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第2章掲載開始)夢見る乙女は、記憶をのぞく。  作者: 蝶乃 ゆゆ
第2章・夜明けをずっと待っていた。
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第3幕 ― ⑪「実験体」

  「第五班は実験的な班。きちんと功績を出さなきゃ、有無を言わさず潰される組織。……聖奈ちゃんの言いたいこと、分かるよね?」



「……はい」



 有無を言わさず絶対的な圧力に、私はしぼみきったような小さい声で返事をした。聖奈さんは、煮え切らない私の態度に気付いたのだろうか、短くため息を着く。ぐいっと頬を持ち上げるように頬杖を着くと、こちらをじっと見つめてきた。



「それで、今回はなんで先走ったのか聞いてもいいかな? 一緒に組んだペアの実力も、対立した魔獣の危険度も、事前に分かっていたよね♪」



 聖奈さんはるんっと音がはねるように、軽やかな声で話しているように見えるが、眉間には僅かにシワが寄っている。普段からにこにことしていて、自分の気持ちを隠すのが得意な印象があったけど、今回の件はかなりご立腹なのがすぐに分かった。だけど、私も私で意見を変えるつもりは全くなかった。



「別に、勝てると思ったからです」



「んんん。まぁ、結果的に勝てたけどねっ!?」



「でも、勝てたんで」



 ぶっきらぼうに言葉を紡いでは、乱雑に吐き捨てた。結果良ければ全て良し、という言葉はまさにこういう時に使う言葉。自分自身が多少の怪我は負ったものの、ペアの子はほとんど無傷。犠牲者を出すことなく、任務は完了していたはずだけど、聖奈さんは無茶をしたというのが気に食わないのだろう。



「……千鈴月乙女隊員って、意外と脳筋戦術の魔女だよね」



 聖奈さんはわざとらしく大きくため息をつくと、テーブルに肘を置いて頬杖を着く。むにぃっと頬肉を持ちあげて、じぃっと目を細めて私を見つめた。いつもニコニコと笑顔を崩さず、不機嫌な姿を見せない聖奈さんらしくない振る舞いに見えた。



「第五班は性格に難アリの問題児を集めた組織だけど、実力だけは折り紙つき。自分だけ無茶して傷付くっていう考えは、聖奈ちゃん好きじゃないな♪」



「……でも邪魔になる存在が増えるぐらいなら、自分自身が無理した方が良いと思うんですけど」



「その意見も一理あると思うよ? でも、聖奈ちゃんの理念とは異なるんだよね♪」



 話し合いは、どれだけ重ねても平行線に見えた。


 例えそれぞれの班員に、聖奈さんが認める実力があったとしても、足並み揃えて戦うことは難しい。何故ならこの班にいる人員は殆ど、協調性に欠けているということで、この班にやってきた問題児だからだ。一つの行動を行うにしても、十人十色がしっくりとくるのうに、全ての行動が揃わない。それなら初めから、単独で戦うことを基盤にし、戦術を組んだ方がずっとやりやすかった。



「……改善する気はある?」



「ないですね。そもそも、そんなに合わせて欲しいなら、みんなが私に合わせればいいと思います」



「わー、すっごい傲慢な考え方。でも、変わる気はない、か♪」



 その言葉を紡いだ俊寛、辺りの空気が一変する。


 頭の中にばくばくと大きな音を立て、警報が鳴る。どうしてなのか分からない。だけどなんとなくで私は反射で素早く袖を振って、隠していた杖を取り出していた。急いで元の大きさに戻し、僅かに杖先を上に向けるように調整したが、私よりもずっと先に聖奈さんが魔法を展開させた。



「【ノン・メ・トゥラデトゥ】」



 何も無かったはずの床から、大きな星が描かれた魔法陣が展開される。ぴかぴかと奇怪な文字がかかれたそれは、聖奈さんとよく似た魔力を帯びたと思った瞬間、燻したような色をした鎖が伸びてきた。足元に氷のように冷たい鎖が、じゃらりとまとわりつき、体制が大きく崩れる。そして次には体が倒れないように、それぞれの四肢をぴんと張るように固定した。


 慌てて鎖を断ち切ろうと、握っていた杖で魔法を展開しようとするが。



(……手首に力が入らない)



 握ったり、離したり、最低限の動作は出来ても強く力を込めることが出来ない。手首の可動域はあるはずなのに、がぐんと狭くなったみたいだった。まるでサポーターや包帯でぐるぐる巻きに、固定されているよう。いや、鎖である程度下向きにされているものの、それとはまた違った力の入らなさがあった。



「この鎖は、聖奈ちゃんのユニークマジックお手製・時限式拘束魔法陣♪一時的に筋力を落として、簡単には抜け出せないように作ったんだ」



 聖奈さんは、カラカラと椅子を後ろに引いて立ち上がる。高いヒールをコンコンと軽快に鳴らしながら、私に向かって歩き出した。



(ユニークマジックって、時限式でも発動出来るの!? )



 聖奈さんのユニークマジックの概要は、第五班の人間なら嫌でも理解させられてる。どんなものでも命令を入力して、意のままに操るもの。ただ一つ普通じゃない、と感じるのが半永久的な拘束力も持ち合わせているということ。


