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悪魔討伐

 今日も依頼をこなそうと冒険者ギルドに行く。

 人が集まっており奥が見えない。

 何かを話しているようだ。

 なんでも、森に何やら悪魔が現れたらしく、そこで討伐軍を募っているらしい。

 現在騎士団が先行して戦っているが厳しい。

 活躍度に応じて報酬が与えられるが、非常に危険で逃げたければ逃げろとのこと。

 ただ、街への恩義を少しでも感じているなら残って欲しいと。

 俺はここに来て助かったので、討伐軍に参加しようと思う。

 つよしは悩んでいるようで俺に相談する。

 俺が戦うことを伝えると、つよしも戦う決意をしたらしい。

 ここで逃げれば最強にはなれないとも言っている。

 何故最強になりたいのだろうか。

 今度聞いてみるか。

 冒険者の中には、死にたくないからと言って去っていく者もいるが、ほとんどは残るようだ。

 参加することを伝えると、感謝されるとともに討伐軍に連れてかれる。



 まとめる人から討伐軍は、本隊と遊撃隊と残党狩り用の部隊があり、C級冒険者は残党狩りの部隊に行くと聞かされ、森の前に案内される。

 10人ほどが並んで戦っている。

 敵は狼や熊などの獣からゴブリンやオークなどの魔物までいる。森から逃げてきたようだ。

 俺が前に森で獣に会ったのも悪魔が原因だったということか。

 獣は怯えており簡単に倒せたが、魔物は怯まず向かってくる。

 だが俺たちは、負けることなく戦い抜くことが出来た。


 戦いは夕方ごろまで続いたが、俺は魔力も体力も残っている。

 悪魔を討伐したという報告はまだない。

 何度か森から負傷者が現れることもあったが、それも減ってきた。

 かなり苦戦しているようだ。

 魔物達が現れなくなったので、一先ず休憩しているとつよしの表情が青ざめているのに気づいた。


「く」


 言い終わる前にズドン、という音が響いた。

 左方向から圧倒的な存在感が現れる。

 自分がちっぽけな存在に思えて体がすくむ。動けない。


「俺はS級冒険者。悪魔を討伐しにきた」


 呆然とともに周囲は喜びに包まれる。

 つよしの表情からも警戒が消える。

 ゆっくりと首を動かして視線を向ける。

 深い紫色の髪に白い肌の男。森へと歩き出す。

 足音が響くとともに、静けさから、俺たちが彼に目を取られ、息を呑んでいるのに気づいた。

 これが、S級冒険者ということか。

 思考が回る。S級冒険者という証拠はあるのか、何故このタイミングで、依頼でどこかに行っていたのか、強いと彼のように周囲を圧倒する存在感があるのか、悪魔はどうなのだろうか、ここからは悪魔の存在は感じ取れない、遠いからか。



 S級冒険者が森に入り少しずつ遠くなっていくのを感じるとともに俺たちから緊張が薄れていく。

 皆、興奮したように話し出す。

 S級冒険者はそれだけ珍しいのだろう。


「つよし、何を警戒していたんだ」


「S級冒険者が現れる直前、現れる方向から殺気を感じたんでな。それが魔物や恐らく向こうにいる悪魔のものに似ていたんだ」


「人とは違うのか」


「獣人は真っ直ぐだが、魔物はクネクネしているんだ」


「…ならあいつは…魔物ってことか?」


 念のため小さな声で話す。


「かもな」


「なら人間が危険なんじゃないか」


「それは…」


 もし後ろから襲いにきてるなら騎士団が危険になる。彼らに助けられた以上、俺も助けなければ。


「行くぞ」


 俺が走り出すとそれにつられるようにつよしが続く。


 森を進んでも誰もいない。魔物も見張りもいない。

 見張りは俺たちが居たから必要なかったとして、魔物がいないのはS級冒険者によるものか。

 森は地面がでこぼこしているが依頼をこなしてきたおかげで転ぶことなくするする進む。


 かなり進んだ頃、段々と音が聞こえ始める。下がれ、や、今だ、など戦闘音がする。悲鳴も聞こえる。

 道中、ぐちゃぐちゃになった死体を見つけた。

 もう敵の攻撃範囲かもしれない。一度立ち止まり戦闘準備をすると、S級冒険者が着いたであろう声が薄らと聞こえる。

 そこから悲鳴などは聞こえない。

 つよしを見ても異変はない。

 そのまま戦闘に参加したのだろう。

 なら大丈夫か?


