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第2章掲載開始)夢見る乙女は、記憶をのぞく。  作者: 蝶乃 ゆゆ
第2章・夜明けをずっと待っていた。
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第3幕 ― ⑥「コーヒー」

 班員全員である六人写っている集合写真から、建物内に残ってる三人の顔をそれぞれタップする。すると、それぞれの顔が切り抜かれたようにドアップになり、私は端の人物から説明を始めた。



「一人目は風早茜寧、第五班の救護担当」



 夕焼けの色みたいな黄色みを帯びた、暗い赤色の髪をサイドに寄せて結び、とろんと垂れた瞳は、茜色と蒼色を混ぜた深赤紫色。制服を一切着崩したりしないところからは、茜寧ちゃんの生真面目さが伺えた。



「炎属性を使う魔女で、とにかく防御魔法が上手いの」


「防御魔法が……?」


「えぇ。攻撃も備えた防御特化のオリジナルマジックを展開するの。正直あそこまで練度が高い、防御魔法はみたことないわ」



 攻撃魔法を特化したものは多いが、防御魔法に特化したものはぐんと数が少なくなる。特に茜寧ちゃんが使う防御魔法はとにかく練度が高く、精巧だ。

 とはいえ、そこに隙がある。



「でも本人は、めちゃめちゃ非力で弱い上に、救護担当ってこともあって戦闘慣れしてないわ」



 防御魔法が、完璧に近いからこそ出てくる、慢心。

 攻撃魔法に関しては五歳児レベルの完成度で、戦闘力はないと言っても等しい。その上、戦闘経験が少ないから、咄嗟の判断は後手に回りやすいものばかり浮かぶのだ。



「……なら防御魔法を展開させる前に、速攻で叩くのんが最適解やな」


「そういうことよ」



 緋彩は顎に手を当てながら、うんうんと話を真面目に聞いていた。私はカップに指をひっかけると、ずんとした重さと、ガラスが爪に弾いて音を鳴らす。いれてくれたコーヒーを一口、また口の中へと運んだ。さっきよりも、人工甘味料のような甘さを感じた。



(この三人の中で一番抑えやすいのは茜寧ちゃんだけど……厄介な点が無いわけじゃない)



 カランと、机にカップを置く音が鳴る。


 戦闘において、どれだけ素早く行動を移し、正しい選択をするというのが、基礎だと言われている。茜寧ちゃんは現場に出ないからこそ、この能力が育っておらず、非情な話ではあるけど、最も有効な手だった。



「二人目は風早蒼唯、第五班の戦闘要員」



 ツンツンと尖ったような蒼色の短髪を、ばっちりワックスで固め、つり上がった瞳は、茜色と蒼色を混ぜた深蒼紫色。四乃に貰ったシルバーのアクセサリーをじゃらじゃらと付け、威圧するようにポーズを取る姿は、蒼唯の威圧感を増す。



「ユニークマジックを多用するタイプの戦闘スタイルで、超近距離戦で勝てる人はほとんどいないわ」


「魔法使いなのに超近距離戦……!?」



 大きく目を見開き、声を少し張り上げる。眉がぽんっと跳ね、感情を隠すことなく表した。



(緋彩が驚くのも無理はないわ)



 大抵の魔女や魔法使いは中距離から遠距離を得意としている。捕まえた彼ですら、間髪入れずに接近戦を挑んで来る訳では無い。なので、分類的には近距離タイプになる。

 私も蒼唯と出会うまで、超近距離を最も身にし、得意とする人と会ったことがなかった。



「えぇ、蒼唯のユニークマジックは任意のものの素材を自由に変化出来るっていうもの。鋼鉄にした手足で、容赦なく殴られるわ」


「そら、厄介やな……」


「だけど対策がないわけじゃないの。蒼唯はユニークマジック以外の魔法は、基本的に使わないから戦術が読みやすいわ。もちろん、それでも倒すことは難しいけどね」


「なるほど」


「オススメは遠距離攻撃で叩くことね。非道な戦術だけど」



 遠くからちくちくダメージを蓄積させるなんて、魔法を愛するものとしてどうかとも思う。

 だけど、蒼唯の間合いに持ち込まれれば、一方的な試合になる可能性の方が高い。現に模擬試合で、双方魔法無し、体術のみ、という縛りであれば、第五班で勝てるものはいない。それほど蒼唯には体術の心得があるのだ。



(それに加えてユニークマジックが、蒼唯に合いすぎているわ)



 身に纏った更迭は、魔力を供給し続ける限り存在し続ける。傷が着いたり変形したとしても、すぐさま修復。魔力と体力が尽きない限り、蒼唯が攻撃の手を止めることはない。たくさんの魔法を組み合わせて戦う頭脳派が苦手な蒼唯だからこそ、脳筋で押し込める戦術がピタリと合うのだ。


 最後に私は、まだ説明していない女性に目を向ける。口にするのすら躊躇うみたいに、心臓がばくばくと慌ただしく音を鳴らす。胸から耳へ、耳から頭へ、けたたましい心臓の音が全身に響く。



(私にとって、呪縛みたいなもの……なのよね)



