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鋼の陰陽師

「むぅぅ……」

(いくら悩んでも無駄だぞぅ)


 俺が真剣に悩んでいるというのにこの冥王は軽い調子で声をかけてくる。

 朝、家の縁側で日光を浴びながら俺はずっと自問自答していた。

 なぜ俺には霊力が感じられないのか?


 いや、そもそも霊力を感じるとはどういうことか?

 地獄で修行していた時にその辺りを意識していたような、していないような。

 物覚えが悪い俺はひたすら陰陽術の練習のみに明け暮れていたからな。


 大切な霊力を感じ取るということが完全に抜け落ちていた。

 楼王家の者達は全員が感じ取ることができるのだから恐れ入る。

 あの蓮太も当然ながら可能のようで、このことを相談したら笑われてしまった。


(お前には素質がないのだ。ぷーくすくす)

(うるさい)

(だってお前、霊感というものは聞けば陰陽師が持つ基礎の基礎の技能というではないか)

(もう一度だけ言うぞ。うるさい)

(……すまん)


 俺が少し本気で怒ったらようやく理解してくれたようだ。

 いつもならば気にしないのだが、こうも考え事を妨害されてはさすがの俺も気分が悪い。

 ただでさえ才能がないせいで考えがまとまらないのだからな。


(で、では誰かに相談してみればよいではないか)

(む、その手があったか。しかし誰に相談すればいいものか……。実は両親と蓮太以外とはあまり話をしたことがない)

(お前なー。仮にも家族だろう? 手始めにあそこを行く迅はどうだ?)

(迅か)


 冥王が指した方向を見ると難しい顔をした迅が廊下を歩いていた。

 楼王家長男の迅。派手な金髪でバンダナが印象的な好青年だ。

 陰陽師としての実力もさぞかし高いことだろう。


「今日こそは……今日こそは勝つ……」


 何やらブツブツ言って歩いているな。

 何に勝つというのだ?

 まさか迅ほどの実力者でも敗北を喫した相手がいるというのか?

 急に気になった俺は迅の下へ駆け寄った。


「迅。何に勝つのだ?」

「うおぁ!? な、なんだよ! イサナか!」

「驚かせてしまったか?」

「すまん、ちょっと考え事をしてたんだ」


 迅が頭をボリボリとかく。

 この迅が陰陽師として相当な手練れなら霊力は並外れているはずだ。

 ところが俺ではやはり何も感じない。


「ところで何か用か?」

「先程から勝つだとかどうとか言っていたな。どういうことだ?」

「あ、あぁ、いや別になんてことはねぇよ」

「迅ほどの人間でも勝てない相手がいるのか?」

「そうだな、だがやらないわけにはいかねぇんだ……」


 迅の声が沈んだ。これはいよいよ深刻だな。

 これはなんとしてでも詳細を聞き出したいところだ。


「迅、教えてほしい。それほどの相手はどこにいる?」

「パチスロだ、パチスロ。子どもには関係ねーよ」

「パチスロ? それはなんだ? 頼む。教えてくれ」

「は!? バ、バカ! なにしてんだ!」


 自分の無理を聞いてほしい時はこうすればいい。

 つまり俺は土下座をした。

 以前、迅が家賃というものを支払えずに父の厳二郎にしていたものだ。

 これにより厳二郎は迅の無理を聞いたのを見ている。

 俺はひたすら廊下の床に額をつけて心の中で懇願した。


「いいから! わかったからやめろ! 連れていってやるよ!」

「本当か!?」

「ただし絶対に大人しくしてろよ! めちゃくちゃ怖いところだからな!」

「おぉ……」


 楼王家長男の迅をして怖いと言わしめる場所か。

 そうまで聞いては身震いをするというもの。

 さっそく俺は身支度を整えて迅に着いていくことにした。


「お子様用のヘルメットだ。かぶれ」

「この奇怪なものはなんだ?」

「デッドフリーダム号、オレのバイクだ。いいか、絶対にオレから手を離すなよ」

「おぉぉぉ!」


 デッドフリーダム号! なんと力強い響きか!

