シヅカの静かなる提案が居間に響いた。
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