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交流

 舌先に何かが乗っている。もぐもぐ。上手い。


 うん?と目を開けると木製の天井が目に入る。

 これは……と顔を前に向けると、顔があった。

 女の顔だ。兜のようなものを着けている。

 すると、自分の顎に浮遊感が現れ、顔を手で持ち上げられていたのを知る。


「あの……」


 声を掛けようとすると同時に飛び上がって俺から離れる。

 周りの風景が明らかになる。

 俺は囲まれていた。鎧を纏った人間達だ。騎士だろう。

 俺が再び声を上げるのを待っている。様子を伺っている。

 霧が突然現れたことに警戒しているのだろう。


「助けてくれてありがとう。俺の名前は夢貫。あの霧は俺の所為だ」


 正直に言うことに躊躇いはなかった。

 それで殺されても仕方ないと思っていた。


 彼らは動揺し、一番年寄りの男が冷静そうに俺に質問する。


「霧の中はどうなっている?国があったはずだが」


「勇王国は…この霧の中には…何もない、誰もいない。全部消滅した。

 俺が……やった」


「「「!!!」」」


 彼らに衝撃が走る。

 互いにそれが真実かどうか、俺を殺すべきかなどを話す。

 1人の女が体を震わせて、俺に斬りかかる。我慢ならんって感じだ。

 恐らく勇王国に知り合いでもいたのだろう。

 まあ、仕方ない。これで死ぬのは当然と言える。なら…納得できる。

 黒守、すまなかったな。色々教えてもらったのに。


(…いい)


 ガキん、と音がする。

 俺に向けられた剣は、別の男が、剣をクロスさせる形で止める。


「なんで!こいつは私の家族を!!」


「殺したと決まったわけではない。

 こいつが嘘をついている可能性もある。

 それに……こいつにそんなことが出来るようには思えない」


「嘘だとして、そんな嘘をつく奴が生きてていいわけあるの?!」


 女は見た目よりも冷静だ。

 的確な返答。


「っ!だが…」


 剣を止める力は見るからに弱まる。

 このまま死んでもいいが、それでは彼らの間に後腐れが残りそうだな。


「消滅させたのは俺だが、勇王国民を殺したのは俺ではない。

 魔人に殺されたんだ」


「魔人…勇者が負けたのね」


 女は剣を下げる。仕方ないって感じだ。

 だが、俺は…過去の自分を馬鹿にされるのは気に食わなかった。


「勇者は…」


 否定しようとするが、過去の自分は魔王をその手で殺したわけでもなく、皆を守れたわけでもない。 むしろ完全敗北まである。


「確かに負けた。

 だが…勇者だけの責任ではない。

 暗殺を誰かが、想定できなかったのが原因だ」


 一番年寄りそうな男が少し納得した様子で話す


「暗殺か。なら仕方なかろう。

 勇王国民は基本、正面から戦う思考の持ち主ばかりだからな」


「仕方なくないでしょ!

 勇者のせいよ!

