肉体に刻まれた力
彼らと別れた後、また街を回る。
前は自由に入れなかったから色んなところに入っていこうと思う。
まずは図書館だ。
大きさはこの辺りで一番大きい。
入った後、受付に冒険者カードを見せると奥に通される。
本の山だ。
俺以外にも人はいた。
学者のような格好だ。
ここではこの国の歴史を確認した。
黒守と確認しつつ読んだ。
2時間程経つと外に出て他の場所に行く。
入ったのは魔道具店だ。
店員の人に質問しながら見た。
魔道具には基本的に戦闘に使える程強い魔法は保存されていないらしい。
日常生活に役立つものばかりだ。
魔道具の魔法における魔力の変化を再現する道具は、作るには魔道具が発動する魔法の100倍以上の魔力が必要だとか。
ただ、王宮にはもっと強い魔法が使える魔道具があるらしい。興味深い。
他にも魔法を増幅させる杖や魔導書もあった。俺はランプを灯す魔道具を買った。
ランプを持って歩き、ご飯屋に入る。
昨日と同じところだ。
今日は昨日と違い、魚を食べた。
次は冒険者ギルドだ。
冒険者は荒っぽいが、気さくな人という知識がある。
だが、武器も何も持っていないからか、先輩冒険者から軽くいびられた。
殴られそうになったが、避けなかったら途中で止まった。
びびらねえとはいい度胸だと言われた。
適当に返事を返しつつ受付に向かう。
受付の人は優しく、いろいろ説明してくれた。
冒険者には階級が存在し、SからABCDFまである。
初めはFのはずなのに俺はDだった。
首を傾げるとあの情報提供が影響していると教えてくれた。
階級が上がるにはギルドの依頼を達成し昇格試験を受けるのが基本で、実力を見せるかつ信頼度を持っていると階級は上がるらしい。
DとFは信頼度の差だから上がったということだ。
パーティの場合は一番階級の高い人に合わせるようだ。基本は同じ階級の人と組むらしい。
依頼には街の掃除などから魔物の討伐まである。
そんなことを聞いた後はそのまま出た。
びびって逃げたとか思われたかも知れないな。
それから装備屋に入る。
装備はどれも深く作り込まれているのを感じた。
かっこいいと思った。
じっと見ていると店主が奥から出てきて色々教えてくれた。
戦士の中には鎧はかさばるから着ていかず、その場で魔力で作り上げる者もいるらしい。
ただ、作るのには時間がかかるから慣れない内は買うのが良いらしい。
その後、武器屋に行く。
前の俺の装備は剣だったから今度は他のを使いたいと思った。
槍や棍棒、弓、パチンコなどがあった。
殴り飛ばすのに適した石のようなものもあった。
店主から何の武器がいいか聞かれたので剣以外と言ったら、棍棒が使いやすく直しやすくて良いと言われた。
悩んでいると、模擬戦用の訓練場の場所を教えられた。
その場では何も買わずに店を出た。
最後に服屋に入る。
三着分、一番安いものを買い、外に出る。
夕日が広がる。
寝床が必要なことを思い出した。
近くの宿に行き、お金を出し住居と朝晩のご飯を確保する。ついでに服の洗濯まで付いてきた。とはいえ残りは後3日分しかない。
想定外だった。
明日は仕事を探す必要がある。
冒険者ギルドに行くか。
寝床は前よりは質素だったが、十分よく寝れそうだった。
冒険者として動くなら、装備、武器を決める必要があるだろう。
装備はおすすめされた通り軽めのものに決める。
武器は決まらなかった。
熟練の戦士の話から、作ってみようと思い魔力を使ったが、すぐ切れた。
黒守のアドバイスによると、武器のイメージに魔力で作り出した鉄をはめ込むようだ。
また、俺には鉄を纏う力があるらしい。
なら、一先ず剣の反対として素手と石ころにしようと思う。
そう思い横になる。
(夢貫、明日から戦うつもりだな)
うん、そうだよ。
(…まだ宿は3日分ある。
2日は訓練に当てるほうがいい。
まずは自分の実力の確認じゃないか?)
