表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第2章掲載開始)夢見る乙女は、記憶をのぞく。  作者: 蝶乃 ゆゆ
第2章・夜明けをずっと待っていた。
46/48

第3幕 ― ⑦「るるの魔法」

 唯一結界を張っていない入口から、ガチャっと扉が開く音がした。コンコンと低い靴音が聞こえて、音のした方に耳をじっと傾ける。靴音の持ち主は、マンションの長い廊下を歩き出したため、るるは隠れていた陰から、そっと身を現した。



「やっぱりぃ、来ちゃうよねぇ」



 ひゅっと短く吹いた、冷たい夜風。艶のある金髪がひらりひらりと靡く。柔らかい色は、差し込む月明かりによって、きらきらと様々な表情を見せていた。



「るる、さん……」



 ひーくんは、るるの名前を呼んでいた。ゆらゆらと動揺の色を帯びた、瞳を大きく見開いたのは一瞬で、すぐにじっと真っ直ぐにこちらを見つめる。僅かに動揺した声色を発したはずなのに、すぐに警戒の姿勢をとる。

 視線をきょろきょろと動かして、ひーくんを取り巻く異変に気づいた。ひーくんは迷わずフェンスの上へと手を伸ばして、確認をする。ごんっと何かにぶつかった鈍い音が響いて、視線を僅かに落とす。



「……結界」


「そうだよぉ。下のエントランスホールからじゃないとぉ、外には出れない仕組みなんだよぉ」



 分厚いガラスを敷いたような結界は、るるお手製のもの。どれだけ魔法で攻撃しても、結界は破られない強いもの。


 るるは利き手でドーナツのような形を作ると、迷わず左目に当てた。そして、その間からじっとひーくんを見つめていると、見えないはずのものがじわじわと見えてくる。



「……るるはねぇ、悪賜の恩恵でオーラ見えちゃうんだぁ」


「オーラ?」


「簡単に言うとぉ、死相みたいなものかなぁ?おねぇさんにもそれはうっすら出てたけど、ひーくんはすっごーく色濃かったからぁ、絶対来ると思ったんだぁ」



 輪を通して見たひーくんは、渦巻く黒い何かが強く蠢く。鋭く突き刺すような感覚は、向かってるだけで息苦しくなるほど、酷く強烈なものだった。



(やっぱりぃ。おねぇさんも異質なオーラだったけどぉ、ひーくんのオーラはただただ怖いなぁ)



 るるとひーくんが出会った時のことが、ふわふわと頭の中に思い浮かんできた。

 るるはひーくんとは初めましてだったけど、抱えていたおねぇさんのことはよく覚えていた。傷だらけの魔力の器は、魔力を察知する能力が高いるるにとっては、すぐに分かった。だけどひーくんからは、何も伝わってこなかった。

 普通なら警戒するのは、けーくんと知り合いで、お迎えに来たおねぇさん。NorthPoleの人間で、魔力量も多い。素人目にも分かるぐらい、異質なオーラを持つ人。だけど、るるが無意識に警戒していたのはひーくんだった。


 その時、理由はすぐにわからなかったけど、オーラを見て考える暇もなく分かっちゃった。


 全部を飲み込んじゃうような、とっても大きいやつ。全部を闇に染めちゃうぐらい、真っ黒な色はまるで黒曜石みたい。なのにオーラは霧みたいに、もやもやと広がっては、ぐるぐると回る。



「今ならまだ引き返せるよぉ?おねぇさんにしたこともぉ、うまーく黙ってぇ、誤魔化してあげるぅ」



 僅かな傷から体の中に入り込んでくるような、異質なオーラ。べったりとくっついて、離れなれてくれないような、息苦しさを感じさせる。近くに行きたくないと、本能が警報を鳴らしている。



(しなくちゃいけないこととぉ、したくないことの距離が近くて嫌になるねぇ)



