外へ
黒い霧は、俺を完全に覆い尽くしているわけではなく、黒い小さな粒が散らばっているのが見える。
所々粒の量が異なるのが分かる。
おかげで、転ぶ心配は減る。
(ちなみに補足だが、
魔王は暗殺を用いて、勇者以外を殺したようだ)
暗殺?それは凄いな。
(ああ。
それまでは魔王軍は全て正面から戦ってきた。
故に勇王国民は油断していた。
暗殺など少しも考えていなかった。
まあ、予言もこれまでと同じであったため仕方なくはあった)
魔王の思いつきでやったってことか。
そういやどうして奴らは自殺したんだ?
(恐らくお前を絶望に落とすためだろう。
全て予想したってことだろう)
そういうのってどうやって知ったんだ?
そう言う能力か?
(そうだ。我の過去視を用いて確認した)
凄いな。他にはどんな能力があるんだ。
(我は時を操る力、過去視、能力を生み出す能力、記憶を保存する能力を持っている。
我に力をくれた創力は、生成能力、特に能力を生み出す能力を持っていた。
それにより、記憶の保管庫であり、魂と繋がる存在であるこの髪を与えてくれた)
創力はどんな奴なんだ?
(物作りが大好きな、ただのバカだ)
面白そうだな。
外に行ったら会ってみたいな。
(奴は…もう死んでいる)
それは…すまない。
(謝る必要はない。
創力は龍との戦いで死んだ。
そして自身の持つ生成の能力で、当時の相棒である我に、この髪と能力を渡した)
そんなことを話し、黒い霧の中を進むが、なかなか外には出れない。
4時間程歩くと、1度止まって休息をとる。
「腹が減った。
何か食べれるものは無いだろうか?
土って食えないっけ?」
(いや食べられない。我慢するしかない)
ならどうしようもないな。
さらに進むと霧に加えて暗闇が広がる。
月の無い真っ暗闇だ。
夜だ。
今日はここまでだな、と思い、横になる。
夢を見た。
俺は何かに乗って飛んでいた。
敵の攻撃から逃げるためだ。
敵は強大で、避けることは不可能だ。
だが、俺たちなら倒せる。
俺と黒守なら打ち破れる!
そう、乗っていたのは、俺を止めてくれた黒守だ!
目が開かれ、それが夢だったことに気づく。
悪くない夢だ。
敵はなんだったんだろうな。
避けられない、強大、まるで世界の強制力みたいだ。
まあ、記憶が無いから選択肢は少ないが。
そんなことを考えていると空腹感が露わになるが、気にしないようにするとすぐに消える。
そして……また1日が過ぎた。
「腹が減った。もう…限界だ。助けてくれ」
(魔力を体力に変換するんだ、それか想いを。
お前の力はほとんど制限されているが、
少しはマシになるはずだ)
魔力、魔力…変換……集中…………
ふぅ、少しは楽になったな。
頑張るか。
さらに1日が過ぎた。
暗くて見えないし、疲れたから、1度休憩が必要だ。横になる。
疲労は限界が近ずいてきたがまだ何とか耐えられる。
だが距離によっては…俺は……このまま死ぬかもな。
まあ、それも仕方ないことかもな。
俺は世界を消滅させるまでに行ったのだから。
まあ、覚えてないから、自覚はないのだが。
朦朧とした意識の中でそんな思考が回る。
ふと、視界が明るくなっているのに気づく。
相変わらず霧はあるが、少なくなってきた。
風で動かされたのだろうな。
だとしたら抜けるのはすぐかもな。
上手く回らない頭の中で諦めずに進む理由を探す。
黒守、外には上手い食いもんはあるか。
(ああ。
魔獣の肉は肉肉しさが最高だ。
一口で全身に旨みが染み渡る)
それを聞いてさらにやる気を出し、歩みを進める。
そして…霧が明確に薄くなったと思うと、
地面に草が現れ始める。
着いたと勘違いし、体から力が抜ける。
だがまだ霧はある。
這ってでも進もうとするも力はもう入らない。
声を上げようにも掠れて空へと消える。
俺の意識が……消える。
(よく頑張ったな。最後は任せろ)
黒守が動き出し先端を前方の地面に突き刺し髪を戻す要領で、体を前に投げ飛ばす。
そうして霧の外に辿り着いたのだった。