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第2章掲載開始)夢見る乙女は、記憶をのぞく。  作者: 蝶乃 ゆゆ
第2章・夜明けをずっと待っていた。
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第3幕 ― ⑩「必要な情報と揃った条件」

「何言うてるん、お姉さん?」


「言葉の通りよ。私の瞳以外には姿形が映らないところから推測すると、幻覚系の魔法ってところだと推測出来るわね。……間違ってる?」



 すっと目を細めて、私は偽物を睨みつけた。

 氷のように凍てつく眼光から、偽物は逃れることもせずわざとらしくため息を零す。両手を大きく広げて、呆れたように手をひらひらと振った。



「バレてるんやったら、もう取り繕う必要はあらへんかなぁ。そやけど、自力で幻覚を破るなんて、お姉さんのこと甘う見とったで。一応闇魔法と幻覚剤の合わせ技しとったんやけど」



 全ての属性がもつ特有の魔法は、術者によって精度に差があるものの、効果内容は変わらない。

 実際に一度、同じ魔法をみたことがある。

 言葉巧みに幻覚が、対象者を操る魔法で、鏡などにはその姿は映らない。そしてあくまでも偽物であるため、幻覚自身が魔法を使えないという制限がある。また、魔法の発動条件も術者が強くイメージし、対象者の心が不安定な状態じゃないと成立しない。


 その上、緋彩は保険をかけるみたいに、幻覚剤を併用している。簡単に見破られないように、深く、強く、強固に魔法をかけたかったことの証拠だ。



(闇属性を使う人が少ないから忘れてたけど、本物と簡単に見分けられないほど精巧なのね)



 数々の状況証拠が無ければ、簡単には見分けられなかった。それに、ここで偽物が言葉巧みに操ろうとするものなら、私はそれに誘われていた可能性だって捨てきれない。



「本物の緋彩はどこにいるの」


「それ、教える意味ってある?」



 何度も見てきた、笑い方のはずだ。だけど、いつもとは決定的に何かが壊れていて、焦点が合わなくなった瞳は強い狂気を孕んでいる。ぞわっと全身を逆撫でするような、違和感は気持ちが悪かった。

 追いつけない感情の中、突然杖を掲げた。



(何をする気!? )



 素早く杖先を私へと向けた。その動作には迷いが見えず、私のことを完全に敵だと認識しているように見える。だけど、幻覚はあくまでも幻覚。魔法なんて使えるはずがない、というのが常識。だけど、先に体が動いていた。



「【テネブラエ・フェルルム】……」



 追いつけない感情の中、何故か避けなければと直観的に感じた。

 私は床を勢いよく足で蹴り、座っていた椅子を後ろへと飛ばす。ギギっと嫌な音が鳴り、私と緋彩との距離を作り出した。



「……【トト】」



 次の瞬間、白いもやもやとしたものが、刃という形となって一直線に飛んでくる。私は勢いよくテーブルを上へと向かって蹴り上げると同時に、床へと滑り込むように椅子から降りた。高く上がったテーブルは、嫌な音を立て横一文字に切りつけられた。



「嘘、でしょ?」



 木くずがぱらぱらと落ちてきて、私の頬を汚していた。


 嫌な予感ほどよく当たるとは、まさにこのことなのだろう。

 心臓がどくどくと大きく音を立て、頭にまでけたたましく響き渡る。だけど、血の気はさーっ引いていき、上手く息が出来なかった。指先が僅かに震えていたが、頭だけは状況を冷静に分析していた。


 私は見失わないように、切られた机の隙間から、緋彩の姿を捉える。決して視線は動かさず、素早く慣れた手つきで腕を振っては、杖を取り出す。



(器が、なんて言ってられない……! )



 私の使っている杖は、ロッド。

 普通のサイズよりも大きな杖で、様々な効果を持つモチーフが付けられている。その中には魔法具もつけていて、戦術を多様化させることも可能だ。もちろん普通に魔法を使った方が速いから、こういう時用の緊急道具といったところ。


 私はするりと腕を伝って降りてきた杖を、逃さないようにするため、僅かに視線を下げて確認をする。手のひらに落ちてきた杖をぎゅっと握りしめると、パッと顔をあげる。だけどそこにはもう、誰もいなかった。



「……え?」



 肺を抜けるような、間抜けな声が漏れる。だけどその後に続く言葉は、ぎゅっと押し込められたような、腹部の圧迫感によって生まれない。ぐるぐるりと視界が歪み、見えていなかったはずの足元と、私をじっと見つめる光のない白瞳が見えた。


 体が飛ばされる勢いと、指先の力は釣り合わなくて、するりと杖は抜け落ちる。カランと落ちる音とほとんど同時に、私の体は勢いよく窓へと叩き付けられた。ガラスの表面は、部屋の照明によって波打つように模様を作り、強い衝撃を与える。