「どうする、行くべきか?」


「いや、音を聞いた感じ大丈夫そうだ」


 だが、魔物である可能性を考えると…


「やっぱ行くぞ、危険かもしれないから下がってもいい」


「いや俺も行く」


 さらに倒れている人が増える。悲惨だ。

 生きてる人がいるかもしれない。


「つよし、警戒を頼む。大丈夫ですか」


 包帯を取り出しつつ声をかける。

 傷のせいか返事がない。


「来るぞ」


 つよしが叫ぶ。構えとともに振り向くと闇隠がいた。良かった。生きている。ここまで死体を見過ぎた。ただところどころ傷がある。


「何故ここにいる、夢貫。C級冒険者なら森の外が担当のはずだ」


「今行ったS級冒険者が魔物かもしれない。警戒を頼む」


「それは…冒険者カードは本物だった。だが確かに変身魔法を使っている可能性はあり得る。助かった。後、ここにいるのは全員死人だ。もう確認した。今はここは危険はないだろうが戻れよ。邪魔になる」


 確かに俺を庇って攻撃を喰らう可能性がある。なら戻るか。


「ああ、分かった」


 そうして森を出て、待機する。

 それからしばらくして、戦闘が終わったのか、大勢が森を出て来る。

 死体も抱えている。

 闇隠など若い兵士は生きているが老兵はほとんど死んでいた。

 あのS級冒険者はいない。

 戦闘にいるガタイのいい人が声を上げる。


「悪魔を討伐したぞ!!!」


 そこから歓声に包まれる。


「ただ、あのS級冒険者、才電(さいでん)は魔人だった。森への警戒は解くなよ」


 周囲は驚きに包まれるが疲労からか質問は控えて、帰ることを優先して歩き出す。

 S級冒険者が襲ってきてどう対処したのか気になるな。いつ攻撃してきたのかも。

 俺は詳しい事情を知るため、闇隠に近づく。


「闇隠、どうなった」


「悪魔を倒す瞬間、S級冒険者の姿が変わった、魔人へと。恐らく変身魔法を使う力が尽きた影響だ。一瞬だったがお前の言葉通り警戒していたおかげで気づくことができた。ここで仕留めなければ危険だ。仲間に声をかけつつ攻撃したんだが、気づかれて避けられた。そのまま魔人はどこかに逃げていってしまった」


 向こうからは襲ってこなかったのか。

 対処できた理由は納得できたが、攻撃すべきだったのか? 

 もしかして俺は悪い情報を伝えてしまったんじゃないか。


「悪魔との戦闘で疲弊しているからな。追うのは諦めて戻ってきた。とはいえ危険だ。戻ったらすぐに国境を封鎖し、警備の強化。他の国にも伝達する必要がある。明日から討伐部隊を再び組みむ必要もある」


「本当に敵なのか。相手から攻撃してきたわけではないんだろう」


 闇隠は呆れたような顔をする。


「これまでの歴史で魔人が友好的であり続けたことはない。時には裏切り、騙し、我々に危害を加えてきた。…何か裏があるに違いない」


「そうか」


 そこで話を区切る。これ以上は魔人が悪だということしか分からないだろう。

 確かに更なる信頼を得て、王にでもなる気だった可能性はある。

 だが、どうにも納得いかない。

 このモヤモヤは、俺が伝えたことでS級冒険者から居場所を奪ってしまったかもしれないことからくる罪悪感からだ。

 もし彼が善ならば助けなければならない。

 黒守、本当に人に敵対しない魔人はいなかったのか?


(ごく僅かだがいた。ただそいつがそうかは分からん。それほどに少ない)


 なるほど。




 つよしを連れて隊の端に行く。


「あのS級冒険者から感じたのは本当に魔物と同じなのか?」


 つよしはどこか嬉しそうな顔をしている。

 なんだ?


「そうだな…初めは確かに魔物と似ていた。ただ、俺たちに気づいた後はすぐに消えた。むしろ優しささえ感じたな」


 S級冒険者の方から敵対したわけではない。

 魔人にも善人はいる。

 気づいた後は善意を向けていた。

 ならやることは決まっている。


「助けるぞ」


「だよな」


 つよしがニヤリと笑う。

 俺が助けるって予想していたのか、こいつ。


 今すぐ行けば闇隠に心配をかける。

 かといって戻ってからでは門を封鎖されるかもしれない。

 それにどうやって助けるのか。

 食料もないし、保護するとしてどこに行くのか。

 そもそも俺たちが行っても意味がないんじゃないか。S級冒険者なんだし、自分でどうにかできるんじゃないか。

 逃げたらしいし、行かなくてもいいんじゃないかな。


 うーん……




「で、どうやって助けるんだ」


 つよしが期待したようにこちらを見る。

 俺のせいだし、もう一度考えるか。


 まず、あいつが困っているのは何か。場所だ。魔人の身で人の国にいたってことは魔人の国を追放されたとかだろう。どうするか。


「魔人を受け入れてくれる国はあるのか」


「魔人の国ならあるな。そこに行くのか?」


「いや…他にはないか?」


 つよしが唸る。


「まあ、なくてもいいか、俺たちが一緒にいれば」


 それが居場所になる。


 考えている内に思考がまとまってきた。

 取り敢えず街に戻るか。

 門は、別の街に逃げると言えば出れるはずだ。

 それで食料と地図と包帯でも持って行くか。



 正直不安だ。

 まだS級冒険者がどういう人間か確定していないからな。

 まあ、善人であればいいな。

 もし敵なら……


「つよし……あの魔人がまだ善人かは分からん。危険だ。

 だから……俺1人で行く」


 お前の役目は魔人が善意を向けていたという事実を伝えてくれたことで十分だ。


「ダメだ。お前には借りがある。見捨てることは出来ない」


「分かった。ただ、危ないと判断したら俺を見捨てて逃げろ。

 最強に…なるんだろ」


「ああ、勿論だ」


 嘘をついているようには見えない。

 なら…大丈夫だろう。

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