家族会議
「さて、集まったな」
イサナや蓮太、菜子が寝静まった深夜に私は大広間に家族を集めた。
私、厳二郎と父の厳蔵、母のユヅ。長男の迅、長女のシヅカ。次女の華月。
0時を周ろうとしているこの時間に指定したのはイサナを起こさないためだ。
何せ今日の議題はあのイサナなのだからな。
我が息子ながらあのイサナは極めて異質だ。
今日は皆の意見を聞こうと思う。
「まぁ、まずは茶でもすすりなさい。せっかくの一家団欒でしょうよ」
「母さん、今日はそういうのではないのだ」
「団欒じゃなかったらなんだってんだい。鬼みてぇな顔して家族について話し合う奴がおるかい」
「そうなのだが、母さんはあの異質さを何とも思わないのか?」
母のユヅは茶をすすってまるで話題を意に介さない。
昔からマイペースというか、妙に落ち着き払った人だ。
この性格はシヅカにも受け継がれている気がしてならない。
「そうですよ。お父様ー。イサナは私達の家族、話し合うべきはあの子の誕生日プレゼントでしょうー?」
「シヅカ、お前はあのイサナの強さについてどう思う?」
「誕生日プレゼントなんてどうでもいいというのですかー? お父様、見損ないましたー」
「いや、ベーゴマを送ろうかと……」
私がイサナへの誕生日プレゼントを明かすと誰かが噴き出した。
これは次男の迅か? 相変わらず空気を読まない奴だ。
「ぶっははははっ! オヤジ! 今時ベーゴマはないだろう! そりゃじいちゃん達の時代っての! ベ、ベーゴマって……クヒヒヒ……」
「そ、そこまで笑うことはないだろう! だったらお前は何をプレゼントするというのだ!」
「今時の子どもはやっぱりゲーム機だろ?」
「ゲーム……はぁ、最近の子は本当に外で遊ばんものか。それよりお前にそんな金があるのか?」
「パチスロで勝つから大丈夫だって」
迅は自信をもって胸を叩いた。
それならばいいが、負ければとんでもないことになる。
それは家に毎月入れる金がなくなることだ。
楼王家では子ども達が陰陽師の仕事で受け取った一か月分の報酬から生活費を引いているのだ。
その額はなんと5000円。
これはもちろん家へ入れる生活費だ。
迅のように支払えなくなる者が出るほどの金額だが、私は一切妥協する気などない。
普通の家庭では全額を自由に使わせるのだろうが、楼王家では許さん。
あまりに情けのない教育であることはもちろん自覚している。
「どーせ『貴様のような未熟者の金などいらん。頭を冷やせ』とか言って許すんでしょー」
「華月、こんな時くらいスマホをしまいなさい」
「はいはい。で、イサナがなに?」
「お前の式神が破られたそうだな。どう思った?」
華月がスマホをいじる手をピタリと止めた。
この子は世間から不良などと言われており、私も度々叱ったことがある。
学校から連絡がきたことは一度や二度ではない。
しかし最後には必ず私が言い聞かせるのだ。
相手がいじめっ子だろうが暴力を振るうなど言語道断、半端なことをするから隙を生むとな。
やるならば徹底してへこませて二度とバカなことができなくなるようにしろと叱ったものだ。
それから間もなくしていじめっ子は大人しくなったようだな。
「まぁー、激やばだよね。たぶん普通に戦っても負けてたと思う」
「お前にそこまで言わせるか……」
「というかマジでシヅカおねーちゃんでも勝てないと思うよ。パパでようやく勝負になるってところかな」
「父さん……いや、お前のおじいちゃんはどうだ?」
「知らない。おじいちゃんが戦ってるところ見たことないもん」
そういえばそうか。父さんは現役を引退してからはめっきり怪異討伐をしていない。
最近では地鎮祭などの頼まれごとを細々としているようだが。
「ほっほっほっ! まぁあれは単純な実力がどうのこうのといった話ではない! のう、厳二郎?」
「なぜ私に振るのだ」
「こんな会合に意味などないというところじゃ。それにばあさんの言う通り、かわいい孫に何を警戒しておる」
「しかしイサナは実のところよくわからない……喋り方も子どもらしくない上に、5歳とは思えないほど知識が豊富だ」
確かにイサナは私達の家族だ。
あのイサナが私達に牙をむくなど考えられない。
しかし万が一を考えてしまうほど、あのイサナが怖いというのも事実だ。
「何が言いたいかというとな。ワシらごときがぴーちくぱーちく囀ったところで意味などない。あの子はそういう存在なのじゃろう」
「そんなに色々気になるならさー、今度あの子を仕事に連れていってもいい?」
華月が再びスマホをいじりながら発言した。
華月のその実績は陰陽連も高く評価している。
しかしだからといって5歳の子どもを連れていっていいものだろうか?
「蓮太や菜子にはプレゼントを渡したけどあの子には何も渡せてないんだよね。途中にちょーおいしいイタリアンの店があるし、そこで食事でもしながら話そうかなー」
「5歳の子どもを仕事に連れていくなど陰陽連が許すかどうか……」
「仕事させなきゃ問題ないでしょ。頭の固いジジイ連盟だって気にしないよ」
「ジ、ジジイ連盟……」
八頭衆の一人である私も入っているのだろうか?
これはもしかして反抗期か?
まずい。気になって今夜眠れるかどうかわからなくなってきた。
「ホッホッ! そりゃいい! 華月! ぜひ連れていきなさい!」
「だよねー。おじいちゃん、話わっかるー」
華月、お前は反抗期に突入してしまったのか?
どうなんだ?
「くぅーん……」
大広間に入ってきたのはケルだ。
匂いを嗅ぎながら犬らしい動作でこちらにやってくる。
確か菜子と一緒に寝ていたはずだが。
「ケルー、こっちおいでー」
「わんっ!」
「か、華月! それは……」
得体のしれない存在なんだぞ、と言うところだった。
危ない危ない。ただでさえ反抗期疑惑があるのに迂闊なことは言えん。
いや、言うべきか?
「もっふもっふでかーわいいー」
「くぅんくぅん」
華月があの犬をかわいがっているが本当に大丈夫なのだろうか?
家族でケルの異質さに気づいているのは私と父さんだけだ。
しかしここでそれを告げれば反抗期の本領を発揮しかねない。
うむ、やめておこう。
あくまで自分で気づかせる、これも教育の一つだ。
面白そうと思っていただけたら
広告下にある★★★★★による応援とブックマーク登録をお願いします!