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はぐれ陰陽師

「さて、着いたぞ」


 俺は息を飲んだ。

 異様な建物に派手な装飾で色どられて様々な明かりが点滅している。

 入り口には長蛇の列ができており、まるで転生待ちをしている亡者達のようだ。


 ここは現世の転生の門なのか?

 並んでいる亡者のような者達は様々な風体だ。

 あくびをしながらスマホをいじっている中年の男や迅と似たような髪色の男など。


 誰もがあのスマホというものをいじっているな。

 あの板には何があるというのだ?

 遠くで通話する以外の役割があるのか?


「うひゃー! さすが新台入荷日! こりゃ少し舐めてたぜ!」

「シンダイニュウカ? それが今回の相手の名前なのか?」

「新台『マイナスから始まる俺の異世界ハーレム生活』は熱いぜぇ! 確定演出が今から楽しみだ!」

「ふむ?」


 迅が何を言ってるのかまったく理解できない。

 陰陽師として知っておかなければいけない言葉か?

 やたらと長い名前の悪霊がいたものだな。


「整理券番号122かぁ。気長に待つしかないな」

「せーりけん……」


 迅が紙切れを握りしめてウズウズしているように見えるな。

 これはいよいよ大物と見て間違いない。

 その大物を拝むために俺達は待ちに待っていよいよ店の中へと入る。


「さぁ入店だ!」

「うぉっ!?」


 店の扉が開いて大人数が入り口に吸い込まれた。

 その際に俺は迅の手を離してしまいはぐれてしまう。

 この小さい体では如何ともしがたく、流れに任せるしかなかった。


「しまった。迅、どこだ?」


 辺りを見渡しても迅がどこにも見当たらない。

 しかもこの建物内、音が凄まじいことになっている。

 何かが大量に流れる音なのか、途絶えることがない。


 これは非常にまずいことになった。ここにいるのは迅が警戒するほどの悪霊だ。

 俺ごときが単独で遭遇してしまえばひとたまりもないだろう。


 なんとかして迅と合流しなければ。

 こうなれば億面鏡にて――ん?


「よっしゃ! さっそくきた!」


 目の前に座っている男が何やら興奮している様子だ。

 男の前には玉が高速で蠢いており、真ん中には絵が表示されている。

 それが目まぐるしく移り変わってけたたましい音を立てた。


 俺は思わず男の傍らに立つ。

 男は俺に気づかずに何かに夢中なっていた。


「クククッ、ちょろいもんだぜぇ……」


 男がポケットの中で手をゴソゴソと動かしている。

 あれは何をやっているのだ?

 角度を変えてみると男の手には札が握られていた。


 あれは間違いなく札だ。

 男が持つ札には文字が書かれており、それが溶けてなくなったかと思えば蠅へと変化した。

 蠅は板の前に飛んでいって中へと消えていく。


 あれは確か式神というものだ。

 式神には様々な種類がいて、華月が持つストラップが変化するものがあれば札から変化するものもいる。

 あの男は札という極めて普遍的なものを使っているな。


「おい、それはどういう式神だ?」

「うぁぁ!? な、なんだ! が、ガキがなんでこんなところに!」

「それはどういった性質の式神だ? 教えてほしい」

「し、式神って……こいつ……」


 男が苦虫を噛み潰したような顔をしている。

 討伐の途中に申し訳ないことをしてしまったかもしれない。

 俺は反省して黙ることにした。


「すまない。邪魔をしたようなので続けてく……」


 俺が言い終える前に男のポケットから蠅が数匹飛んできた。

 それは俺の周囲を飛び回ってやがて視界が揺れていく。


「すまんな、ガキ。少しだけあっちにいっていてくれや」


 男がそう呟くと俺は頭の中がぐるぐると回されるような感覚に陥った。

 よくわからんが俺は危害を加えられている。

 男の仕事を邪魔してしまって気分を害してしまったのかもしれない。

 しかしこのまま俺自身もダメージを受けるわけにはいかないのだ。


「五行の壱、火印……熱波」


 俺を中心として熱を放つと蠅が瞬時に燃え散った。


「なんだぁ!」

「あっつ! なんだってんだ!」

「なに! 何が起こったのよ!」


 男や蠅だけではなく周囲の者達にも影響が出てしまったようだ。

 しかし範囲は俺を中心として抑えたのでせいぜい熱さを感じる程度だろう。

 あくまで蠅をどうにかできればいいのだからな。


「こ、このガキ、使い手か! 俺の式神はあらゆる感覚やコントロールを狂わせるってのに…!」

「よくわからんが気分を害したのなら謝る」

「クソッ!」


 男は俺の言葉を無視して踵を返して走り出した。

 俺は男を追いかけるべきか?

