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呪いへの挑戦

「事前に聞いてはいたけど……」


 あの華月が絶句するほど、この少女の状態はひどいのか。

 確かに何らかの怪異が関与しているのはわかる。

 しかしやはり今回も何の霊力も感じない。


(ふーむ、華月が言うほどひどいようには思えん)

(ぷーくすくす! おぉー情けない! お前に陰陽師は無理ということだな!)

(黙れ。この瞬間にもオレは努力しているのだぞ)

(しかし現世には風変りな亡者もいたものだ。こうまでしなければいけない必然性はさっぱりわからぬがな)


 冥王が言う通り、オレも怪異の目的がまったくわからない。

 少女は時折苦しそうな表情を見せており、染みついた黒い染みだけがやはり目立つ。

 俺は近づいて確認しようと思ったが――


「こらっ! 迂闊に近づくなし!」

「おっ」


 華月に襟を引っ張られて引き戻されてしまった。

 俺の体が軽いせいで簡単に動かされてしまうな。


「華月、近づくなとはどういうことだ?」

「あの子は確実に呪われてんの。近づいたらうちらも巻き添えくらって呪われるかもしれないの」

「ならばどうする?」

「ここまでひどいとは思わなかったしー……うーん……」


 華月が唸るほどか。

 依頼人の夫婦が心配そうに見ているな。

 

「シヅカ姉のほうが適任だから……しょーがない」


 華月がスマホを操作してシヅカと連絡を取り始めた。

 間もなくしてシヅカが出たようで――


「シヅカ姉、なんかさー。割とやばい呪いにかかってる子がいてさ……うん。えっとね、なんかベッドが黒い血まみれで……え? 絶対に手を出すなって? マジ? じゃあいつ頃こられる? 一週間後? うーん、どうかな」


 このスマホというのは実に不思議なものだな。

 シヅカはこの場にいないというのにどこかで華月と会話をしている。

 あれに陰陽術が使われていないなど信じられん。


「一週間か。大丈夫かな……」

「い、いや……いやぁぁーーーーー!」


 華月がそう心配した途端に少女の絶叫が室内に響き渡った。

 ベッドに染みている黒い血が少女にじわりと集まってより汚す。

 そして少女の肌が黒ずんできたのだから俺も呆気に取られてしまう。


「え? いや、シヅカ姉。なんか思ったよりやばいんだけど……えぇ? どうしても? じゃあ他は? 誰も手が離せない? 迅兄はどうせパチンコでしょ。え? 珍しく仕事してんの? 5000円の支払いのため? だっさ……」


 どうも他の楼王家の者達も立て込んでいて来られないようだな。

 本当に華月ではどうにもならんのか?

 華月は顎に指を当てて唸った後、ぴーりんを呼び出す。


「ねぇ、ぴーりん。なんとかならない?」

「これは無理ねぇ! 私達はそういうの専門じゃないからねぇ! 式神でも取り込まれるかもしれないわ! 人間の怪異がここまですごいなんて、どれだけ業が深い生物なのよ! 大体人間っていうのは」

「はいはい、つまり打つ手なしか」


 華月がそう発言すると依頼人の夫婦が肩を落とした。

 頼みの綱が切れてしまったのだから無理もないだろう。


「華月。シヅカを待てばいいだろう」

「ここまでやばいといつまで持つかわかんないし……。さっきの見たでしょ。段々蝕まれて、このままだと二度と目が覚めないかもしんない」


 そう言って華月は他の式神を呼び出して近づこうとした。

 亀の式神であるかみゅんを盾にして進むが、その途端に甲羅が黒く変色していく。


「おおおぁぁ! か、華月ちゃん! 無理ぃ~~~!」

「まずいっ!」


 華月が慌ててかみゅんをストラップに戻した。

 ぴーりんを初めとした他の式神達が怖気づいて、黒く変貌していく少女を見届けている。

 これは確かに奇怪だな。一体何がどのようになっているのか。

 地獄にもこのような現象は見られなかった。


「華月、あれはどういう怪異なのだ」

「呪い。解くには特別な手段が必要で、本来アタシは専門じゃない。しかもこれ、たぶん悪霊か何かが憑依している」

「専門ではないのか?」

「この夫婦、どこに依頼しても断られてさ。それでうちに依頼してきたんだけど、ちょうど家族全員が立て込んでるの。手が空いてるのがアタシしかいなかったから来てみたけど……」


 確かに出発する時は全員がいそいそと支度をしていた。

 朝食もあまり味わっていなかったように見えたな。


「しかし呪いとな」

「呪いには大きくわけて二つあってね。一つは呪いをかけている術者が存在する業呪型ともう一つは悪霊が憑依することによって引き起こされる憑呪型があるの」


 華月によれば前者は術者をどうにかすればいいのだと言う。

 術者に呪いをかけるのをやめさせるか、物理的に呪いをかけられない状態にすればいい。

 つまり殺害がその一つの手段だ。


 しかし後者はそうもいかない。

 悪霊や呪いの強さにもよるが、根本的な原因である悪霊は憑依している人間の中にいる。

 中にいる悪霊を引きずり出さないことにはどうにもならないと華月は説明した。


「ていうかこれ、悪霊ならまだしも下手したらマモノかもしれないしー……」

「華月さん! 娘は、娘は助からないんですか!?」

「だ、だいじょーぶだし!」

「楼王家の方なら娘を救っていただけると信じているんです……。娘はあの日以来、成長が止まってしまって……今も5歳のままなんです……うっ、ううっ」


 母親のほうが膝から崩れ落ちるようにして泣いた。

 華月が再びベッドを前にするも、ストラップを指でいじったまま動かない。

 華月ほどの陰陽師すら唸らせるとはなかなかの悪霊のようだ。

 どうも怪異とはオレが思っている以上に様々なタイプのものがいるわけか。


 娘の両親が不安そうにしているのをオレはちらりと見る。

 どの親も自分の娘はかわいいもの。

 俺が生まれた時の厳二郎と風香が子どものようにはしゃいでいたのを思い出した。


 あの二人もオレが悪霊に憑依されたらこの二人のように悲しむのか?

 想像できんがきっとそうなのだろう。


「要するに中にいる奴をどうにかすればいいのだな」

「要するにそうだけど気軽にどうにかできるわけ」

「俺が中に入ろう」

「はぁ?」


 俺はそこまで変なことを言ったつもりはないが、華月が素っ頓狂な声を出した。

 これは確か外部からの損傷が極めて難しい相手に遭遇した時に編み出した陰陽術だ。

 なつかしい。これを最後に使ったのは要塞のような大きさの亀の亡者を仕留めた時以来か。


「五行の壱・土印……心天流転」


 印を結ぶと俺の体が透けて空気中に意識ごと溶け込む。

 これであの少女に憑依している怪異とやらが支配する領域に踏み込める。

 ただし大変なのはここからだろう。


 何せ敵の領域では何が起こるかわからん。

 霊力を感じ取ることができないほどの未熟な俺でどうにかなるかどうか。

 とはいえ、こんな俺でも少しは役に立ちたいものだな。

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