 緋彩に第五班最大戦力である班長の情報を明かす。茜寧ちゃんや蒼唯みたいに多くの情報を持っている訳では無いのに、名前を口にするだけでも息苦しさを覚える。

 私は自分自身を落ち着かせるように、ふぅっと短く息を吐いた。



「……三人目は十文字聖奈、第五班の班長であり最高戦力よ」



 じっと見つめる白瞳は、私だけを見ていた。

 その視線に気付いた瞬間、ゆっくりと音が遠ざかっていく。慌ただしく鳴らしていたはずの音が、静まっていくその感覚は、自然と心を落ち着かせてくれた。



「対峙した時に分かったけど、魔法の発動全部速い上に的確やったよね」


「えぇ。流石、草属性の魔女って感じよ」



 緋彩の相槌にも、自然と答えられていた。


 草属性を使う魔女や魔法使いは、大抵頭が良い。

 植物の呪文だけでも数が多い上に、適材適所という言葉のように正しい魔法を正しいタイミングで繰り出さなければならない。だからこそ、熟練の草属性魔法ほど厄介な相手はいない。聖奈さんは、正しい選択をし続けられる知力や、胆力があるのだ。



「……だけど最も恐ろしいのは、命令というユニークマジック。詠唱しなければ成立しないという制限はあるけど、草属性の特性と相まって長期戦に持ち込まれれば、持ち込まれるほど不利になるわ」



 相手を拘束したり、相手の魔法を捕食したりと、戦いの中でも受けが得意な草属性。それに聖奈さんのユニークマジックを加えると、ただでさえ幅広い戦術がとれる草属性の魔法がさらに強化される。なのに、更に厄介となるのだ。持久戦に持ち込めばその真価を発揮する草属性が、更に驚異的なものになる。

 ここまで話し切ると、私は肩の荷が降りたように自然と息が吸えていた。私は話を続ける。



「……それに、四乃と景もあの状態になってるって考えたらもっと最悪よ」


「確かにお兄さん達の魔法は脅威かも知れへんね。光属性も闇属性も戦いにくいさかいなぁ」


「共感しかないわ。四乃の厄介さは言わなくてもわかるけど、景も景で厄介なのよね……攻撃を受け流すのが本当に上手いのよ」



 聖奈さんと戦った時もそうだった。

 まるで緋彩の攻撃を分かっていたかのように動かずに、攻撃を上手く受け流していた。景の怪我は想定していたものよりもずっと浅かった記憶がある。



「……でも、私だって無策じゃないわ。第五班の建物内には、私が仕掛けたトラップが沢山あるから、転移魔法陣のある部屋から出ればそれが使えるの」


「なるほどなぁ、あの建物はお姉さんの領域みたいなものなんやな」



 人によって意味合いが大きく異なるけど、領域というのは相手よりも自分自身が有利に戦える立地のことを指す。主に住んでいる場所や、多くのトラップをしかけている場所、稀にその人にとって恩恵がある場所を言う。

 私にとっては様々なトラップを施してある、あの建物が領域に近かった。



「えぇ。他の班員も何個かは知ってるけど、物に頼るのが好きじゃない人達だから絶対に使ってこない、と言い切れる自信があるわ」



 きっと、そういう部分も第五班に配属された理由の一つなのだろう。

 何度か教えたこともあるが、好きに改造してくれと言った感じだった。まともに話を聞いてたのは、建物内にいることの多い茜寧ちゃんだった。だけど、覚えたのは常駐している医務室ぐらいで大した問題にはならない。

 全部、自分の力だけで何とかなる。って思ってる人間たちの集まりなので、覚えてもらうのを諦めていたが、それが役に立つとは思わなかった。



「それに、自室には武器もあるの」


「武器?」


「えぇ。この間はこっそり抜け出してきたから、持っていくのを断念したの。まぁ、私にしか使えないんだけどね」



 緋彩にはまだ、私のユニークマジックについて、色々と話していないことが多い。置いてある武器は全て魔呪具なので、私以外の魔女や魔法使いが触ると、呪いの効果が発動してしまう。なので、さらりとぼかしながら伝えた。



(器が治っても、すぐに酷使したらまた同じようなことが起きる。なら、最低限の魔法で成立する為に武器を取りに行かなければならない)



 体術がままならない状態であっても、魔呪具の効果を引き出せれば制圧することも可能だろう。一切情報のない相手じゃない、私の領域であるという恩恵も大きい。



「……」



 話を一通り聞き終えると、緋彩はぼそっと聞こえないような、小さい声で何かを呟いた。私は一瞬首を傾げるが、すぐに緋彩はぱっと顔を上げて、へらりと笑った。

 ふと妙な違和感が首筋を這い、視界が少し揺れる。

 ぱちぱちと何回もまばたきを繰り返して、違和感を確認する。だけど、何故か心がほっと温まるような気がして、心地よかった。



「お姉さん?目ぇぱちぱちさせてどないしたん」



 緋彩が、目の前で微笑んでいる。

 口角が少し上がった、いつものゆるやかで温かな笑顔。金髪がふわりと揺れて、特徴的な赤いリボンが色を付ける。白瞳が優しく細まっては、私のことを心配している声色はどこまでも優しかった。



「なんでもないわ」



 緋彩につられたように、私の声も自然と優しいものになる。

 だけどふいに、どこからかひゅるっと風が吹いて、冷たい夜風が頬を撫でる。窓は開けてないはずなのに、どこから吹いているものか分からなかった。だけど、その違和感の正体を探すことはしない。

 だってまだ――コーヒーは残ってるから。

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