 確かに攻撃されたのは事実だが俺が邪魔をしたのも事実だ。


 それにあの程度の精神干渉ではほぼ影響などない。

 つまり男は子どもの俺相手にきちんと手加減したということになる。

 ではなぜ逃げるのか?

 わからないが討伐の途中でそうさせてしまったのは俺の責任だ。


「五行の壱・水印……流道(るどう)


 小規模の川を作り、通路が水の流れで満たされて俺はそこに身を委ねた。

 これは移動にとても便利で地獄の時はよく利用していたものだ。

 直線から曲線まで自由自在で俺の陰陽術にしてはなかなか使い勝手がいい。


「きゃああぁぁ!」

「水が! 水が流れてる!」

「子どもが流されてるぞ!」


 騒然とさせてしまって申し訳ないが俺としても男の真意が知りたい。

 それに可能であれば二人で協力して討伐できれば尚のこといい。

 俺など足手まといだがせめてもの罪滅ぼしだ。


「な、ななな、なんだぁあのガキがぼぼぼぐぼぉ!」

「む、溺れさせてしまったか」


 少し勢いが強すぎたのか、男を巻き込んでしまった。

 男が水流に飲み込まれてそのまま店の出口へと流れてしまう。

 慌てて陰陽術を解除したところで駆け寄ると、男は倒れたまま動かなかった。


「ま、まずい。助けるどころか気絶させてしまった……」

「イサナァー!」


 とうとう迅や店の者達まで駆け付けてしまった。

 辺りが人で満たされて俺は注目の的だ。


「迅、すまない。この男、陰陽師だと思うのだが討伐を邪魔してしまったのだ」

「いや、全体的に何を言ってやがるんだ。はぐれさせちまって悪かったな」


 なんと迅のほうから謝ってきた。

 このような惨状を引き起こした俺に何を謝ると?


「だけどなんでこんなとこで陰陽術なんか使ってんだ!」

「どう説明していいものか……この男の討伐を邪魔してしまった」

「この男って……」


 迅が何か言う前に黒服を来た大柄な男達が倒れている男のポケットに手を突っ込んだ。

 取り出したのは濡れてはいるが札だ。


「間違いない! こいつは以前からマークしていたはぐれ陰陽師です!」

「なんだと? わかってたならなんで今まで捕まえられなかったんだ?」

「こいつの陰陽術の正体が掴めなかったんですよ。式神の可能性も考えたんですけど、札を抑えないことには証拠になりませんからね」

「なるほどな。札はハイレベルな陰陽師なら陰陽術で一瞬で処分できる。こいつ、出来る奴だったんだな」


 よくわからんが俺は相当のことをやってしまった。

 ここは素直に謝るのが筋だろう。


「迅様、お手柄です。こちらのお坊ちゃまは弟さんですか?」

「ハ、ハハ、まぁな」

「いやぁ! さすが楼王家! まだ幼い身でありながらはぐれ陰陽師をいち早く見つけるとは! よく見れば迅様に似て聡明な顔つきをされていらっしゃる!」

「おう、やっぱりそういうのわかるか?」


 なぜだろう。迅の鼻が伸びているような気がしてならない。

 もちろん実際にはそんなことはないのだが。


「そりゃそうですよ! なんたって迅様の弟様ですからね!」

「まぁこれも日頃からこいつを指導してるおかげってもんだ!」

「さすが迅様、当店一番のお得意様でいらっしゃるだけはある。これからもどうか御贔屓によろしくお願いしますよ」

「任せておけよ!」


 どうやら丸く収まったようだな。

 俺が謝罪する必要もないということか?

 迅も俺の肩を叩いて機嫌がいいし、ひとまず事の成り行きに感謝しよう。

面白そうと思っていただけたら

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