 体は床に叩きつけられ、ちかちかと視界の端に星が舞う。このまま横になり続けちゃ行けない、と思って体を動かそうと必死に脳が指示をする。早く動かなきゃ、早く。と、逸る気持ちで、何度も呼吸を繰り返す。



(これじゃあ、分身と何も変わりないじゃないの……)



 幻覚魔法の概念が崩れていく感覚を覚える。本来、言葉だけのはずなのに、触れたり、魔法を使ったりできる幻覚魔法なんて聞いたことがない。それどころか、緋彩の戦闘力も格段に上がってる気がする。



「お姉さん、何されたか分からへんて顔してるなぁ」



 緋彩の声に反応するように、パッと顔をあげる。緋彩は僅かに目を細めて私をじっと見ていた。その瞳は黒々と曇っていて、光すら映していない。見た目は緋彩そのものなのに、その雰囲気は全く違うものだった。


 痙攣するようにぴくぴくと筋肉が収縮し、心臓の音がけたたましく頭の中に響いてくる。心は何も見つけられない海に、無防備で放り込まれたようにずんと重い。



「大人しゅう、眠っとったら良かったのに。ほんならオレはお姉さんのこと傷つけへんで済んだんやわぁ? そやさかい次は、オレの言うことちゃんと聞いて、また一緒に楽しい夢へ戻ろ」



 緋彩はコンコンとつま先を床に当てて、音を鳴らす。いつも通りの抑揚のない、とろりとした優しい喋り方。じっと見つめる白瞳は、僅かに闇を宿していて、いつも私を見つめているようなものとはかけ離れている。


 Reliefのユニークマジックで見ていた夢の中で、偽物の私は私の姿をしながら、私が絶対に言わない言葉を紡いでいた。きっと、根本の魔法は変わらなく、言葉巧みに対象者を困惑させるものなんだろう。


 だけど、こういう魔法には必ず制限が存在する。本来、幻覚魔法が魔法を使えないというのと同じことのように、何かしら打開策が転がっているはずだ。



(ありとあらゆるケースを考えなさい、私)



 戦闘において、足りない力を補うのはいつだって頭脳だ。


 戦い方を工夫して、可能性を見い出せば、どんな制限下であっても、勝ち筋が見えてくるはずだ。


 そこまで頭の中を整理出来ると、私は自分自身の考えを初めて嚥下出来た。


 いつのまにか自然と、口元が緩む。ゆるりと唇に弧を描き、目を大きく見開いて緋彩のことをじっと見つめた。



「所詮、偽物は偽物なのね」


「は?」


「言葉の通りよ。私の知ってる緋彩は、絶対にそんなこといわないもの」



 どれだけ形を真似たって、幻覚は幻覚で偽物だということを嫌でも理解させられる。言葉巧みに惑わす偽物という存在だからこそ、嫌だった。



「周りに迷惑をかけたくないくて、人に頼るのが下手。それでいて、絶対に恩を忘れない優しい人。そんな緋彩だから、私は知りたいと思ったの」



 大きな声を上げて、私は思いの丈を叫んでいた。普通なら絶対、挑発するようなこと言わない方がいい。だけど、相手が冷静さをかけばかくほど、こちらが有利になる。眉がキリッと上がり、私は鋭い眼光で幻覚の緋彩を睨みつけた。


 Reliefのユニークマジックで見ていた夢の中で、偽物の私は私の姿をしながら、私が絶対に言わない言葉を紡いでいた。きっと、根本の魔法は変わらなく、言葉巧みに対象者を困惑させるものなんだろう。


 だけど、こういう魔法には必ず制限が存在する。本来、幻覚魔法が魔法を使えない。というのと同じことのように、目の前の緋彩にもきちんと制限があった。



「貴方は私の知っている緋彩じゃない。記憶も時間も共有してない。幻覚なんて言葉はもったいない、ただの皮が同じなだけの偽物よ」



 緋彩は私の言葉に対して、すっと瞳を細めた。僅かに首を傾げ、口角がぴくりと痙攣する。



「共有する必要がなかっただけで、オレはぱちもんとちがう!」



 ギリっと歯を食いしばるような音を鳴らすと、勢いよく目を見開き、杖をこちらへと突きつけるように向けた。普通なら絶対に焦る場面のはずなのに、私の頭は妙にクリアだった。

 事実だけを客観視して、勝てる道筋を導けるぐらいには。


(……必要な条件は全て揃った)



 事実だけを客観視して、勝てる道筋を導けるぐらいには。

 無意識に唇が緩み、ゆるやかな弧を描く。私は無意識に耳元をしゃらりと振って、過去の記憶をのぞいていた。



閲覧ありがとうございました。

気に入って頂けたら是非、ブックマークを宜しく御願い致します。来週の書き溜めも終わっていますので、予定通り更新出来そうです。

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