 車と違ってこれは車輪が二つしかついておらず、見るからに安定性を欠いている。

 ところがそれがこのデッドフリーダム号の強みなのだろう。


 たった二輪で車体を支えて、ついてこられぬものは容赦なく降り落とす。

 その決して媚びない黒光りするボディが俺には逆に頼もしく思えた。

 容赦がない、か。どこか楼王家の教育方針に通じるものがあるな。


「これこそが強さの頂点なのかもしれん……」

「マジでちょっと何を言ってんのかわかんねーけど、とにかく手を離すなよ」


 迅と俺がバイクにまたがって走り出した。

 その速度は俺の予想を優に超えるもので、吹きつける風が容赦ない。


「これは凄まじいッ!」

「お前ってなんかませた言葉を使うよなー……」


 車体が疾駆して時には傾き、また立て直す。

 これは確かに手を離せばとんでもないことになる。


「お、なんか来たな」


 迅がちらりと後方を見た。

 俺も後ろを確認すると何かが走ってくる。

 よく見ればそれは馬だ。


 馬にまたがるのは鎧をまとった異様な風体の人物。

 片手には槍を持っており、それを器用に回転させながらこちらに迫ってきた。


「迅、あれは悪霊というものか?」

「そうだな。あの武者野郎、オレと並走するなら覚悟しろや」


 その武者野郎が一気に距離を詰めてきた。

 他の車に乗っている者達は一切それに気づかないので、やはり霊なのだろう。


「ハハハハハッ! 我コソハ天下無双ナリ!」

「何時代のつもりか知らねーが今はバイクのほうが速いんだよッ!」


 啖呵を切った迅はバイクを傾けて武者野郎に接近した。

 同時に武者も槍で薙ぐ。


「おっせぇおせぇ! この程度じゃ天下はやれねぇなぁーー! 五行の弐ッ! 金印ッ! 金剛腕ッ!」


 迅の腕を銀色の金属か何かが覆う。

 まるで一部分だけが別の存在になったかのようだ。

 迅が片腕を振るった途端、槍が破片を跳び散らして弾け飛んだ。


「ナニ……!」


 俺は我が目を疑った。

 さすがに呆気に取られたのか、武者野郎は距離を取ってから更に駆け出す。


「転身! 転身! 撤退デハナイ!」

「それを逃げるってんだよッ! しゃあねぇなぁあーーーーー! 五行の参ッ! 金印! 金剛走ッ!」


 オレはわずかにデッドフリーダム号に変化を感じた。

 各部位がメキメキと蠢いて刺々しく暴力的な形態へと姿を変える。

 デッドフリーダム号は更に速度を上げて瞬時に武者野郎を追い抜く。


「ムアァッ!?」


 武者野郎がぐらりと傾いた。

 それは乗っていた馬ごと真横に切られたことによる影響だ。

 迅のデッドフリーダム号の車体から飛び出した刃が追い抜くと同時に切り裂いたのだろう。


「デェェッド……フリィィダァァーーーームッ!」


 迅が叫んで腕に力を込めた。

 オレがちらりと後ろを見ると武者野郎が消滅していくのが確認できる。


 楼王 迅。恐ろしい強さだ。

 シンプルながらまるで爆発のような破壊力、何よりデッドフリーダム号すら武器にしてしまった。

 この速度の中で戦えるのだから途方もない。

 しかし俺には一つだけ疑問がある。


「はぁぁーーー! 気持ちいぃーーー!」

「迅、なぜデッドフリーダムと叫んだのだ?」

「ん? 特に意味はねぇよ。オレなりの仕事完了時のルーティーンだな」

「るーてぃーん?」

「メシを食い終わった後にごちそうさまって言うだろ? 口も拭くだろ? オレにとっちゃそれと同じだ。デッドフリーダム、死んでも自由でいたいってな」


 風を受けながらそう答える迅だが俺には難しいようだ。

 それをすることによって陰陽術が向上しているようには見えない。

 しかし迅ほどの人物がそう言うのだから俺もあやかりたい。

面白そうと思っていただけたら

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