 ひーくんは一度視線を地面に落とした。だけど、すぐに顔を上げて、るるのことをじっと見つめた。きゅっと眉が寄り、真剣な眼差しはがるるを突き刺す。夜風がぴゅっと吹き、オーラは膨張するように大きくなっていた。ひーくんは迷うことなくポッケへと手を入れれば、杖を取り出していた。



「オレの邪魔をするんやったら、無理やりにでも通る。これ以上、おねえを傷つけたない」



 杖先を私に向けて、威嚇する。初めて聞く、おっとりとした柔らかい声じゃなくて、鋭く、冷たい声だった。じっと見つめるその視線は、僅かに動いただけでもぎょろりと追いかけてくる。

 その驚異的な警戒心は、杖先に輝く魔法石が証明しているような気がした。



(人殺しの魔法使いっていうのはぁ、本当だったんだねぇ)



 真っ白に輝く魔法石は、月夜に反射して歪な光を零す。透けて、反射して、地面にはゆらゆらと海に揺蕩うような、幻想的な波模様を作り出す。


 白は、確認が必要な色。

 白の魔法石は存在していなくて、人を殺して初めて生まれる特別なもの。ひーくんは、おねぇさんよりも異質なオーラなのに、魔力をほとんど感じなかった。杖といい、漏れ出す魔力といい、オーラといい、面白いところが沢山ある。



(ちゃーんと強い人なんだねぇ、ひーくんも)



 くつくつとした笑いが、胸の奥から湧き上がる。争いは好きじゃないし、人を傷つけるのは嫌い。だけど、人殺しの魔法使い、それも魔法石に人の魔力を取り込むなんて、普通の人間がやることじゃない。



「……そんなにぃ執着されるなんてぇ、羨ましいかもぉ」



 ふっと漏れだした本音は、意図せず言葉になる。誰にも聞こえないぐらいの小さな声は、るるの心をゆっくりと整理していく。



(でもぉ執着の仕方が歪でぇ、ねちっこいぃ。るるとは違ってるからこそぉ、面白いねぇ)



 全神経を尖らせるような集中力の源になっているのが、全部おねぇさんの為ってだけ。でも、ひーくんがおねぇさんに向けてるのは、るると同じものじゃない。

 異質な執着から生まれる魔力は、手を抜いてしまえば、一瞬で狩られちゃう。そんな錯覚すら覚えてしまいそうだった。



「いいのぉ?これから戦いに行くって言うのに、必要な魔力を使っちゃってぇ」


「必要経費どす。それにええ準備運動になりそうやさかい」


「舐められたものだねぇ。サボってはいるけど、るるは一応魔法学会の魔女なんだけどなぁ」



 るるは短く、息を吐く。


 そして気合を入れるように、ポッケの中へ手を入れた。ポッケの中には、白と桃が混ざったようなマーブル模様の箱と、英字が刻印された銀色のライターが入っていて迷わず取り出す。

 指で弾くようにして、その箱をぽんっと叩く。そして、中から一本出てきたタバコを口に咥えては、ライターで火をつける。すーっと息を吸って、肺に煙を送り込む。



(あーあ……手加減したらやられちゃうのにぃ、手加減しなきゃ殺しちゃいそうぉ)



 ぽっと吐き出した煙は、ふらりふらりと風に吹かれて飛んでいく。そして、花びらのようにひらりと散っていく。なんの意味もない煙のはずなのに、どこからかぱちぱちとした音が聞こえ、光と魔力を帯びていく。



(街からも遠い場所だからこそぉ、見えないものが多いよねぇ)



 建物の隙間から注ぐ月の光が、ふわふわと空気中に漂う煙を透かす。そしてまた別の、ぱちばちとした音を鳴らす、何かが月明かりに反射して、柔らかい光を零す。



「その光は……!?」



 大きく目を見開いて、驚きを露わにするひーくんを横目に、るるは、るるの名前の由来を思い出していた。

 虹橋の魔女っていう名前は、るるの魔法を見た人たちが勝手につけた名前。子供たちは、赤、青、黄緑、金色と様々。目標へと駆けていく姿は、まるで虹みたいでとても可愛いらしくて、逞しい。