確かにそうだな。
なら騎士団か闇隠の下に行くか。
行く前に一度構えの練習をしようと思い立ち上がる。
鏡を見る。
白髪に交じる一筋の黒髪が目立つ。
知識を元に構えを作る。
隙がないよう脇を締め、左足と左手を出し、右手で拳を作る。腰を下げて完成だ。
音が立たないようゆっくりと踏み込んで空を殴る練習をする。
朝になる。
宿で朝食を摂ったあと闇隠の家に向かう。
戸を叩くと、待っていたのかと思うほどすぐに開く。
「何だ?」
「冒険者として活動しようと思っているのですが、その前に訓練をつけて欲しくてきました」
「冒険者としての活動はいつからだ?」
「2日後からです」
「いいだろう。騎士団の訓練場に行く」
と言い歩き出すのに俺も続く。
「年はいくつだ?」
年齢?考えたことなかったな。黒守。
(18)
「18歳です」
「そうか。俺は21歳だ。何の武器を使う」
「勇者だった時は剣だったのですが、同じ道を歩みたくないので素手と石ころで戦おうと思います」
「……そうか」
その後これからやることを軽く伝えられた後訓練場に着く。
他にも人が集まり始めている。
すると闇隠は一番年配そうな男に話しかける。
その後戻って来る。
一番年配そうな男が軽く俺の説明した後俺が訓練に参加することを話す。
まずは準備運動としてストレッチやランニング、体幹トレーニングなどをやった。
魔力を使わない訓練のため、ついて行くことができた。
次は模擬戦だ。
訓練場の端に行く。
闇隠は細めの剣を手に取り、俺は武器を持たずに昨日練習した構えをする。
闇隠の目がピクリと動いた気がしたが特に何も言わず、武器を構える。
「実践を想定して魔力等も使う。始めるぞ」
「はい」
闇隠が一歩踏み込み剣を振り下ろすのに合わせて右側に反復横跳びの要領で回避する、が急激に加速し振り下ろされていた剣は引き戻されて、横向きになる。
瞬間、背中に伝わる衝撃と共に肉体が吹き飛ばされているのを知る。
隣には模擬戦用の武器が樽の様なものに仕舞ってある。
ふと左腕に痛みを感じる。剣がここに直撃したのか。
どうにか立ち上がり、再び構えようとすると闇隠が息を吸い込む。
「夢貫、、剣を持てよ」
剣は勇者の…
「勇者と同じ道を歩みたくない?
甘すぎるぞ。
戦闘において本気を出さずに勝てるわけがないだろ。
魔力を持たず、魔法の使えないお前が!
舐めたことを言ってんじゃねえぞ」
闇隠が左手で魔法を発動すると雷が俺の左を通る。
「剣を…持てよ、夢貫!」
同じ道は、もう歩まないと決めた。それは変えない。
だが、剣は持つ。
勇者と違う道はそれでも歩める方法を思いついたからだ。
右手で剣を掴む。
これがあって俺なのだと思うほどに体に馴染む。
自然と構えはなされていた。
何にでも対応できる気がする。
間合いまで歩く。
相手の左足による踏み込みと同時に俺も体を左回しつつ左足で踏み込む。
力が足りないから俺は剣を相手より、だが引きすぎない程度に横に引く。
体を右回転させつつ、剣を振るい始める。
相手の剣が迫る。
振り始めた剣は速さを増し、相手の剣にドンピシャでぶつかる様に進む。
だが、相手の魔法により更に相手の剣が加速し、合わせられない。
切られる。
ま、ず、い。
瞬間、相手の剣は俺の右側面を掠めた。
剣は相手の剣に合っていた。
いや、無意識に魔力が、僅かな魔力が、身体能力向上に使われ、剣を間に合わせたのだ。
相手の剣は俺の後ろにある。
俺の剣は左に弾かれつつもまだ剣先は相手に向いている。
視線は相手に向けてある。
ここだ。
体を下に落とすのに合わせて胸の前にある剣を進める。
ここも間に合う。
左には逸れない。
だが、相手の足が上がる。
蹴られる。
離しても剣が届くギリギリで剣を離し、回避行動、後ろにジャンプを始める。
だが間に合わない。
再び視界が変わる。
今回は偶然だろうが、同じ場所に飛ばされた。
相手は向かってくる剣を避けている。
隙まみれだ。
ここから立ち上がって走っても隙は消えてる。