 まだ短い人生しか歩んでいない私だけど、聖奈さんの異質すぎるユニークマジックは、いつも驚きでしかない。だけど、それ以上に驚くべきところはある。



(この人、なんでもあり化け物じゃないの! )



 聖奈さんが言っていた通り、この第五班は実験的に作られた班。能力値は高いものの、性格等に問題があり才能を持て余している、魔法使いや魔女を実験的に集めた班だ。その能力が正しく使われれば、魔法界にとって有益であるという、魔法学会と警察の判断によって。だけど、そんな問題児を束ねるのは、私もそこまで歳の変わらない魔女。噂は耳にタコが出来るほど沢山聞いていたが、どれもこれも遥かに想像を超えてくる。



(だけど私のユニークマジックなら、杖が無くても対処出来る……! )



 私は身を捩るフリをして、左手を聖奈さんから見えないように後ろへと動かそうとした。しかし、またすぐに聖奈さんが軽快にしゃらりと杖を振った。その瞬間、魔法陣からさらに鎖が伸びてきて、私を捕らえる。



「無駄な抵抗はやめようね、すっごく見苦しいからっ」



 まばたきよりも早いスピードで飛んできた鎖は、左右それぞれの指先に絡みつく。パーの形にするようにぐっと開かれ、握っていた杖がからんと音を立てて落ちる。



(完全に動きを封じられた! )



 聖奈さんの視線に注意しつつ、バレないように素早く動いたつもりだった。だけど、私の手の内を理解している聖奈さんにとっては、次の行動を読む。っていうのは、赤子の手をひねるよりも簡単なのかもしれない。



(せめて、指先についてる魔呪具が取り外せてたら……! )



 身につけてるアクセサリーのタイプは、全部で三つ。ネックレスとピアス、そして指輪。ネックレスとピアスは腕を大きくあげなきゃいけないなら、どれを使うか悟られる可能性が高くて、現実的じゃなかった。唯一手軽に操作出来るのが指輪だったのだが、こうやって拘束されていたら手も足も出なかった。



「……こんなことまでして、何が目的なんですか!」



「目的? 悪い子にはおしおきして、間違ってるってちゃーんと分からせないといけないな♪って、思っただけだよ」



「私は別に間違ってることなんて……!」



 私は必死に身を捩り、鎖から抜け出そうと試行錯誤するが、その努力は虚しい。ばたばたと暴れるように抵抗すればするほど、聖奈さんは軽快な笑い声を零す。目を細めて、唇が大きく弧を描く。眉はとろりと垂れ下がり、愉悦の色を練りこんだような表情だった。



「間違ってるから、弱いんだよ♪」



 聖奈さんは私が手放した杖を、壁側に寄せるように蹴り飛ばした。


 魔法は杖がなければ成立せず、相手を無効化する、最も簡単で、確実な方法。聖奈さんはどんなに優勢な立場であっても、抜け目がないその振る舞いは、実力に直結している。



「強かったらこんな簡単な罠にもかからないし、怪我することも、聖奈ちゃんに負けることもない。ぜーんぶ、間違ってるからこうなってるんだよ」



 聖奈さんは、杖を持っていた手とは反対の手で、私の両頬をぐっと中心に寄せるようにつまみあげる。アーモンド型の鋭い爪が頬を突き刺し、僅かな痛みを感じた。



「人は魔法を使う時、ただ無条件に使うよりも、条件を課した方が反動で強い効果を得る。使いにくいユニークマジックは、使いやすく偽っちゃえばいいんだよ♪」



 聖奈さんは、私を見ているはずなのに見ていない。


 翡翠の色をした瞳は、いつもは宝石のようにきらきらと輝きで見えるはずなのに、今はどんな光も見えなかった。言葉はどれだけ平常に振舞っていても、態度は聖奈さんの心を体現する。


 視界の端では、腕ぐらいの長さのある杖を、くるくるりとペン回しをする要領で器用に回す。その姿はまるでバトンを扱う少女のように無邪気で華がある。だけど、聖奈さんが醸し出す雰囲気はいやでも不吉なものだった。


 聖奈さんの正確は歪そのものだ。言葉は酷く残酷なのに、純粋な正義感が生み出す行為がそこにある。平和と秩序を誰よりも重んじており、悪者がそこにいれば誰であろうと粛清する。



(聖奈さんのされるがままになるのは、良くない気がする……! )



 確信なんて、どこにもない。長い時間付き合ってきた訳じゃないし、聖奈さんの意図に踊らされるように勧誘され、いつの間にかNorthPoleに入っていた。そんな策略家であるこの人のことは、短い時間ながら嫌でも理解しているつもりだった。私をあそこから連れてきた、聖奈さんのことは。だからこそ、胸の奥からふつふつと湧き上がる違和感が、ものすごく恐ろしい。嫌だった。



「はな、して……!」



 必死に身を捩って、何度も何度も抜け出そうとする。だけど、聖奈さんの言う通り、鎖によって筋力を低下させられているのか、上手く動くことが出来ない。


 聖奈さんはすっと目を細めると、迷わず私の心臓部分に向かって杖先を突きつける。ぐいっと押し込むようにすると、ぴかぴかと警告を示すように黄緑色の光が辺りに充満した。聖奈さんの歪な魔力が辺り一面に広がり、ぶるりと背筋が震える。



「だから実験させて、ね♪」



閲覧ありがとうございました。

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