 るるは持っていたタバコをひーくんの方へ向けると、ぱちっと一瞬赤くなって、タバコの焦げた匂いが辺りに充満する。



(るるはねぇ、誰よりもこの名前が大好きだよぉ)



 ひゅっと風を切るような短い音が鳴り、子供たちが一斉にひーくんへと向かって飛んでいった。きっと一人で戦っていたら、るるはるるじゃなかった。けーくんとも出会わなかっただろうし、居場所を見つけられなかった。るるはるるを信じて、魔法を使う。これは全部、けーくんのためになるはずだから。


 るるは一回、指でタバコを弾いて、灰を地面に落とす。その瞬間、子供たちは迷わずひーくんへ向かって飛んで行った。



(るるの一番得意な魔法はねぇ、草属性を使った魔法でも、ユニークマジックでもない――契約してる微精霊を使う精霊魔法なんだよねぇ)



 微精霊はまだ弱い子供たち。大きな力はもってないけど、その身には各属性の魔力を宿している。単純にぶつかるだけでも、属性の違う魔力は刃となる。



「……っ!【モード:マモン】!!」



 何色でもなかった杖先についていた魔法石は、一瞬で色を帯びる。薄紫色の魔法石は、闇属性の魔法使いであることを示していた。

 無属種である闇属性は、無という言葉がしっくりくるように、主属種と副属種は効果抜群が存在しないから、単純な実力勝負。だけど、この勝負はるるの方に軍杯が上がる。



(卑怯な手かもしれないけどぉ、これがるるの魔法だもんねぇ)



 ひーくんはNorthPoleの人達を助けるために、早く現場へと向かいたいはず。それはおねぇさんを欺いて、一人で向かおうとしていたのが何よりの証拠。

 だけど、足止めを食らってしまったひーくんは、るるが想像してるよりもずっと焦ってる。その焦りが、小さなミスを誘うはず。



「トト・テネブラエ・スクトゥム」



 ひーくんは素早く杖を横へ振って、自身を囲うように盾を展開した。部分展開するよりも、魔力消費をして全身を囲うのは賢い選択だと思う。るるだって、ひーくんと同じ立場だったらそうする。


 るるはタバコを口に加えると、長く煙を吸い込む。口の中に甘さとほろ苦さが混じった桃の味がじんわり広がると、ふぅーっと勢いよく煙を吐き出す。それは余韻を楽しむことをしない、乱雑な吸い方だった。そして、持っていたタバコの灰を落とすように、二回指で弾く。



「んへへ。そんなのじゃぁ、るるの子供たちは止まらないよぉ」



 微精霊は鋭い棘のように変化して、ぐるぐると勢いよく回り始める。ドライバーで釘をとめるように、正確に回転し続けるそれは、単純な魔法よりもずっと高い火力を誇る。


 ひーくんの瞳が僅かに揺れる。動揺の色を帯びた瞬間、るるの子供たちは作り出された盾にぶつかった。ぐるぐると回転して、じわじわと確実な穴を開けていく。



(ぜーんぶ囲うようにぃ盾を作らなかったらぁ、捨てにできたのにねぇ)



 次の瞬間パリンと盾が弾け飛び、四つの光がひーくんの体に傷をつける。ぴゅっと短く血が飛び散り、顔が痛みで歪んだ。それぞれ違うタイプの属性がつける傷は、痛みの種類が違くて、集中力を削がれる。

 綺麗に決まった先制攻撃に、るるは自然と口角が上がるのを感じていた。僅かに目を細め、高らかに宣言する。



「んへへ。生意気な子はぁ、るるがお仕置してあげるぅ」



閲覧ありがとうございました。

気に入って頂けたら是非、ブックマークを宜しく御願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