華月、わからせられる
依頼主のハゲが依頼料を半額まで値切ってきたから頭きて今日の仕事は終了。
相手が子どもだと思って足元を見る奴ってホント多いんだよね。
いくら子どものうちから陰陽師になれてもこれじゃ商売あがったりじゃん。
で、だるいから今日は無駄に広い道場で静かに寝ようと思ったら蓮太とイサナがいた。
蓮太をからかっていたらイサナが私に勝負を挑んできてちょーびびる。
アタシ、この子は苦手なんだよね。
なに考えてるのかさっぱりわかんないし、たまに何もないところを見つめているんだもん。
楼王家なんてアタシ含めて変人しかいないけど、あの子は異質だよ。
「イサナ、アタシにケンカ売っちゃうの? やめときなー、アンタにはまだ早いよ」
「このままでは蓮太が修行できない。それにここは修行をする場所であって寝る場所ではないだろう」
「へー、アンタって蓮太のこと慕ってるんだ。ちょっと意外ー」
「それでどけるのか? どけないのか?」
その時、イサナの目の奥に吸い込まれる感覚に陥る。
無限に続く暗闇に迷い込むかのような、底知れない闇。
「う……」
「どうなのだ?」
一瞬だけ怯んじゃったし。5歳とは思えない眼光なんだもん。
マジでなんなの、この子。マジやばいんだけど。
「やりたければやれば? アタシ無敵だしー」
「そうか」
イサナが印を結ぶ。あれ、意外と様になってる?
そういえばこの子、業入り儀式の時に天井をぶっ壊したんだっけ。
あれはただの偶然とかそんなのだと思い込んでいたけど、もしかしてやばい?
「五行の壱・土印……天地万来」
なんの術だか――そう余裕ぶっこいてたアタシだけど。
え? なんか私の体、浮いてない?
と思ったらものすごい勢いでどこかに引き寄せられる!?
「か、華月ねーちゃんどうなってんだ!?」
「近づくと式神が自動で彼女を守るならば、彼女から向かってもらえばいい。あの土の球からは重力が発生しているのだ」
アタシを引き寄せたのは土で出来た球だ。
それが空中に浮かんでいて、大きさは大玉転がしサイズ。
これはもしかして小さな惑星って感じ!?
だってこれ明らかに引力だし!
「じゅーりょく!? でもそれならオレらはなんでなんともないんだ!?」
「こちらにも同じものを作って中和しているからだ。それ以上動くとあちら側に引き寄せられる」
アタシの体が道場の天井近くにある球にひっついちゃった!
この球は重力を持った小さな星で確定だし。
あいつ、土印だけで重力を持った星を作ったってこと?
「式神! ぴーりん! この球を壊しちゃえ!」
ぴーりんは鳥の式神だ。
空中戦で負けなしのぴーりんなら、こんな球――
「ぶぎゃっ! 華月ちゃん! これじゃ動けませんって! えぇ動けませんよ! こんな無茶なことをさせる華月ちゃんは虐待に目覚めたってこと! 大体華月ちゃんは」
「あーーーもうわかったって! ごめんって!」
これって何を出してもこの球にひっついて終わりじゃん?
ていうか体が超痛いしこのままだとマジやばい。
悔しい、悔しい悔しい悔しい!
「降参だし! 早く下ろせーーーー!」
アタシはそう叫ぶことしかできなかった。
5歳の弟に負けるアタシ、マジもう無理。
* * *
やたらと口が回る式神のようだ。
そのぴーりんも球に張り付いて身動きが取れず、華月もようやく決心がついたようだ。
オレは土の球を降ろしてから術を解除した。
「あぶぅっ!」
「きゃん! あー痛い! 華月ちゃん、なんでこんな化け物と戦ってんのさ! 私、いつも言ってるよね! イキるのもいいけどちゃんと相手を見てケンカをしようってさ! 大体いつも」
「わかったってぇーーーーー!」
華月が尻をさすりながらぴーりんの口撃を受けている。
式神というのはどうも個性的なものが多いようだ。
オレも一匹や二匹くらい欲しいと思ったが、その才能はなかったらしい。
オレにできるのは五行の壱のみだ。
「華月ねーちゃん、約束だぞ!」
「ちょっとぉ! 蓮太! あの子、どうなってんのさ! マジ意味わかんないんだけど!」
「イサナはオレより強いんだよ! 華月ねーちゃんもあまり調子に乗るなよ?」
「強いとかの次元じゃないし! このアタシが手も足も出ないとかありえないしー!」
華月はだいぶご立腹のようだ。
確かに油断しているところを奇襲したようでそこは申し訳ない。
しかし華月ほどの実力者をどかすにはああするしかなかった。
オレは華月に頭を下げた。
華月はため息をついて立ち上がり、オレの頭から足先まで凝視する。
「マジで天才とかの次元じゃないんだけど……もしかしたらシヅカおねーちゃんより強いんじゃないの?」
「い、いや、それはねーだろ……」
「パパとママはどこまで把握してんだろ。知ってて放置してる感じ?」
「さぁ、そんなの知らねーよ」
何やらオレのことを過大評価しているようだが、まだまだ修行中の身だ。
やはり家族に対する評価となると甘くなってしまう節があるようだな。
「それより華月ちゃん! 蓮太に渡すものがあったんじゃないの!」
「あーそうだ! マジ忘れてたし! はい、蓮太!」
ぴーりんに促された華月がカバンの中から何かを取り出して蓮太に渡した。
それは一枚のカードだ。
派手な絵と数値が書かれているなんとも奇妙なものだな。
「こ、こ、これマジッグオブデュエルズの超レアカード! 灼眼の黒銀竜ガイザード! こ、これどこで手に入れたんだよ!」
「ネットオークションで競り落としてやったよ」
「お、俺が欲しがってるってよく知ってたな……」
「そんなの家族なんだから当たり前だし」
「華月ねーちゃん……あ、ありがと……」
蓮太はよっぽど欲しかったものなのか、涙ぐんで感謝した。
よくわからないが華月はきちんと家族を見ているようだ。
一見して粗野に見えるが芯がある人物なのだろう。
「華月ちゃんったら、こんな高額なものを無理して買っちゃって」
「ぴーりん、余計なこと言うなら引っ込めるし」
「ぴぎゃんっ!」
華月が片手で印を結ぶとぴーりんが元のストラップに戻った。
片手で造作もないというわけか。やはり相当な実力者だ。
「はい、菜子にはぬいるぐみね。この前、テレビに映ってた時にめっちゃ見てたでしょ」
「くまくまーーー!」
菜子がクマのぬいぐるみを手渡されて嬉しそうに抱く。
あれを貰って嬉しいものなのか。
「えー……イサナなんだけど……ごめん、アンタのことよくわかんなくてさ。プレゼントとかはないんだけど、今度埋め合わせするってことで許してくれない?」
「許すも何も求めていないからな。しかし好意はありがたく受け取ろう」
「あんた、達観した喋り方するよねぇ……ホントに5歳児?」
「そのつもりだ」
生まれてからは5年経つが、地獄ではそれなりの年月が経っていたはずだ。
正確には5歳ではないのかもしれないが、どうでもいいことか。
それよりも埋め合わせとやらが非常に気になる。
あのカードは必要ないが、何かをくれるというならありがたいものだ。
面白そうと思っていただけたら
広告下にある★★★★★による応援とブックマーク登録をお願いします!