何か投げるもの、と手を伸ばし何かを掴む。槍だ。
槍を座ったまま回転の力を使い、顔面に向かって投げる。
投げた槍は想定とは違うが、吸い込まれる様に相手の胸に向かう。
合わせて、痛みを我慢して左手も使って立ち上がり始める。
木製でなければ貫通していると思うほど綺麗に槍はぶつかる。
痛みに怯んでいる。
立ち上がりかけの状態で右足、左足と前に出したところで再び素手での構えをする。
次の右足を前に出すのと同時に拳を振るう。
だが遅すぎた。
怯みはほんの少しだったのだ。
俺は、意識を失った。
治療所にて目を覚ました。
窓からは夕日が差し込み、外には騎士団の面々がいる。
左から闇隠の穏やかな声がする。
「戦闘時は煽って悪かったな」
「大丈夫です。
それで方針がより良くなったので」
「なら良かった。
今日の戦闘は今お前に出来る最大限だった。
構えも良かった。
ここから更に強くなるなら魔法があればいけるだろう。
剣を持ってから一手目、身体能力強化の魔法を使ったな」
にやりと笑ってそう言う。
「無意識でしたが多分使いました」
「やるな」
嬉しそうな表情だ。
ふと、傷が塞がっているのに気づく。
「治してくれた人に感謝を告げたいのですが」
「ここは自動的に傷が塞がり、回復しやすくなる場所だ。そういう結界が張られている」
そうだったのか。だから騎士団の人々もこの近くにいるのか。
「では結界を張ってくれた人に向けて…ありがとうございます」
それから少しして体も治ってきたので帰ることを告げて外に出る。
宿に向かって歩く。
「硬鉄!」
この声は…あの剣を向けていた女か。
はい、と返事をして振り向くとそこには剣を向けていた女、止めてくれた男、優しそうな女がいる。
「ええと…前に剣を向けてごめんない」
「一度謝ってくれたし大丈夫ですよ」
「そ、そう」
すると優しそうな女が口を開く。
「私の名前は治宮紗枝です。
騎士団では回復を担当しています。
よろしくお願いします」
「俺の名前は火川涼。剣を使っている。
前衛後衛両方得意だ。よろしくな」
「…私の名前は雷星由輝。
近距離が得意よ。…よろしくね」
「こちらこそよろしくお願いします」
騎士団に入ると思われているのか?
まあそう思われてもいいか。
その後、他に用は無さそうなので帰った。
それから寝る前に黒守と剣で戦った。
勝てなかったが、一撃喰らわすことができた。
昨日よりは精神体が今の肉体の速さと同じくらいに近づいた気がする。
戦闘後、朝の訓練で思いついたことを伝える。
「武器は剣も使うようにします。
勇者と同じにならないようには剣を使わないこともありますが、剣に固執しないことを意識することでもあると思います。
なので、今日の戦闘中上手くいったのもあって槍も使う様にします」
「いいと思うぞ」
「ありがとうございます。
精神体と肉体は別とは分かっていますが、これぐらいの実力ならどんな魔物と戦えると思いますか?」
「一対一なら問題ないだろうが、複数なら、魔物最弱のゴブリンでも難しいだろう」
ならパーティを組むのが良さそうだな。
「分かりました。
後、俺が勇者の時は何の魔法を得意としていたんですか?
硬鉄は前聞きましたが」
剣と同じように、その感覚が残っているはずだ。
それも使っていきたい。
「5代魔法である火、土、風、雷、水のどれも得意だったが、特に火が得意だった」
火、確かにそれが一番惹かれるな。
今度使ってみるか。
「もう魔法の能力は硬鉄以外残ってないのだが、な」
「能力って何ですか?
俺今日身体能力強化魔法使えましたよ」
「ふむ。
今分かっているので言えば魂の内側にあるもので、才能のことだ。
想いにより作られ、想いにより発動出来るようになると言われている。
ただ才能が無くても使える魔法はある。
定義は難しいがいわゆる格の低い魔法は能力がなくても使えると考えられる」
「なるほど。一先ずは分かりました」
「ああ」
そうして1日が終わった。