 勇者だったらそれぐらい守れるでしょ!!」


 そうだっただろうか。

 俺が勇者だったとして、皆から支持されて、勇者のお話が正面戦闘で、これまでに別の方法を取られたこともないのに、そんなことを想定など出来るだろうか。

 いや、俺が勇者だったのだからそれは当然ではあるか。

 だが…誰であっても不可能に思える。


「勇者が誰であったとしても不可能だろう。

 だから…」


 仕方ない…と言おうとしたところで女の目に涙が浮かんでいるのに気づいた。


「………俺が勇者だった。

 すまない、皆を守れなくて」


 返事はない。泣いている。

 怒りが薄れたことで逆に、悲しみに支配されてるのだろう。

 囲んでいる彼らの表情も少し優しくなる。


「……何があったんですか」


 俺に食べ物をくれたであろう女が優しそうな声で質問する。


「魔王討伐に行ってそれで、

 魔王との戦闘中、仲間が…魔人に暗殺され、

 復讐しようと思ったんだが、魔王は…自殺した」


 女は反応を見せない。

 彼女の家族は勇者パーティにはいなかったようだ。先のことを気にしている。

 他は、同情する者や、彼女と同様続きを待つ者がいる。


「それから…国に戻ると……皆死んでいた。

 全員心臓をつかれ死んでいた。

 ただ俺の故郷は、その国ではなかった。だからその故郷…村に戻ったんだが、

 ああ、その途中魔人を見たんだった。

 でも村に戻る方が先だと思い、追い越して村に行った。

 村の皆は…死んでいた。

 帰る途中に見つけた魔人を殺そうと思った。

 俺は復讐しに行った。

 でも奴らも死んでいた。自殺だ。

 それで俺は…絶望した。

 そして世界を消滅させる魔法を発動した。

 だが、途中まで…この霧の端まで来た時、黒守が止めた。

 過去に巻き戻し俺の能力を封印した。

 そして世界の強制力により、その消滅は黒い霧に変換すると言う形で為された。

 その影響で俺は記憶を失ったが、心の中に、黒守が俺の能力の封印に滞在してくれてたんで、俺はこのことを知れた。以上だ」


 女は涙を流すが、全体的に反応が薄い。何故だ。


「その黒守ってのがいる証拠は?」


 後ろから声がする。

 振り返る。

 どうにも俺を警戒している。いや、疑っている? なるほど、今のが嘘だと思っているのか。

 確かに黒守の時のような説得力が出せた気はしない。

 一先ず黒守の存在証明か。

 合図したら攻撃、頼むな。


(ああ、構わん)


「少しどいてくれるか?」


 そう言うも、彼は渋る。


「なら私が」


 あの優しそうな女が言う。

 その言葉に従うのもいいが、警戒心の薄さを利用するのは少し気が引けた。

 まあいい。他の方法がある。

 上だ。俺は上を向く。


「黒守!」


(任せろ)


 そう言うと黒守は空に向かってその髪を放り、切り裂く。

 以前見たより確実に距離が長い。


 これでどうだ、と見るが全然納得してない。 ……そういう能力と思われてるのか。

 なら、どうするか。

 これ以上は黒守についての知識が必要だ。 黒守、何か黒守しか知らないことってないか?


(ふむ、)


 と話そうとしたところで、後ろから一番年寄りそうな男が口を開く。

 同時に聞くことになるがそこまで大変ではない。 認識の元となるのが耳と心で分かれてるからだろう。


「黒守。聞いたことがない。

 何をやっていて、どんな存在か聞けるか?」

(我は時々、人間を助けた。

 それが伝わってる可能性はある。

 かなり昔だが、人優王国と回球王国との大戦の時は、最強の錬金術師、創力の相棒として戦った。

 確か…竜とも戦ったな。

 当時の姿としては真っ黒なカラスだった。

 それで魂のもう一つの入れ物として黒髪で作ってくれたってわけだ)


「ああ…丁度聞きました。………………」


 そして黒守の言葉を繰り返す。

 皆少なくない反応し、一番年寄りそうな男が答える。


「本当のようだな。

 真っ黒なカラスは時折我々を事故などから守ってくれていた。

 大戦のことも歴史として伝わっている。

 もうどちらの国も残ってはいないがな。

 だが、そういう名前だったのか。

 良ければ礼を伝えて欲しい」


 少し感傷的な様子を見せる。


「いいよ。黒守。事故などから助けてくれてありがとう、だって」


(ああ、感謝は受け取った)


「感謝は受け取った、だって」


「そうか…」


 しみじみとした空気だ。

 どうやら俺は死ぬことは無くなったらしい。

 別に無理でも良かったんだが、乗り切ったか、とどこか安心して再び体から力が抜ける。


「あ…」


 倒れる直前で初めに剣を向けていた女が支える。涙の跡が残っているが、どこか申し訳なさそうな顔。

 他の奴らも助けようとしているが、彼女が一番速い。

 なんだ、いい奴じゃないか。


「しっかりしなさいよ。勇者でしょ。ふんっ」


 なんだこいつ。自分で動こうと思うが力が入らない。

 霧を抜けるまでの疲労が残ったままだ。

 仕方ない。寝るか。


「疲れたので寝ます」


 あ、こら、とか、まだ聞くことがあったのだが、とか色々聞こえるがそのまま意識を放り投げる。


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